懐中電灯やラジオなどの防災機器に乾電池を使うものが多いです。乾電池のサイズも単1形から単4形まであり、使いまわしが利くという観点から単3形に統一して備蓄したほうがよいという説があります。しかし、なぜ単3形なのか、本当に単3形でいいのかという疑問もあり、各サイズの乾電池のメリットとデメリットを電池容量、購入価格、重量と体積、対象機器などの側面から分析してみたいと思います。

 

 

 

単3形に統一する説の由来

パナソニックのHP「備えの基本 乾電池」に一人当たりの単3形乾電池の備蓄数量が紹介されています。おそらくこれは「単3形に統一したほうが良い」という説の由来ではないかと推測しています。

 

 

 

しかし、なぜ単3形なのかの説明は見当たりません。たんに単3形対応の機器が最も多くて、便宜上、単3形を計算例に取り上げただけなのかもしれません。ほかのサイズですと、単4形は容量が少なく長時間の使用には向かないし、単2型は対象機器が少ないため、この分析から除外します。以下は、対象機器が最も多い単3形と電池容量が最も大きい単1形を中心に比較してみたいと思います。

 

 

電池容量


乾電池はリチウムイオン電池やニッケル水素電池と違って、消費電流によって放電できる電池容量が著しく変わります。

 

 

上の表から分かるように、それぞれのサイズの電池が同じ電流で放電しても、放電時間が異なります。この放電時間と放電電流から放電容量を計算し、さらにリチウムイオン電池の電圧(3.7V)に置き換えて電池容量を算出したのは下の表です。リチウムイオン電池の容量に置き換えるのは、普段スマホ充電用のモバイルバッテリーと直感的に比較できるからです。

 

 

ここで、わかったことは、

① 消費電流が大きくなるほど乾電池の放電容量が少なくなります。例えば、単3形を電流100mAでラジオを聞いた場合、放電容量は676mAhですが、電流1,000mAでスマホを充電した場合、放電容量は304mAhと半分に減ります。つまり、消費電流が小さいほど、乾電池からよりたくさんの電気エネルギーを取り出せるのです。

② 当たり前ですが、乾電池はサイズが大きいほど容量も大きいです。でも、注目してほしいのは単1形の容量はなんと単3形の6倍以上です。これは驚きです。容量が大きければ電池交換の回数が少なくて済むので、長時間の使用には便利です。例えばの話、単1形使用でラジオを聞く場合、それを単3形に変えると途中5回も電池を交換しなければならないことになります。

③ さらに、単1形の値段は単3形の6倍もしないから、単1形を使ったほうがお得ということになります。では、どのぐらいお得でしょうか。



購入価格

Amazonでパナソニックのアルカリ乾電池(10年保存)の値段を調べ、1円あたりの放電容量を計算しました。その結果、単1形は単3形の約2.2~2.5倍で、単1形はコストパフォマンスが断然よいことが分かりました。

 

 

重量と体積

 

乾電池を非常用持ち出し袋に入れて持ち運ぶまで考えると、重さと大きさが気になります。そこで、それぞれの乾電池の放電容量と重量/体積の関係を調べました。

 

1gあたりの放電容量は、単1形と単3形がほぼ同じである結果です。

 

1cm3あたりの放電容量は、単1形と単3形がほぼ同じである結果です。

 

つまり、備蓄する乾電池の総放電容量が同じであれば、単1形も単3形も重量と体積がほぼ同じなので、気にするほどの違いはないのです。

 

 

対象機器

 

① 前述のように、単3形対応の防災機器の種類が最も多いので、運用の柔軟性において単3形に軍配が上がります。

 

② 一般的に、単1形対応の機器はサイズが大きく重いので、これが苦手という人は単3形対応のものを選んだほうがいいでしょう。

 

③ 単3形しか対応していない防災機器もあります。乾電池をUSB電源に変換する乾電池式バッテリーはそれです(2022年7月1日時点)。スマホの充電にUSB電源が必要なので、長期間の停電でもスマホが使えるようにやはり備えておきたいものです。

 

 

結論

 

① 単1形は、容量とコストパフォマンスの両面で単3形を圧倒しているので、電池交換の手間と購入費用を重視する人は、単1形対応の機器を選んだほうがいいでしょう。使用時間が長く消費電力も大きい照明機器などに適しています。

 

② 単3形は、選べる防災機器の種類が多いのと、対象機器がコンパクトで軽いものが多いので、機器の機能や性能、持ち運びの良さを重視する人は、単3形を選んだほうがいいでしょう。消費電力が比較的に小さいラジオなどに適しています。

 

③ 現時点、乾電池式バッテリーは単3形対応のものしかなく、単3形の備蓄も必要ですが、大量に単3形を抱えるよりは、大容量モバイルバッテリーとの併用を勧めます。最近、リチウム電池使用の大容量モバイルバッテリーはかなり安くなっており、20,000mAhのものがiphone11を4回以上充電できるのです。停電後の数日間はモバイルバッテリーで、電気がなくなったら乾電池バッテリーに、というふうに使い分ければ経済的です。携帯扇風機や充電式ライトなど様々なUSB電源対応の機器にも使えるから、USB電源の備蓄はモバイルバッテリーが一番です。具体的な電池の使い分け方についてまた別途書きたいと思います。