塔を読む会 ~トウドク~ -5ページ目

2012年1月号10首選(白石)

毒持てる絵具溶く指ねんごろに洗う石鹸バラの香のして  進藤多紀 10


たれももう待つこともなきゆふぐれを汝があゆみくる帽子目深に  清水弘子 39


あやふやなるも敬語使えるようになり少し翳ある少年となる  林田幸子 44


街に出で早も暮れゆく時計屋のどれがほんとか秋の夕暮れ  上田善朗 52


乳液を顔にぬる手の関節が日々たくましく映るを見たり  吉岡実礼 72


耳に陽が透けて明るい長身の僧侶は立ち去る本家の庭を  今井由美子 74


廃屋と見つつ経りしがカーテンの隅のめくれの直されゐたり  清田順子 124


満員の電車にて聞くIpod透明カプセルかぶりているごと  柳 さえ子 154


雨はやがて近江へゆかむ亡きひとの庭の斜りの桜を濡らして  永田 愛 161


ぼんやりと電光ニュースの流れ見て遠い国での空爆を知る  横地智弘  188


塔2011年12月号10首選(白石)

わたくしの代わりになって飛んでゆく長く川面を見ていた鷺が  吉川敬子 54


橋本君のお父さんとのみ知りいしがフルネーム黒枠の掲示に知りぬ  谷口純子 55


ネックレスの金具をうなじで留めるとき私の世界は一番静か  上澄 眠 96


ヤマザキの小さなあんぱんほしいとう父を言祝ぎざくざく走る  佐原亜子 96


われは何を喰らひて生きむ喰らひたるのちを産みだす力が欲しき  刈谷君代 107


カブールの戦闘報告する記者はカブール人より濃き髭を持つ  石井久美子 108


泣く前に笑うような顔になり友は言いたり生きたかりしと  小山美保子 114


この母は鶴になるまで折るのかなもう二千羽をゆうに越してる  澤端節子 131


ファスナーを付けてやりたい黒服に包まれて泣くこの男の背に  常川真央 138


六Aの我が教室のうるささは食品売り場に全然まけない  永田 櫂 153

2011年12月号

さんずいのかはとぞいひてまなうらにふなだまりある岸をゑがけり  真中朋久  p3

木を伐りて空ひろびろとなりをりぬ月はみづからのひかりに浮かぶ 万造寺ようこ p11

犬死にと言われて犬も悔しかろ桜根方に一献ふるまう        貞包雅文 p54

功罪とまとめられつつ大半の夏は罪についてであった        相原かろ p91

とほく鳴る葉に洗はれて竹林を出づれば驚きやすき身体よ      桑原亮子 p95

松葉ずもう子に教えればその後は松葉ばかりを探して歩く      中村明美 p98

赤き布に包(くる)まれて弁当箱は僕の手のなか 揺すれば焼売(シューマイ)と焼き銀杏鳴りぬ
                                河村壽仁 p165

駄菓子屋で串ざし帆たら買ってみる帆たら辛くて顔がしぼんだ    吉澤和人 p175

帰省のたびに祖母にもらひゐし小遣ひを八十四の小母がくださる   竹下文子 p178

山影にマンション群と竹叢がやや離れゐてともに日暮れぬ     松原あけみ P196