コピーペーストの男
「哲哉のメールってさぁ、コピーペーストみたいだよね。」
向かいに座る友美が、頬っぺたを膨らませながら、そう呟く。
どういう意味だよ、と俺は無くなりかけのアイスコーヒーをストローですする。
「だって、毎日、毎日、私のメールに、『おはよ』『へぇー』『うん』『そっか』『おやすみ』で答えて終わりじゃない…。何か、会話してる気にならないよー。」
正直、面倒臭い。
俺はそう思った。メールなんか別にどうだっていいじゃんか。
「まっ、惚れた私の負けだから、良いんだけどねっ」
膨れっ面を笑顔に変えると、友美はオレンジジュースを飲み干した。
「そうそ、わがまま言ってないで、今はデート楽しめや。」
俺は、立ち上がりながら、そう言った。
その後、友美は小さく何か呟いたけど、俺には聞こえなかった。
「…わがまま…かな…」
それからも、度々、友美から、メールが冷たいだのなんだの言われたけど、俺のスタンスは崩れなかったし、崩さなくても、友美は俺から離れていかなかった。
俺は女の為に、メールの文章を長くしたりなんかしない。
だいたい、メールに冷たいも温かいもないだろう。
確かに、友美から来るメールは絵文字もついてて可愛いし、たまに嬉しいなって思うメールもあるけど、俺だって、言うほど冷たくないはずだ。
友美が思い描いた通りの文章が俺から返って来ないからって、文句言ってくるのはアイツのわがままだ。
と、思っていた。
おかしい。
デートが終わって、さっき別れて、そろそろあいつから「ただいまー」とデートの感想が入った長ったらしいメールが届いてもおかしくない時間だ。
なのに今日はメールが送られて来ない。
俺の中に変な胸騒ぎが走る。
電話をしてみるが、留守電になってしまう。
その時だった、俺の携帯がいつもとは違うメロディを奏でる。
画面の通知には『公衆電話』と表示されている。
胸の鼓動が早くなっていく。
「もしもし…」
俺は病院に来ていた。
さっきの電話は病院の公衆電話から掛けられたものだった。
友美の両親が、俺に連絡をしてくれたのだ。
俺の目の前には、白い布を顔に被せられた友美が横たわっている。
信じられない。俺にはどうしても信じられない。
友美、友美、友美…
それから数日間のことは自分でも良く覚えて居ない。
友美の両親に挨拶して、通夜に出て…
それでもまだ友美が死んだなんて信じられなかった。
ベッドに倒れ込むと、俺は何故か携帯が気になった。
携帯電話には友美からのメールが沢山残っている。
順番に読み返していく度に、思い出が蘇る。
友美からのメールには、デートで行った映画の感想、ご飯は何が美味かった、どんな気持ちだったということが絵文字と供に綴られている。
読めば読むほど、友美が生きているような錯覚に陥る。
俺は、どんなメールを送ってたっけ…
ふと、自分のメールが気になる。俺は送信ボックスを見た。
一番過去のものから順に見ていく。
俺の胸に急に痛みと焦りが走り出す。スクロールする手がどんどん早くなっていく。
『おはよ』
『あっそう』
『そっか』
『どうも』
『よかったな』
どんどんスクロールしていく。
『で?』
『何が』
『OK』
『大丈夫』
『そんなことないよ』
『ああ』
『おやすみ』
『それでいいよ』
『友美の好きにして』
俺の目からは、いつしか涙が止めどなく溢れていた。
俺のメールを読んでもなんの思い出も浮かんで来ない。
相づちも、気持ちを伝えていたつもりになって送ってたメールも、何のことかさっぱり解らなかった。
それらが、何回か置きに繰り返し繰り返し送信されていた。
『…っもみ…ごめっ……友美……っ……』
ごめん。ごめんな。友美…。
『コピーペーストみたい』
友美が言ってた言葉を思い出す。
アイツが言ってたのは、こういうことだったんだ。
ワガママなのは俺の方だ。
繰り返される、同じようなメールを受け取って、友美はどんな気分だっただろう。
それでも、いつもアイツは俺にメールを送ってくれて…
今なら解るのに。今なら解ってやれるのに。
友美が居ない。
友美が居ない。
友美が…。
ごめん。ごめんな、友美。
俺は、友美に最後のメールを作成する。
『大好きな友美へ
ごめんな。
こんな俺を愛してくれてありがとう。
本当はお前からのメール、いつも嬉しかった。
大好きだよ。
ありがとう。
ありがとう。
哲哉。』
作/脇田唯
向かいに座る友美が、頬っぺたを膨らませながら、そう呟く。
どういう意味だよ、と俺は無くなりかけのアイスコーヒーをストローですする。
「だって、毎日、毎日、私のメールに、『おはよ』『へぇー』『うん』『そっか』『おやすみ』で答えて終わりじゃない…。何か、会話してる気にならないよー。」
正直、面倒臭い。
俺はそう思った。メールなんか別にどうだっていいじゃんか。
「まっ、惚れた私の負けだから、良いんだけどねっ」
膨れっ面を笑顔に変えると、友美はオレンジジュースを飲み干した。
「そうそ、わがまま言ってないで、今はデート楽しめや。」
俺は、立ち上がりながら、そう言った。
その後、友美は小さく何か呟いたけど、俺には聞こえなかった。
「…わがまま…かな…」
それからも、度々、友美から、メールが冷たいだのなんだの言われたけど、俺のスタンスは崩れなかったし、崩さなくても、友美は俺から離れていかなかった。
俺は女の為に、メールの文章を長くしたりなんかしない。
だいたい、メールに冷たいも温かいもないだろう。
確かに、友美から来るメールは絵文字もついてて可愛いし、たまに嬉しいなって思うメールもあるけど、俺だって、言うほど冷たくないはずだ。
友美が思い描いた通りの文章が俺から返って来ないからって、文句言ってくるのはアイツのわがままだ。
と、思っていた。
おかしい。
デートが終わって、さっき別れて、そろそろあいつから「ただいまー」とデートの感想が入った長ったらしいメールが届いてもおかしくない時間だ。
なのに今日はメールが送られて来ない。
俺の中に変な胸騒ぎが走る。
電話をしてみるが、留守電になってしまう。
その時だった、俺の携帯がいつもとは違うメロディを奏でる。
画面の通知には『公衆電話』と表示されている。
胸の鼓動が早くなっていく。
「もしもし…」
俺は病院に来ていた。
さっきの電話は病院の公衆電話から掛けられたものだった。
友美の両親が、俺に連絡をしてくれたのだ。
俺の目の前には、白い布を顔に被せられた友美が横たわっている。
信じられない。俺にはどうしても信じられない。
友美、友美、友美…
それから数日間のことは自分でも良く覚えて居ない。
友美の両親に挨拶して、通夜に出て…
それでもまだ友美が死んだなんて信じられなかった。
ベッドに倒れ込むと、俺は何故か携帯が気になった。
携帯電話には友美からのメールが沢山残っている。
順番に読み返していく度に、思い出が蘇る。
友美からのメールには、デートで行った映画の感想、ご飯は何が美味かった、どんな気持ちだったということが絵文字と供に綴られている。
読めば読むほど、友美が生きているような錯覚に陥る。
俺は、どんなメールを送ってたっけ…
ふと、自分のメールが気になる。俺は送信ボックスを見た。
一番過去のものから順に見ていく。
俺の胸に急に痛みと焦りが走り出す。スクロールする手がどんどん早くなっていく。
『おはよ』
『あっそう』
『そっか』
『どうも』
『よかったな』
どんどんスクロールしていく。
『で?』
『何が』
『OK』
『大丈夫』
『そんなことないよ』
『ああ』
『おやすみ』
『それでいいよ』
『友美の好きにして』
俺の目からは、いつしか涙が止めどなく溢れていた。
俺のメールを読んでもなんの思い出も浮かんで来ない。
相づちも、気持ちを伝えていたつもりになって送ってたメールも、何のことかさっぱり解らなかった。
それらが、何回か置きに繰り返し繰り返し送信されていた。
『…っもみ…ごめっ……友美……っ……』
ごめん。ごめんな。友美…。
『コピーペーストみたい』
友美が言ってた言葉を思い出す。
アイツが言ってたのは、こういうことだったんだ。
ワガママなのは俺の方だ。
繰り返される、同じようなメールを受け取って、友美はどんな気分だっただろう。
それでも、いつもアイツは俺にメールを送ってくれて…
今なら解るのに。今なら解ってやれるのに。
友美が居ない。
友美が居ない。
友美が…。
ごめん。ごめんな、友美。
俺は、友美に最後のメールを作成する。
『大好きな友美へ
ごめんな。
こんな俺を愛してくれてありがとう。
本当はお前からのメール、いつも嬉しかった。
大好きだよ。
ありがとう。
ありがとう。
哲哉。』
作/脇田唯
多重人格の男
たまに自分は沢山の人格を持ってるんじゃないかって疑うことがある。
あんなに気に入っていた写真集も、
あんなに好きだった曲も、
あんなに煌めいて見えていた想い出も…
全部
全部
急にどうでも良くなる。
線香花火みたいに、突然落下する。
つい一時間前に、彼女につけられたキスマークも、今はもう皮膚ごと剥がしてしまいたい。
俺がつけたキスマークも彼女ごと世界から消してしまいたくなる。
俺は結局…
誰のことも心から愛せないんだと思う。
胸が高鳴る?
鼓動が早まって、心臓を掴まれたように、キュッとなる?
その感覚は、残念ながら、俺を作った神様が取り付けるのを忘れたようだ。
俺は生まれる前から、神様に見放されたんだ。
だから、きっと一生、『恋』ってやつを出来ないんだと思う。
女を抱くのは簡単だ。生憎ルックスには困っていない。。
幸か不幸か、それは知らない。
ただ、寄って来る女の数だけ、俺は自分の欠陥に気づかされる。
周りが息を飲むような美人にも、一年間に何度も違う奴から告白される可愛い子にも、俺の心臓は息を潜めたままだ。
何も動かない。
高鳴りやしない。
羨ましがられても、何も思わない。
むしろ、要らない恨みややっかみを買う分、迷惑ですらある。
今の俺の彼女は、気の毒だ。
何度も告白されて、振って。
繰り返し振って…それでも何度も告白してきて、ついに根負けして付き合った。
だけど明日…別れを告げよう。
きっとその方が幸せだ。
次の日、俺は朝からソワソワしていた。
どうやって切り出そう。出来れば、なるべく短く解決したい。
相手が何も言えなくなる、言い返す気もなくなる様な理由を告げ、黙って去るという一択をつきつけたい。
『他に好きな子が出来たんだ。』
俺が選び出した理由は、これだ。
『えっ?』と彼女は、洗濯物を畳む手を休めて、こちらを見る。
『だから、他に好きな子が出来たんだ。』
きっと泣くに違いない。みるみる内に顔を歪ませて。それでも俺は動じずに居れば、いずれ部屋から出ていくだろう。
俺の読み通り、彼女は大粒の涙を流し始めた。
しかし、次の瞬間、予想外の言葉が彼女の口からこぼれた。
『よかった…。』
彼女の意外な一言に俺は動揺する。よくよく彼女を見ると、ただ泣いているのではなく、喜んでいるかの様に笑顔を浮かべている。
『…よかった。よかったね。』
『何が?何が良かったんだよ!』
俺は、あまりにも意外な事態に思わず声を荒げてしまった。
『好きな子が出来て…。恋愛出来て。この素晴らしい気持ちを知ることが出来て…。よかったね!!』
俺はハッとした。
『私ね、知ってたよ。私のこと全然愛してなんかないってこと。だけど…傍にいれて…馬鹿みたいかも知れないけど…嬉しかった。…今までありがとう。悲しいけど、嬉しい。』
そう、彼女は泣きじゃくるのを堪えながら、ぽつりぽつりと話し、最後に俺を見た。
さらに予想外のことが起きた。
俺の胸が騒がしい。気のせいだと思っても、胸が苦しい。鼓動は速くなり、脈は眩暈を起こしてしまうみたいに波打っている。
どうしたんだ、俺。
どうしちまったんだ、俺。
彼女が可愛く見えている。俺の目に映るこの人は、さっきまでの人と本当に同一人物だろうか?
『じゃあ、私…もう行くね。辛くなる前に、まだ…笑って祝福してあげられる内に………』
俺の手は彼女の手首を掴み、次の瞬間、彼女は俺の胸の中に収まった。
俺はたまに…
自分が二重人格なんじゃないかと思うことがある。
作/脇田唯
あんなに気に入っていた写真集も、
あんなに好きだった曲も、
あんなに煌めいて見えていた想い出も…
全部
全部
急にどうでも良くなる。
線香花火みたいに、突然落下する。
つい一時間前に、彼女につけられたキスマークも、今はもう皮膚ごと剥がしてしまいたい。
俺がつけたキスマークも彼女ごと世界から消してしまいたくなる。
俺は結局…
誰のことも心から愛せないんだと思う。
胸が高鳴る?
鼓動が早まって、心臓を掴まれたように、キュッとなる?
その感覚は、残念ながら、俺を作った神様が取り付けるのを忘れたようだ。
俺は生まれる前から、神様に見放されたんだ。
だから、きっと一生、『恋』ってやつを出来ないんだと思う。
女を抱くのは簡単だ。生憎ルックスには困っていない。。
幸か不幸か、それは知らない。
ただ、寄って来る女の数だけ、俺は自分の欠陥に気づかされる。
周りが息を飲むような美人にも、一年間に何度も違う奴から告白される可愛い子にも、俺の心臓は息を潜めたままだ。
何も動かない。
高鳴りやしない。
羨ましがられても、何も思わない。
むしろ、要らない恨みややっかみを買う分、迷惑ですらある。
今の俺の彼女は、気の毒だ。
何度も告白されて、振って。
繰り返し振って…それでも何度も告白してきて、ついに根負けして付き合った。
だけど明日…別れを告げよう。
きっとその方が幸せだ。
次の日、俺は朝からソワソワしていた。
どうやって切り出そう。出来れば、なるべく短く解決したい。
相手が何も言えなくなる、言い返す気もなくなる様な理由を告げ、黙って去るという一択をつきつけたい。
『他に好きな子が出来たんだ。』
俺が選び出した理由は、これだ。
『えっ?』と彼女は、洗濯物を畳む手を休めて、こちらを見る。
『だから、他に好きな子が出来たんだ。』
きっと泣くに違いない。みるみる内に顔を歪ませて。それでも俺は動じずに居れば、いずれ部屋から出ていくだろう。
俺の読み通り、彼女は大粒の涙を流し始めた。
しかし、次の瞬間、予想外の言葉が彼女の口からこぼれた。
『よかった…。』
彼女の意外な一言に俺は動揺する。よくよく彼女を見ると、ただ泣いているのではなく、喜んでいるかの様に笑顔を浮かべている。
『…よかった。よかったね。』
『何が?何が良かったんだよ!』
俺は、あまりにも意外な事態に思わず声を荒げてしまった。
『好きな子が出来て…。恋愛出来て。この素晴らしい気持ちを知ることが出来て…。よかったね!!』
俺はハッとした。
『私ね、知ってたよ。私のこと全然愛してなんかないってこと。だけど…傍にいれて…馬鹿みたいかも知れないけど…嬉しかった。…今までありがとう。悲しいけど、嬉しい。』
そう、彼女は泣きじゃくるのを堪えながら、ぽつりぽつりと話し、最後に俺を見た。
さらに予想外のことが起きた。
俺の胸が騒がしい。気のせいだと思っても、胸が苦しい。鼓動は速くなり、脈は眩暈を起こしてしまうみたいに波打っている。
どうしたんだ、俺。
どうしちまったんだ、俺。
彼女が可愛く見えている。俺の目に映るこの人は、さっきまでの人と本当に同一人物だろうか?
『じゃあ、私…もう行くね。辛くなる前に、まだ…笑って祝福してあげられる内に………』
俺の手は彼女の手首を掴み、次の瞬間、彼女は俺の胸の中に収まった。
俺はたまに…
自分が二重人格なんじゃないかと思うことがある。
作/脇田唯








