#12 Could you hear my voice?

「あ、あ、あのねっ、日高くんっ!!…大好き!!!!」

…一瞬、何が起こったのか分からなくなった。

彼女自身の声…?

小鳥遊が…、しゃべった…!?

「お、おい、小鳥遊…!!今しゃべった、しゃべったよな!?今、自分の声だったよな!?」

そう言って彼女を見ると、初めて会った日と同じ、くったくのない笑顔で、えへへ、と、笑っていた。

でも、この笑顔も本当は、あの日とは違う。
眼の色が、だいぶ明るくなっていた。


(…本当に、オレが救えたんだな、コイツを)

それはなんだか、不思議な気分だった。
時の流れに身を任せていたら、オレが、まさか、かつてのつばさポジションに入るとは。

人生は、本当にクソゲーの極みだ。
プレイヤーアングルが勝手に変わりやがった。


…まあ、でも、このアングル、悪くはないね。


「助けてくれてありがとね、日高くん。あたし、やっと、自分に正直になれたんだよ!」

彼女は満面の笑みで、嬉々として、オレにそう言った。

「…お前と話せる日が来るのは、もうちょい先だと思ってたよ。…嬉しい」

「えへへ、実はね――」

そう言って、小鳥遊が話しだしたのは、さっきの決闘のとき、校庭でオレが倒れたときに彼女がとった行動の話だった。

「――あたし、ものすごく焦ってね、琴音ちゃんに電話かけちゃったの!本当はかけるつもりなんか全然なかったから、びっくりしちゃって…。でも、いざ声出したら、今まで全然出せなかったのなんて、ウソだったってくらいにすんなり出たんだ!」

そう言って、彼女はオレの手を握って、続けた。

「…日高くんが死んじゃったら嫌だった…。まだまだ生きててほしかったから、あたし、がんばった!日高くんがいてくれたから、あたし、声取り戻せたんだよ!」

その瞬間の彼女の表情を、オレは一生忘れることが出来ないだろう。

満面の笑み、しかも、今までよりもっと最高の。


…それは、まるでひまわりのようだった。


「そっか、ありがとな、小鳥遊」

そう言って、オレは彼女の頭を撫でた。

さらさらとした彼女の髪の毛の手触りが心地いい。

「…うん。あ、そうだ」

彼女は少しだけ涙目で、続けた。

「日高くん、目、閉じて」

「え…?なんで?オレの顔になんか付いてる?」

「ううん、違う!…まあ、とりあえず目、閉じてよ」

「お、おう…」

瞬間、オレは雷に打たれた。

「…あ・り・が・と」

声にならない声で、彼女はそうつぶやいて、オレにキスをしたのである。

「なっ、ちょっ、おま…!!!」

「好きな人にキスなんて、あたしだって恥ずかしいっ!…だから、おあいこ!」

「はぁ!?すげぇ大胆にやっといて!?」

「…日高くんに彼女いるのは知ってる!!だけど、あきらめない!!だからキスしたの!別に、大胆にしたかったとかじゃないー!!」


…こいつ、意外に子どもっぽいな?

へへっ、まあいいや。

オレは、少しむくれた彼女に言った。

「これからは、お前自身の声で、いろいろなこと、知らないお前のこと、教えてくれよ!」

「…うん!」

そう言った彼女の表情は、やっぱり満面の笑みだった。



それからというもの、あの喧騒はどこへやら、小鳥遊もすっかりクラスに馴染み、いじめられていたなんてこと自体を忘れてしまいそうになるほど、クラスの人気者になった。

ちなみに、あの決闘以降、やり残したことがあるから、と、消えていった兄、日高達哉は、実はあの後、小鳥遊の母親に会ってきていて、あの母親から娘への謝罪の言葉を引き出したのだとか。

我が兄ながら、あっぱれといったところ。

あの人は昔から、そういう人なのだ。


最近、オレとしては、正義のヤンキーなどと、要らない肩書きがますます染み付いてしまった感はあるが、それなりに、この高校の気だるさも悪くないと思えるようになってきた。


あいつも変わった、なら、オレも変わらねば。



…恋とか、青春人間模様に揺れながら、それぞれの時間が過ぎていく。


放課後のチャイムが鳴った。

「よし…、帰るか!」

そうすると、すぐに満面の笑みのあいつがついてくる。

「待って、日高くん!一緒に帰ろー?」

「おう、さくら!」



…さてさて、この先は一体どうなることやら?

曇天でも笑いながら、オレたちは一緒に、しかし別々の時を過ごしながら歩いていく。

でも、きっと、少なくとも、こいつらが散り散りになって、世界中に隠れてしまっても、たぶん見つけられると思う。

…絆って、そういうものだろ?
(終)