携帯小説・Sleeper Catcher -74ページ目
<< 前のページへ最新 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74

第2幕・見送り

「山本さんのご先祖様に何か大切な人や物を守るようなお仕事されてた方がいらっしゃいませんでしたか?

大統領のボディーガードとか…」


隆也は左から右へ一瞬だけからだごと向きを変え言った

「ごめん、また今度にして」


からだを元に戻しかけたところで再び右に向き直し

さらにもう一言付け加えた



「それに日本に大統領いないし」



亜紀は目を輝かせ身をのりだした

「今度っていつですか?」



そのときボーイが近寄り時間を告げた。



「勘定締めてください。それから、
車一台15分後、
領収書は今日の日付で宛先は…」


「だめ帰らないで、
延長お願い、
私が払うからねっいいでしょ」

亜紀が口を挟んだ。



困惑顔の隆也…



しばらくの間、

隆也と香、ドクター、そしてドクターの横に座った亜紀ではないもうひとりのキャバ嬢の4人での会話に花が咲き

無事に商談が成立

ドクターに深々とアタマを下げる隆也と香


とりあえず雰囲気でよろこび拍手しながら顔を見合わせ作り笑いをするキャバ嬢たち


ふたたびボーイが近寄り隆也に耳打ちをした



「先生、お車が参りました。
今夜は貴重なお時間を私どもとお付き合いいただきありがとうございました」




(場面は変わり店のエントランス前)


送り出したドクターの車が見えなくなると同時に

腕を大きく振ってスキップするように歩きだす香と

並んで歩みを進める隆也


「なんかほっとしたら小腹すきません?」

香が笑顔で言った




「ちょっと精算ややこしくて店に戻らないといけないから
改札まで送るよ」



間髪入れない隆也の一言に



今までまったく隙を見せなかった香の表情が




一瞬ゆがんだ。



しかしすぐに気を取り直し笑顔を浮かべ言った



「はい、今日はおつかれさまでした、
大丈夫です、
駅すぐそこだし

それよりさっきのホステスさん泣かせちゃダメですよ」


このままだと

明日会社で何言われるかわからない


隆也は弁解した




「初対面だよ、
かわった子で大変だったんだ。
それで戻るわけじゃないから」



香は笑いながら

「はっきり言ってあげたほうがいいですよ~」

「(「僕は奥様一筋だ、さっきの子も相手にされなくていつも泣いてるよ)って。」




「じゃないとリーダーやさしいオーラがでてるから
女の子がみんな誤解しちゃいますよ~」



「じゃ、おやすみなさい」



深々とあたまを下げてから

ふり向くとうつむき加減で
すたすた歩きだす香。




「おやすみ、ありがとう」


今日一日の感謝の気持ちを込めて隆也が香の後ろ姿に発した一声は

距離の割に大きくなった

香は思いがけず大きな声での隆也のねぎらいに



一瞬はっとしたように立ち止まり、


そして顔いっぱいのつくり笑顔で振り返り、




しばらく隆也の顔をみつめたのち応えた



「おやすみなさい」




それだけ言うと再び歩きだす香。



その足取りはいつもの腕を大きく振ったはずむような足取りに戻っていた



駅へ向かう人混みに消える香の後ろ姿を見送ったのち




「おれの気持ち伝わったかな」


そう独り言を口にしにやけながら店に戻る隆也



女心に疎いのか?


わざと気づかぬふりをしているのか?



いずれにせよ隆也は仕事はともかく女は得意ではない

第1幕・亜紀

<そこそこ高級そうなクラブの店内にて>



製薬会社のチームリーダーである山本隆也は34才

部下の村上香とともにドクターを接待中である


香は入社3年目の25才

今日の彼女は髪をきれいに束ねアップにしている



隙のない



それでいて気負ったところのないグレーのパンツスーツ姿でキメている




勘がいいのかそれとも



すでにどこかで経験があるのか


ドクターのグラスが空いてくると


さりげなく間をつくり



女の子に水割りを作らせるタイミングを与えるなど



女同士のからみ方も自然で


違和感がなく場の流れに溶け込んでいる



診療やオペの強いストレスから解放されたドクターに
変な気を起こさせない



でも幻滅もさせない



そんな線をよく心得てくれた出立ちと所作である



いまも能弁なドクターの自慢話に


嫌な顔ひとつ見せず笑顔で対応している




「あの子うらましいなっ」


ふいに隆也の視線の反対側から女性の声がした


隆也のさらに奥に座り


声の主は

黙々と水割りをつくっていた



もうひとりのキャバ嬢亜紀である


いまもドクターのお気に入りの子から受け取ったグラスに

せっせと氷を入れている



多少地味目ながらきれいな顔立ちで

さらさらのストレートヘア


髪を巻くわけでもアップにするわけでもなく


また前髪をにわとりのとさかのように逆立てるわけでもなく


一見キャバ嬢らしくない雰囲気である



すらっと足が長く
適度に起伏があるスタイルは
かなり魅力的である



むしろドクター受けしそうなのだが



以前、別のドクターを接待した際
ちょっとした事で
その晩接待していたドクターをにらみつけ

トラブルになりかけたので



それとなく今夜のドクターから離れた

隆也の右どなりに招き座らせていたのである。




「えっうらましい?
とんでもない
朝から晩まで彼女仕事たいへんなんだよ~

うち給料安いし」



隆也は軽く右から左へ受けて流した



しかし彼女は
隆也の答えが的を得ていないぞとばかりに

強い口調でことばを重ねてきた



「じゃなくて
山本さんにいつも暖かく見守られててうらやましいなって」



隆也はピンときた

自分が彼女に気があるからとなりに座らせたと誤解して

彼女なりに仕事してるんだと




「そんなことないよ~、ごめんね
となりに座ってもらったの特に意味ないから気にしないでね」


隆也は笑顔でこう言えば
すべてが片付くことを知っていた







今回だけは違った



ドクターの方を向こうとする隆也を




さらに亜紀は強い口調でこうつなぎとめた

「いえ、彼女山本さんが見守ってあげてるからあんなにいきいき輝いてるんですよ」




隆也はややうんざり顔で
「彼女は優秀なんだよ」

とだけはき捨てた




しかし、そんな隆也のきつめニュアンスを気にもせず亜紀は目を輝かせて言った

「いえきっと彼女、私と同じものが見えてるんです」




「見えてるってなにが?」


亜紀は隆也のグラスを奪うと
氷をひとつ放り込み

マドラーでくるくる回しながら

隆也の目をみつめて言った



「オーラ」



「それもすごくあたたかいオーラ、
あなたのそばにいるだけでやすらぐような

今まで見たこともないくらい

素敵なオーラが見えるんです」



オーラが


見えるぅ?



この女







隆也は唖然としてことばを失った
<< 前のページへ最新 | 70 | 71 | 72 | 73 | 74