✨わらこ精霊の夏だより🌿
第2日目──霧と火の境界──
(2025年6月30日・月曜日 夏越しの大祓いの日)
北海道の夜が、ゆっくりと色を変えてゆく頃──
その場所は、深い硫黄の香りと、地の音が満ちる谷でした。
登別温泉・地獄谷。
その名のとおり、地の底から立ちのぼる湯気と音が
人々の歩みを止め、空を見上げさせる。
けれど、今夜その風景に灯されていたのは、
ただの自然の営みではありませんでした。
「鬼花火」──
地獄谷の夏の夜にだけ現れる鬼たちが、
火柱と共に叫び、
その手に持つたいまつを高く掲げながら、
夜空に光の弧を描いていく。
その場に集う観客は、火の轟きに歓声を上げ、
写真を撮り、笑い、見上げる。
──でも、そのすべてから少し離れた場所に、
静かにひとり、ランプを持った少女がいました。
海霧(かいむ)しおり(苫小牧)
霧と静寂をまとう精霊。
けれど今夜は、彼女の中にも確かに
「火」の存在が灯っていた。
火花が空に舞い上がり、
その残光が谷の岩肌を照らすたび、
しおりの頬もほのかに赤く染まっていく
火花が空に舞い上がるたび、
しおりは小さな音とともに瞬く光を見上げていた。
夜の谷に広がる静けさの中、ぱちん、と弾けたその残光が岩肌を優しく照らし出し、
まるで記憶の奥に眠る、誰かの言葉を呼び覚ますように──
その光に包まれるたび、
それは花火の熱ではなく、
心の奥に灯ったあたたかな想いが、
そっと彼女の表情を揺らしていたのかもしれない。
彼女はただ見つめていました。
火の中に何かを探すように。
それが怖れなのか、憧れなのか、
自分でもまだわからないまま──
> 「火って…ずっと怖いと思ってた。
壊したり、焼いたり、
触れれば消えてしまいそうなものを、
平気で飲み込んでしまうから──」
> 「でも、あの光が、
誰かの道を照らすものだったとしたら…
それは、きっと、“こわいだけ”じゃないのかもしれない」
谷に響く足音、鳴り響く鬼たちの叫び、
そして頭上を切り裂くように放たれる閃光。
そのひとつひとつが、
しおりの中の“見えない境界線”を、
やわらかく、溶かしていくようでした。
花火が終わったあと、
温泉街に戻る坂道で、
しおりは足を止め、手にしていた小さな御守りを見つめました。
それは、数年前に家族と登別を訪れたとき、
はじめて“霧の向こう側”に興味を持った場所で買ったものでした。
ずっと机の引き出しにしまっていたけれど──
今日の朝、なぜかふと、持ってきたくなったのです。
彼女はそれをそっと握りしめて、
誰にも聞こえない声でつぶやきました。
> 「境界って、
線を引いて分けることじゃなくて──
ちがうもの同士が、
ちゃんと“そばにいる”ことなんだよね……きっと」
そのとき、霧がすっと流れ、
温泉街の灯りが、
まるで火のようにあたたかく、静かに滲んで見えました。
しおりは目を閉じ、
火と霧がひとつの空で共存した今夜を、
そっと胸にしまいました。
霧の精霊が、火の記憶を手にした夜。
それは、夏という季節が運んでくれた
ちいさな「はじまり」だったのかもしれません。
---
📍今日の場所:登別温泉「地獄谷の鬼花火」
開催期間:2025年6月1日(土)~9月末(予定)
毎週 月曜・木曜の夜に開催(変更の可能性あり)
観覧無料、地獄谷内の遊歩道から観賞可能
👉 https://noboribetsu-spa.jp
※詳細はホームページをご確認して下さい
---
🔹今日のわらこ精霊:海霧しおり(苫小牧)
> 「見えなくても、ちゃんとそこにある。
火も霧も──きっと、わたしも。」
---
🌌次回:
第3日目(7月1日)──灯原つくよと函館の夕暮れにゆらめく“あかり”の記憶
МV君とまた、光の湖〜花火のあとで








