アナザーストーリー《第2話》潮路つづり/室蘭
──記憶の道しるべ──
その町には、風がよく通り抜けていた。
無人駅のホームに降り立ったとき、つづりは少しだけ迷っていた。
知らない町、知らない道。
だけど、ノートに綴った文字が、そっと背中を押してくれる。
> 「誰かの記憶を辿ることで、わたしは自分の歩幅を見つけていく」
駅から続く細い坂道を下ると、静かな港があった。
小さな漁村のような場所で、人の声よりも風の音のほうがよく響く。
つづりは、海辺にぽつんと佇む古い民宿に泊まることにした。
部屋に案内してくれたのは、優しげな目をしたおばあさんだった。
「今日はあたたかいわね。あんた、旅の人かい?」
「はい、一人で……ことばを、探してるんです」
不思議な答え方をしてしまったと思ったけれど、おばあさんは笑った。
「ふふ。あたしも昔、そんな旅をしてたよ。……待ち人を、見送った港なの」
「……それって、悲しくなかったですか?」
つづりの問いに、おばあさんは少しだけ空を見上げた。
「悲しいよりもね、風にまぎれていった言葉が、いまもここにある気がするの。だから残しておくんだよ、言葉ってやつは」
夜、つづりはその話をノートに綴った。
そして、港を歩きながら見つけた小さな石──波に削られた青灰色の石──を、ポケットにそっとしまった。
> 「旅先で出会った言葉は、まるで海の石みたいに、角がとれてやさしくなる」
翌朝、チェックアウトのとき、おばあさんは何も言わずに一枚の便せんを差し出した。
そこには、手書きのやわらかな筆致で、こんな詩が綴られていた。
> 待ち人は 海の向こうに
でも言葉は この浜に残る
耳を澄ませば 風がそれを教えてくれる
「……ありがとう。大切にします」
そう言って、つづりはもう一度、ノートを開いた。
今度は、自分のことばで、何かを返したいと思った。
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📝次回予告《第3話(最終話)》:
旅の終わりが近づく中で、つづりが見つけた“風になる言葉”とは──
室蘭に戻るフェリーの上で、心が静かに綴られていく。




