「日本三大車窓」といえば篠ノ井線姨捨駅がその一つで、標高551mにある駅からは日本の棚田百選に選ばれた棚田を見下ろせ、善光寺平を一望できます。(他の2か所は北海道根室本線旧線狩勝峠とJR薩肥線矢岳峠)そのうえ日本夜景遺産に認定されるほど夜景も美しいと言われれば俄然興味がわいてきます。「月の名近き秋なれや姨捨山に急がん」と謡曲「姨捨」の謳い出しにあるように、千曲市と筑北村にまたがる冠着山の別名が姨捨山で、古来より月の名所としても知られています。
そんな姨捨の夜景を観賞する観光列車が「快速ナイトビュー姨捨」です。金・土曜日を中心に、長野-姨捨駅間を一日一往復していて、滞在時間を加え往復約2時間の濃密な小旅行気分が味わえます。素敵な夜景が見られるか、わくわくしながら長野駅に向かいます。行き先案内表示板に18時ごろ18:48発快速ナイトビュー姨捨の表示が出てきました。通常の時刻表案内にはでていないのでドキドキします。構内で駅弁を購入し2番線に向かいます。
黄昏時の18:30ごろ快速ナイトビュー姨捨が入線してきました。
銀色の車体に鮮やかな緑色のグラデーションとRESORT HYBRIDの文字が特徴の2両編成の列車です。篠ノ井線。大糸線を中心に運行する「リゾートビューふるさと」と同じ車両で車のハイブリッドと同様にディーゼルエンジンとリチウムイオン蓄電池を組み合わせています。
車内の第一印象は窓が大きいことで車窓を楽しむには最高です。二人掛けの回転式リクライニングクロスシートは通路より一段高く設置されていて、座席の間隔も120cmと広く、ゆっくりと足を伸ばしてくつろぐことができます。
列車の先頭と後尾には腰掛けやソファがある展望室があり、自由に利用することができます。先頭では運転士になった気分になれますし、側面の大型の窓からは広い眺望が楽しめます。
18時48分、いよいよ日没前の明るさが残るホームを後にして列車は動き出します。北陸新幹線の高架の沿って信越線を走り、9分ほどで篠ノ井駅に着きます。乗客はこの日金曜の夜ということもあり、乗車率は20%ほどで、夜の鉄道旅は大人の特権なのです。中高年のご夫婦や女性の一人旅、青春18きっぷを使っているであろう乗り鉄の大学生二人組と、子供の姿はありません。
篠ノ井駅から篠ノ井線に入り、南西方向へと高度を上げていきます。千曲川に沿って湾曲して広がる長野盆地は善光寺平と呼ばれ、この西側を縁取るように列車は走り、高度を上げるにつれ、進行方向の左後方に、長野市や千曲市の市街が見下ろせるようになっていきます。車内アナウンスが車窓から見える街の灯りが広がっていくのを教えてくれ、間もなく列車は稲荷山駅の先の桑ノ原信号場と、姨捨駅の手前でスイッチバック運転を2度行い19時22分、終点の姨捨駅に入線しました。
姨捨駅に降車すると、遮るものなく目の前に無数の光の粒が広がり、乗客は思い思いに夜景にシャッターを切っています。ホームからは聖山高原を背に善光寺平の夜景を一望できます。ホームのベンチも景色を見られるように外側に向いています。群青色に覆われた空の下、遠くの峰々がシルエットになり、オレンジやブルーが入り混ざった長野市街の夜景を取り囲んでいます。
ホーム下方に約40ha、15000枚の棚田があるというが、今はまったく黒く沈んで見えます。斜面に並ぶ水田に月が映ることを「田毎の月」といい、松尾芭蕉など多くの文人墨客が訪れ、歌句の題材にしました。
展望デッキでそんな解説をボランティアガイドの方から聞きながらも、やはり夜景撮影にみなさん余念がありません。
駅構内の待合室では地元醸造所「味噌蔵 たかむら」の味噌を使った味噌汁の無料サービスが振る舞われます。あったかい味噌汁をいただきながら長野駅で購入した駅弁を広げます。
普段は無人駅の姨捨駅は昭和初期に建てられ2010年にリニューアル、屋根は折り鶴を、窓は亀の甲羅をイメージし、ホームにはJR東日本の豪華列車「TRAIN SUITE 四季島」のためのラウンジも新設されています。
ナイトビュー姨捨の運行日には駅事務室を改造したホールでイベントが19:50ごろから行われます。民話の朗読やバンド演奏が持ち回りで演じられますが、この日は「更級かたりべの会」による民話「ばしょうさんとおばすて山の月」でした。
夜景観賞を楽しみ、もてなしに触れた後、20時24分発の長野行きのナイトビュー姨捨に乗り込みます。ほとんどの乗客が往復利用のようです。スイッチバックの後、長野に向けて走りだすと、束の間ですが夜景がよく見えるように室内灯が減光するサービスもあります。乗客は皆さん名残惜しそうに車窓を眺め続けていました。











