読書感想文117 齋藤智裕 KAGEROU | 恥辱とカタルシス

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

一瞬で読破でした。

 
こんにちは、渋谷です。
 
 
 
予告通り「KAGEROU」を読みましたよー。齋藤智裕さん、水嶋ヒロさんですね。
 
この「KAGEROU」が受賞した頃のポプラ社の賞は、なんと賞金が2000万だったのだとか!2000万……。今のポプラ社新人賞は賞金200万ですので、10倍ですよ10倍。
 
「このミス」が1000万ですっけ?あ、1200万か。あの賞は影響力がすごいですから、それに対しての2000万は破格と言えると思います。で、受賞したのが有名人ともなれば、当然出てくる八百長説。
 
今さらながら、どーなのかなーと思って読んでみました。……うーん、これは、八百長呼ばわりされちゃっても仕方ないんじゃないかなあ……。
 
 
 
主人公は40歳独身男性、ヤスオ。金なし職なし借金ありで、今まさに自殺しようとビルの屋上に佇んでいます。フェンスを乗り越えようとよじよじ登るヤスオを、止めるのが美青年キョウヤ。
 
キョウヤはヤスオに、「どうせ死ぬなら臓器を売りませんか?」と持ちかけます。タダで死ぬより、「全日本ドナー・レピシエント協会」なる団体に献体すれば、遺族に大金が入りますよ、というんですね。死に方も麻酔で眠るような安らかなものだと聞いて、ヤスオは一も二もなく「やる」と決断しちゃう。
 
ここまでで、もうすでにもったいないんだよなあ。ヤスオが死にたい理由があまりにも薄い。
 
リストラされて再就職できなくて借金作って、だから死にたいっていうんです。でも彼、ダメ人間的尺度で見ると、まだなにもしてないも同然なんですね。これで親に大迷惑をかけて、以前勤めてた会社に泥棒に入って、逃げるついでに老婆のバッグをひったくって骨折させて、なのにその金を全額落としたぐらいの前段階があれば、まだ読んでる方も納得するんですが。ヤスオったら実家の親すら頼ってない。齋藤智裕さん、死にたいと思ったことなんかないんだろうなあ。金に困ったこともないんだろう。
 
しかも、ヤスオは就職してから延々会っていない親に金を残すためにドナーになると決めるんです。まあ、楽に死にたい、最後ぐらい人の役に立ちたいって気持ちもあるんでしょうが。
 
このお話の大前提である、「臓器提供をするために死ぬ」という選択を、ヤスオがする理由があまりに希薄なんです。週刊連載のマンガの中ならアリ、むしろ絵での表現で興味深い導入になるかも知れないんだけど。齋藤智裕さんの文体では表現しきれていない気がする。
 
序盤の文体が、どうしてもぎこちないんですね。中盤からはノッてきたのか、自然に流れるように読めるんですが。ヤスオはキョウヤに導かれ、とある施設を訪れます。そこで、自分の心臓がこれから移植される予定の美少女と出会う。死ぬつもりだったヤスオは、その死に抵抗する少女と出会ったことで、生きること、死ぬことを初めて真剣に考え始めるのです……。
 
 
 
うん、テーマは面白いと思うんです。死にたいヤスオが、死にたくない少女アカネに恋をして生きたいと願う。
 
でも自分が死ななきゃアカネは助からない。死にたくないような気もするし、でももう死んじゃいたいような気もするし。……私も今こんなのを書いてる。死にたいとか死にたくないとかうじゃうじゃ言ってるやつ。
 
ラストには希望も見えます。読後感はとてもいいです。ただ、序盤のつまずきが尾を引くなあ。そして何より、2000万という金額がこの作品には釣り合わないんですね。齋藤さんは賞金をご辞退されたそうなんですが。
 
これが、賞金100万の賞ならアリだったと思うんだ。作品としては面白いし。でも1時間ちょいで読める、ほぼ中編でこの感じだと、「に……2000万は言い過ぎでしょ⁉」ってなる。だから、八百長とか出来レースとか言われても、仕方がない……。
 
 
 
ゴーストライター説も根強い齋藤智裕さんですが、ご本人が書かれてるんじゃないかなあ。ゴーストライターが書いたら、序盤もっと上手く書くと思う。だってゴーストってプロの人がやってますしね。
 
おそらくご自分がキョウヤを演るつもりで、映像化ありきで書いた話なんじゃないかな。水嶋ヒロさんにぴったりの雰囲気でしたし。だからぜひ執筆を続けて欲しいと思います。2000万の価値まであるかはビミョーですが、作家としての力はある人なんじゃないかなあ。
 
結局、一番儲けたのはポプラ社ってとこですかね。2000万は返ってくるし。本は売れるし。まあ商業活動ですから、それももちろんアリではありますわね。
 
さー次は窪美澄さん!「トリニティ」が直木賞候補に!おめでとうございますー!でも、次に読むのは違う本。
 
「トリニティ」も読みたい。夫にねだろう。肩でも揉んで。ゴマすりすりすり……。
 
ではでは、またー!