最初にこのフレーズを目にしたのは、スニーカー文庫創刊時に続々と刊行されたトミノガンダム小説群のうち、「Zガンダム」のいずれかの刊の「ジ・O」についての口絵のキャプションだったと記憶している(なので、時期としては「逆襲のシャア」公開前後、’88ー89年くらいか)。

ところが、じゃあ、と思ってZのモビルスーツのペットネームを見てみると、”神の名”を持っていると明確にわかるのはアクシズのキュベレイ(フリギアの大地母神)、シロッコのパラスアテネ(ギリシャの”処女戦神”アテネ)しかなく、ガンダムのモビルスーツのペットネーム中で、擬音や語呂合わせのような音で選んだものでなく、はっきりと何らかの意味のある言葉を利用する、という事例は、当時(「逆襲のシャア」の直前)の時点でも「0080」の新規MS・ケンプファー(ドイツ語の”闘士”)までほぼないに等しい。
 1stの”ララア・スン専用モビルアーマー”エルメスも、商標で争ったフランス服飾ブランドのエルメス同様ギリシャのヘルメスが元だ、という主張もあるけれど、フランスのエルメスはもともとそういう名前の人が作った会社であるのに対して、日本のアニメで、ギリシャ神話の神様を、(英語読みならまだしも)わざわざフランス語読みで持ってくる必然がない(ジオン≒ドイツ語圏だし、というイメージもあるけれど、明確にドイツ語を使い始めたのもやっぱり「0080」以降なのでここでは無視する)ので、どちらかというとブランドのエルメスからそのまま音の響きで借用してきた、とするべきなのだろう。

では一体ジオとは何を指すのか。
これがずっと引っかかっていた。

最初に思い浮かんだのはジオグラフィックス、などのジオ。大地を意味するギリシャ語だし、ギリシャの大地母神はガイアだから、そこからの派生語だろうし。

ところが大地の意味のジオは英字綴りでGEO。対してMSのジオはTHE-O。となるとやや的を外れている気がする。

であれば、定冠詞THEがついて大文字のO、なのだから、神を意味する言葉でOで始まるもの、なのだろうか。

と思って調べていくと、”The One”という言葉が出てくる。唯一絶対の存在=神を指す代名詞として使われる。

まあこの辺だろう、と思ってそこで調べるのを止めていたら、あとでデザイナーのインタビューで「完全な円というのは、現実には存在しえない、理論上にしかないもので、存在するとしたらそれは神である」という意味で、Oは円を意味しているのだ、ということだった。なんだそりゃ。

そのあと何年も経ってから、”Theos”という、ギリシャ語由来のそのものずばり「神」という意味の語に行き当たったときには、偶然というかなんというか、異なる方向から意図せず三つも同じ意味が引き当てられるのであれば、付けられるべくしてついた名前なんだな、と思った事例でした。