関東大震災の記~vol.03 | 風景回廊scenicGALLERY~独断と偏見による視覚的美意識の創造と考察

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低音に我が身ユダネル日々在りき(笑)
創作活動の記録
なんとなく のほほん・・て、感じッス。

そうしているうちに、

「火事だ」

という声がして
空を仰ぐと、南の方から灰褐色の煙が 頭の上の方へやって来る。

「さあ、家の方へ行ってみようか」

と言うので、人ゴミの街を戻っていった。
僕らはあの時、遊動木の上に居るようで うまく歩けなかった。

家へ帰ると、すぐ着物をたたみ 自分の物はすっかり集めて、いざという時の用心に
バスケットの中に入れてしまった。家の中はもう壊れたガラス戸や壁がいっぱい散らばっていた。


それから あまりに地震がよるので、僕らはズボンと半纏(はんてん)だけになって
少しの間、電車車庫前の方に行っていた。
その時は もう友達は皆散り散りになって、彼方此方とただ家が壊れても安全な所にいた。

電車はすっかり動かなくなってしまった。

そして、南の方からは 盛んに火の粉が飛んできて、車庫の事務所二階の窓の
日除けに燃え移った。
すると、群衆の中の一人 車掌だか運転手のような者が跳んでいって
あの亀裂の入った煉瓦造りの家の中へ駆け上がって消してきたのだった。

少しの間そこに居て、また家へ帰ってみると 今度は
「火事を見てこよう」
と言うので、また出かけていった。

南の方へ材木等が倒れかかった町を通って、京王電車道へ出た。
すると 僕らがよく行った角の牛めしやの前に、ガソリンポンプが据え付けてあり
火事は食堂のすぐ向かい側でおきていた。その時は もう幾棟か燃えていて
しばらく見ているうちに食堂にも燃え移ってきた。

激しい風はますます南の方から吹くので、
いよいよ僕らの方へも燃えてきはしないかと思われた。

僕らは、その場を離れた。


続く

(一部読みやすいように、加筆・文体の変更をしてあります。)