#04 その手をつかみたくて-Light and shadows-
(あーあ、…手、離しちゃった…)
あたしは、またひとりになった公園のブランコをゆっくり漕ぎながら、寂しさを噛みしめるように、そう思った。
…彼が、無理をしないなんてことはないのに。
《オレも同じ経験をしてきたよ。だから、痛いほどわかる。…いじめられて、自分が必要なく思えて、死にたくなってさ。オレは本当に誰も死にたくなったときに止めてくれるような存在がいなかったけど、小鳥遊がそうなるのは、似た者同士、意地でもオレが全力で止めてやる。》
こんなことを言っている人が、あたしのために無理をしないわけがないのに…!!
日高くんのなかには、たぶん、あたしのことに対する怒りが、自分の過去の分まで渦巻いているのだろう。
いつも笑っている彼だから、普通じゃ、それを察するのは難しい。
おそらくは、ほとんど誰にも自分のことは話していないと思う。
それでも、彼は、打ち明けてくれた。
…あたしだったから、というわけではないだろうけど。
それにしても、日高くんは―
「―本当に優しいよね」
思わず出たひとりごとに、あわてて口をふさぐ。
辺りを見回すと、誰もいない。
(…聞かれてなかったか)
過去のトラウマがフラッシュバックしたあたしは、ほっとした。
言葉で人を傷つけてしまうことは、誰でも一度は経験があると思う。
あたしのトラウマは、それを母親があたしにやったことだ。
日高くんと初めて出会った入学式のあとにも、母親は、「あなたが話しかけると人が引く」という主旨の説教を2時間にわたって、あたしにしたことからもわかるけれど、母親は、昔からあたしのことが嫌いらしく、LINEじゃないと他人と会話できなくなる前から、母親はあたしのことをよく傷つけてきたのだ。
…会話できなくなってずいぶん経つから、小さい頃から傷つけてきたことなんて、あの人はどうせ覚えてないんだろうし、自覚もしてないんだろうな。
人前では、いい母親気取ってるもんね。
…ちなみに、そう言っている当のあたしも、なんか感覚が麻痺していて、母親の言葉の暴力にも慣れてしまったのだろう。
いつしか、母親の言葉だけ、頭からシャットアウトするようになった。
それでも、「あなたが話しかけると人が引く」という、そのセリフだけは、ずっと頭に反響している。
…日高くんに話しかけたのは、偶然だったけど、今考えてみれば、偶然じゃない気もする。
日高くんに出会わなければ、たぶん、あたしのトラウマは、あたしのなかに、窮屈にしまわれたままだっただろうし、それを誰にも話せないまま、母親に対しての怒りもぶつけられないまま、あたしは殻にこもっていたかもしれない。
日高くんと出会って、また明るい方向へと、あたしの未来は変わっていっている気がするのだ。
…あたしの名前と同じ、桜の花とともにやって来た、この巡り合わせが運命だとするなら、あたしは日高くんを抱きしめたこの腕を、離すべきではなかったと思う。
…だって、分かっていたのだから。
彼が何を言おうと、無理をしてでも、怒りと、自分の正義に任せて、あたしを救い出してくれてしまうことは。
でも、これで救われるかもしれないと思えば、気は楽だった。
(…でも、救われるなら、それでいいの?)
無垢な感情―嬉しさだけでは説明しづらい。
今まで暗闇だったそこに光が射したなら、必然的に今まで光が射していたところには、どこか、影が出来る。
あたしに光が射したなら、日高くんが影の場所にいることになるということ?
そう考えたあたしは、名前も知らない感情が沸き上がるのを感じて、
「…嫌だよ、そんなの…」
と、ぽつりと言葉をこぼした。
自分でも、おかしくなるぐらいに泣きそうな声だった。
人を影の場所に追いやってまで、あたしは救われたくなんかない…!!
どうせなら、一緒に光の当たる場所にいたい。
…日高くんが、光を照らしてくれたのなら、ずっとそこにいてほしい。
ずっとそこにいて、笑っていてほしい。
…そう考えて、気付くとあたしは泣いていた。
あふれてくる涙を止めようと思っても、止まらなかった。
―あぁ、そっか。この気持ちは…
…なんで、こうなるまで気付かなかったんだろう…。
「…バカだなぁ、つくづく、あたしって」
そう言って泣きながら、クスッと笑ってみたけれど、涙は、やっぱり止まらなかった。
「…好きになっちゃったんだ、あたし、日高くんのこと…」
…それは、あたしにとって久々に感情が表に出せた瞬間でもあり、あたしにとっての初恋の瞬間だった。
これに気付いたあとで、この気持ちを抑えようと思っても、もう無理だった。
あたしは、日高くんの走って行った方へ、一目散に駆け出した。
今度こそ、あの手を離すわけにはいかない。
一緒に笑っていてほしい。
だから。
(つづく)
(あーあ、…手、離しちゃった…)
あたしは、またひとりになった公園のブランコをゆっくり漕ぎながら、寂しさを噛みしめるように、そう思った。
…彼が、無理をしないなんてことはないのに。
《オレも同じ経験をしてきたよ。だから、痛いほどわかる。…いじめられて、自分が必要なく思えて、死にたくなってさ。オレは本当に誰も死にたくなったときに止めてくれるような存在がいなかったけど、小鳥遊がそうなるのは、似た者同士、意地でもオレが全力で止めてやる。》
こんなことを言っている人が、あたしのために無理をしないわけがないのに…!!
日高くんのなかには、たぶん、あたしのことに対する怒りが、自分の過去の分まで渦巻いているのだろう。
いつも笑っている彼だから、普通じゃ、それを察するのは難しい。
おそらくは、ほとんど誰にも自分のことは話していないと思う。
それでも、彼は、打ち明けてくれた。
…あたしだったから、というわけではないだろうけど。
それにしても、日高くんは―
「―本当に優しいよね」
思わず出たひとりごとに、あわてて口をふさぐ。
辺りを見回すと、誰もいない。
(…聞かれてなかったか)
過去のトラウマがフラッシュバックしたあたしは、ほっとした。
言葉で人を傷つけてしまうことは、誰でも一度は経験があると思う。
あたしのトラウマは、それを母親があたしにやったことだ。
日高くんと初めて出会った入学式のあとにも、母親は、「あなたが話しかけると人が引く」という主旨の説教を2時間にわたって、あたしにしたことからもわかるけれど、母親は、昔からあたしのことが嫌いらしく、LINEじゃないと他人と会話できなくなる前から、母親はあたしのことをよく傷つけてきたのだ。
…会話できなくなってずいぶん経つから、小さい頃から傷つけてきたことなんて、あの人はどうせ覚えてないんだろうし、自覚もしてないんだろうな。
人前では、いい母親気取ってるもんね。
…ちなみに、そう言っている当のあたしも、なんか感覚が麻痺していて、母親の言葉の暴力にも慣れてしまったのだろう。
いつしか、母親の言葉だけ、頭からシャットアウトするようになった。
それでも、「あなたが話しかけると人が引く」という、そのセリフだけは、ずっと頭に反響している。
…日高くんに話しかけたのは、偶然だったけど、今考えてみれば、偶然じゃない気もする。
日高くんに出会わなければ、たぶん、あたしのトラウマは、あたしのなかに、窮屈にしまわれたままだっただろうし、それを誰にも話せないまま、母親に対しての怒りもぶつけられないまま、あたしは殻にこもっていたかもしれない。
日高くんと出会って、また明るい方向へと、あたしの未来は変わっていっている気がするのだ。
…あたしの名前と同じ、桜の花とともにやって来た、この巡り合わせが運命だとするなら、あたしは日高くんを抱きしめたこの腕を、離すべきではなかったと思う。
…だって、分かっていたのだから。
彼が何を言おうと、無理をしてでも、怒りと、自分の正義に任せて、あたしを救い出してくれてしまうことは。
でも、これで救われるかもしれないと思えば、気は楽だった。
(…でも、救われるなら、それでいいの?)
無垢な感情―嬉しさだけでは説明しづらい。
今まで暗闇だったそこに光が射したなら、必然的に今まで光が射していたところには、どこか、影が出来る。
あたしに光が射したなら、日高くんが影の場所にいることになるということ?
そう考えたあたしは、名前も知らない感情が沸き上がるのを感じて、
「…嫌だよ、そんなの…」
と、ぽつりと言葉をこぼした。
自分でも、おかしくなるぐらいに泣きそうな声だった。
人を影の場所に追いやってまで、あたしは救われたくなんかない…!!
どうせなら、一緒に光の当たる場所にいたい。
…日高くんが、光を照らしてくれたのなら、ずっとそこにいてほしい。
ずっとそこにいて、笑っていてほしい。
…そう考えて、気付くとあたしは泣いていた。
あふれてくる涙を止めようと思っても、止まらなかった。
―あぁ、そっか。この気持ちは…
…なんで、こうなるまで気付かなかったんだろう…。
「…バカだなぁ、つくづく、あたしって」
そう言って泣きながら、クスッと笑ってみたけれど、涙は、やっぱり止まらなかった。
「…好きになっちゃったんだ、あたし、日高くんのこと…」
…それは、あたしにとって久々に感情が表に出せた瞬間でもあり、あたしにとっての初恋の瞬間だった。
これに気付いたあとで、この気持ちを抑えようと思っても、もう無理だった。
あたしは、日高くんの走って行った方へ、一目散に駆け出した。
今度こそ、あの手を離すわけにはいかない。
一緒に笑っていてほしい。
だから。
(つづく)