菅首相はなぜ「消費税率10%」を口にしたのか

2010年7月2日 日刊ゲンダイ掲載

消費税の全額還付などできない

 菅首相は税制をどれだけ理解しているのだろうか。勉強しているのだろうか。消費税をめぐる言い分を聞いていると、はなはだ疑わしくなる。
 何よりも理解に苦しむのは、10%という税率を口にしたことである。自民党から「われわれの案を盗んだ」「カンニングだ」などと批判されているようだが、なぜ具体的なパーセンテージにまで踏み込んだのか。今はまだ、税率を引き上げるかどうかさえ決まっていない。数字を挙げられるような状況ではないだろう。
 仮に、消費税を上げるとなった場合は、目的を明確にする必要がある。使い道の決まっていない増税は、ぼったくりと同じだ。何を増税分で賄うのか、きっちりと説明しなければダメだし、それが決まってしまえば、必要な金額と税率が自動的に割り出される。
 そうした手順を踏まず、税率も算出されていないうちから、「10%」という数字だけが独り歩きすれば、あとから身動きがとれなくなる恐れもある。不用意な発言は避けるべきだった。
 低所得者ほど負担感が増す逆進性を緩和する道筋についても、理解しているとは思えない。菅首相は街頭演説などで「掛かる税金分を全額還付する方式もある」と言っているが、その方法は想像できない。還付を受けたい人は、すべてのレシートを捨てずに保管しておき、「たまねぎは10個」「豆腐は5丁」などと税務署で申請するのだろうか。払った消費税額を計算する申請者も大変だろうが、確認する職員の手間も膨大だ。
 還付のペースだって思案どころである。1年に1度なのか、1カ月に1度なのか。生活苦にあえいでいる人たちからすれば、毎日でも還付してもらいたいはずだ。そんな声に、どう対応するつもりなのか。
 複数税率の導入も簡単ではない。日本の消費税は欧米の付加価値税と違って、消費税の支払いと受け取りを記録するインボイス方式を採用していない。事務処理の負担増を最小限にするように自民党が企業に配慮したため、不完全な格好でスタートしたのだ。
 その欠陥を改めるのは当然としても、すでに20年以上も放置してきたツケは大きい。今さらの制度設計には相当な時間が掛かりそうである。
 菅首相が選挙前に増税の話を持ち出したのは勇気のある決断だと思う。それだけに、不勉強が目立つのは残念である。
【高橋乗宣】