日射しの眩しさがまぶた越しに眼に刺さる
(朝か…)
黒木は確かめる様にゆっくりと目を開いていく
(…!! チッ…またか…)
久しぶりだがよく出くわす光景に
げんなりし目を細めて様子を伺う
視界に飛び込んできたのは
古着の男の胸ぐらを掴んで持ち上げ、だぼだぼに拍車をかけさせてる赤岩
カチューシャをつけた古着スタイルの連れが片手にナイフを持って赤岩に怒鳴ってる様子
赤岩を必死でなだめる青田と
すでに殴られたか、階段の下でうずくまる黄村
(まだなんだか分かんないけど
よし、行けカチューシャ! 俺が許す…えぐれ!!)
何が起こってるかなんてどうでも良い
とにかく赤岩がいなくなりそうなチャンスなので黒木はカチューシャを応援した
(何やってんだ! 突っ込みゃ良いじゃん!!行けよ、ホラ!!)
カチューシャはナイフを片手に怒鳴り散らしている
(口は良い…行け! 頼む、行ってくれ!!)
青田がふいにこちらを見る
起きてるのがバレると走り寄ってイヤホンを外された
「黒木サン!!ナニ見てんスか!!どうにかしてくださいよ…」
『ゴメンね♪今起きたWW で…何なのコレ?』
精一杯しらばっくれて大体解っている状況を聞く
「あの二人が金村サンと銀川サンの場所を奪おうとして…」
「奪うも何も来てねえだろ!!」
食い気味にカチューシャが怒鳴る
『まぁ…そうなるよねWW』
青田は困り果てて
「いゃ、納得しないでどうにかしてくださいって…」
『別に良いじゃん♪』
「は?」
『間違ってはないし』
「それじゃ俺らが怒られちまう…」
『それに…』
黒木は面白そうに笑みを浮かべながらひそひそと青田に話す
「?」
『ぶっちゃけ赤岩には死んで戴きたい♪』
「!! 黒木サン…?」
青田は思わず引いた
『…う・そ♪』
その動作を見て黒木は内心では残念に思いながら、時間も時間なので笑顔で赤岩に近づく
『赤岩くん、そろそろ下ろしてあげて♪』
「…」
無視をする赤岩
その瞬間に赤岩の膝の裏を黒木は蹴りあげた
膝をつき、古着から手を離すまで何度も蹴りあげた
座りこむ赤岩に対して見下ろす黒木
笑顔が消えて無表情で言葉を発する
『聞かないからそうなる』
「黒木ぃ…」
赤岩の視線が黒木を睨み付ける
そんな事など意に介さず
『お前のやり方は疲れるだけで何も解決しない』
とだけ言い古着に近づいた
敵意むき出しで身構える相手に
先程とは別人の様な笑顔で近づき
黒木は軽く謝ると耳打ちをした
「だからって…!」
『ウン♪分かる♪だったら…』
段々と古着の眼から怒りの火が消えていく
それを確認すると黒木はカチューシャも呼んだ
今度は3人で肩を組みながら密談をする
『ね?これ以上はこっちもキツいからさ…お願いっ!! これで許してあげて?』
「ま…まぁ、俺らには悪い条件じゃないから…わかった、それで良い…」
『ありがと♪ちょっと待ってて?』
黒木はまず赤岩に向かって無表情でこう言う
『ファミレス代…ワリカンしてねぇよな?
30,000円、今すぐ払え…』
「は?そんな食ってねえよ」
『うるせえな…
お前は俺に逆らう為にここにいんのかよ…
頼むから黙って払えよ…
分かるか?
俺はお前に{命令}してるんだ』
一言一言いう度、
徐々に言葉に殺意の《重り》を乗せる黒木
「………チッ」
黒木がふざけていないのが赤岩にもようやく理解が出来た
財布から30,000円抜き取ると素直に渡す
『ありがと♪大好き♪』
すぐさま黒木は豹変し
軽口を叩くと次は黄村の元へ
『起きてんでしょ?
キムはちゃんと言われた事出来なかったから30,000円♪
はぃちょうだい♪』
黄村も黙って金を払う
『ま、ドンマイ♪』
軽く肩を叩いて黒木は戻る
古着とカチューシャに金を払い
お気に入りの位置に戻ると何事もなかったかの様に笑顔で言った
『はぃはぃ!!並んで並んで!!
1~6番目がウチラ。
彼らは7と8番目。
仲良く並んで!!』
時刻は朝の8:30
無性に腹が減ってきた
(まだ1号達がくるまで時間あるな…
吉野家だったら行けっかな?
いゃ、食ったら眠くなるしなぁ…
マックかなぁ…?)
結局は小腹を満たす事を優先した黒木
散策がてら街の様子を確認する
出勤時特有の匂いを嗅ぐと
この街が二面性を持っているのが分かる
それはふとしたファーストフード店の1コマに見える、
サラリーマンとOLとホストと風俗嬢が輪になって朝マックを食べている事で理解できる
初めは違和感を感じていたが、
今の黒木には日常でしかなかった
自動ドアを開く前から油と珈琲の匂いが深く鼻をついた
少し前まではこれで食欲を無くしたが、
今はこの匂いが食欲をそそる
不思議なものだ
時刻は8:45
(アイツらも動いたから腹減っただろうな…
差し入れしてやるか…)
優しさからではなく、
親鳥が雛鳥に餌を持って帰る感覚に近かった
黒木は自分も雛鳥だという事を忘れてポテトを3つ追加した…