すると、彼女は、自分の考えた道筋を順を追って説明してくれた。途中まで聞いて、私は「あっ、これなら説明できる!」とおもったのである。そして、早く彼女の説明が一区切りしないかと聞いていた。


 ところが、驚いたことに、彼女が突然「あっ。先生わかった。もう大丈夫だよ」というではないか。説明しようと待ち構えていた私は、肩透かしを食らった感じだった。が、わかってしまったのなら、説明のしようもないので、他の生徒の席に移動した。


 このときはなんとも不思議というか、残念というか複雑な心境だった。本来理解できたことを素直に喜ぶべきなのだろうが、私の中には、何かつまらないなという感情が渦巻いていた。


 そうこうするうちに、授業時間も終わり、三々五々帰宅し出した。そして、くだんのYさんはというと、帰り際になんと「先生、今日はよくわかったよ!」とニコニコしながら挨拶をして帰っていったのだった。

 

 その日の彼女の笑顔は格別だった。先ほどまでの気持ちなどどこかに消し飛んでしまい、なんかとても嬉しく、塾を始めてよかったなとしみじみ思えたときだった。


 そして、全員帰ってから、缶ビールを片手に、数学の問題を解きまくる毎日がその晩から始まった。