中国は、共産党一党独裁ではあっても、新幹線事故車両をその場で埋め隠す幼稚な官僚主義の国に見えても、偽ブランドを臆面もなく大量生産し続ける破廉恥国家であっても、国家としての中国は経済大国で、その展開する外交戦略は巧みで、日本の比ではなく、何百億という(無意味にも思える)無償援助などはしなくても、他国の信頼を十分に得て有償か、ギブ&テイクで相互利益を図る外交を日々展開しているのです。
今回の習近平国家主席のアメリカ訪問は人の意表をつくものでした。ホスト国のオバマ大統領にとっては(殊更で)最初の一手で勝負を決められた思いがあったかも知れません。
習近平主席は夫人同伴でアメリカ公式訪問の初日、ワシントンDCではなく、ワシントン州シアトルに降り立ちました。
シアトル郊外にあるボーイング社を訪れ、いきなり(という印象で)大型航空機ボーイング737を300機発注したのです。ボーイング社もおそらく予想以上の契約量に(狂喜)したようで、ふいの申し出の「ついては購入する737機の仕上げ工程施設(工場)を中国々内に作る」ことを同意させています。
航空機産業はアメリカにとって秘密性の高い産業で、同盟国の日本にさえ製造過程のすべてを委託することはなかったのです。案の定、「仕上げ工程」を中国に委託する契約には事後に労組などから苦情もでているようです。
詳細は未確認ですが、同じワシントン州内で、原子力発電所の建設を(中国)が受注したというので、日本人には青天の霹靂、アメリカ原発企業とのジョイント・ベンチャーというのでさらに驚き、常々情報不足の日本人には予測も出来ないことが同盟国アメリカの国内で起こっていると聞いても、本当のこととも思えず当惑状態かもしれませんが、本当のことなのです。
その帰途、習近平主席は隣接するサンフランシスコに立ち寄りマイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツに招かれてその私邸を訪問したと(外国紙では)報じられています。会談内容は不明ながら、(意味深遠で)中国内でボイコットされていたGoogle解禁問題ではないかなどと(見当違いの)憶測がされているそうです。オバマ大統領にも気になる訪問だったようで、ある種のプレッシャではあったようです。
習主席は次いで、隣町の州都サクラメントを訪れ、州知事と面談、かねて進めていた新幹線・ロスアンジェルスーラスベガス間の建設を正式受注しています。日本の新幹線売り込みグループは(ニュースにはなっていませんが)初手で敗退していたのです。シュワルツネガーが州知事の頃、日本の新幹線に試乗して感銘を受け、カリフォルニアにも同じものを造りたいと言ったのが、この鉄道敷設計画の始まりだったので、いまさらながら懐かしく思い出されます。
アメリカ経済界との親交を確かなものとした後、中国国家主席は、ようやく国賓としてホワイトハウスに赴きオバマ大統領と会談をしました。しかし、オバマ大統領はその頃までには意気阻喪していたかもしれません。アメリカで最強なのは大統領ではなく経済界だからです。そのパイの中心部が大歓迎している遠来の客人にこの期に及んでは(南沙諸島軍事基地化問題で)抗議も出来ず何の進展も見なかったようです。
オバマ・習近平会談はメインテーマの南沙諸島問題では「経済制裁も辞さない」心つもりが、どのような会談だったのか、最後には記者会見の席で中国に「南沙諸島は中国固有の領土で他国の干渉は受けない」と強気の発言を許す始末だったのです。
その他にも、中国の通貨元切り下げ問題、東シナ海に勝手に領空圏を設定した問題、尖閣諸島領有権問題と中国漁船による尖閣海域の漁場独占問題など改善を求める課題は多く、また多発する中国軍による軍事挑発の抑制など相互に討議すべき重要問題は山積していたはずでしたが、アメリカ国内の経済界の多くが応援団に廻ってしまった後では後の祭りで、オバマ大統領は肩をすくめたか、どうか分りませんが、成果はなかったようです。
そういえば、オバマ大統領は就任当初から習近平主席に絡め取られていた気配があります、互いの訪問時の親密ぶり、会談の異常なほどの長さ(数日間に及んだ)やミシェル夫人と子供達が招待されて夏休みを中国の保養地で過ごしたことなども異例で、反面、オバマ大統領は日本公式訪問では夫人を同伴しなかった(儀礼違反)、それには前例があり、フランスの元大統領サルコジがカーラ夫人を(本人の日本嫌いのため)同伴しなかったという、外交上稀な、日本軽視の見本はありましたが。
習近平氏は国家主席就任前から戦略を練っていたと思われます。一つは国内の汚職追放、もう一つは国力増強、国土海域領有権の拡張(特に太平洋に向けた海域の)、その他天然資源の確保、日本の大陸棚境界域での天然ガス採掘など。そのために予想されるアメリカの干渉を排するため初対面から大統領とは親密な関係を心掛けたのです、特に黒人大統領という天恵の機会を由としたかも知れません。白人と違って(闘争性)がやや弱い、と人類学的にみなされているそうで、ブッシュ前大統領のような、あるいはケネディのような人物が相手の場合は戦略を変えていたはずです。ブッシュ的大統領なら、安易に南沙諸島に軍事基地を作らせる機を与えるとは思えないからです。
日本の過去の歴史を殊更とりあげ、戦勝70周年記念を軍事パレードで祝って見せ(中国共産党が旧日本軍と戦ったことはなく、国民党の蒋介石が戦ったのです)威嚇的です。また、尖閣列島に警備艇や戦闘機を日夜哨戒させ、小笠原沖では民間漁船団に赤珊瑚の採取をさせたり(これは政府の指示です)日本を不要なまでに刺激して同時にアメリカの注意をも(中国の架空の怒り)に集中させたのです。南沙諸島の埋め立てを着々と進める間の目晦まし戦法でした。人心撹乱の術、孫子に曰く、一事を隠すに百の難題を設けよ、だったのです。
中国が日本を見下しているのは間違いないところです。体制が民主主義で、為政者は選挙で選ばれ、それが愚衆政治に陥り易いとはモノの本に書いてあります。しかも現在の政治家の多くは世襲で2、3、4,代目となると、それは商家だったら家産を潰す世代にあたり・・・と中国人が思ったかどうか。
中国は共産党一党独裁の国家ですが、意外なことに個人やその一族による権力の固定化は(今のところ)一度もありません。毛沢東、鄧小平、江沢民、胡錦涛それに現在の習近平と、これまで一度も親子同族間での権力の継承はなかったのです。一党独裁国家ながら権力のバトンタッチに瑕疵がなく、固着を避けているようです。
近年、世界的な民主主義の後退は指摘されているところです。アジアやアフリカ、中近東、南米などの専制(に近い)政府の多くが中国を模倣する傾向にあるといわれているのです。
シリアのバース党は中国方式による政権安定と持続、成長の促進を社会主義経済的に模倣(意味不明)していると言っています。ベトナムは政治的に領土問題もあって中国とは不仲だが、経済と外交は中国に学んでいると言います。イランは中国から法律と経済の専門家を招いて、西欧型民主主義を避けた新しい統治方式を意図しているそうです。
シンガポールのリー・クアンユー元首相が早くから言っていたのは、民主主義は不公平で非効率、最大の欠点は国家の良材を(一般選挙では)公正に選べず、衆愚政治になりやすい、その弊害は国家の存亡にかかわる、というものです。
中国の習近平主席は(リー・クアンユーの信奉者)といわれているだけに最良の指導者を志していると思われます。果たして初心貫徹となるかどうか、今後の挙動を世界が注目していることでしょう。