君が雨に打たれているのを見た

君はうなだれて

だたっ広いその空間の真ん中にいて

服の両襟を手で立てて

その間に顔を沈ませている




君は雨に打たれて

見えなくなってしまった目で

雨のしずくが形づける

次から次へと変わる足元の模様だけを凝視し


「あぁ

 この規則性の無い

 無秩序な

 この子達の表現は

 なんて美しいんだ・・・」 と、考えていた





雷の中の君は

少し怯えた様子

敏感になったその耳は

次から次に

予測もしなかった雷鳴によって

ゲージの中の小さな生き物みたいに

落ち着かない




君の足元には少し荒らされた大地

大きな雨粒がたたいた地面の跳ね返りで

君の足元は汚されている

だからと言って

それを見つめている君は

憂うでもなく

むしろ

それを涼しげに受け止める

一少女




情けない姿を見ないで


振り返らないでと


あの季節 花のように舞っていた君が


僕のうしろで


小さくつぶやく



君は・・・



「うるおいの水を与えて


 また消えてしまうあなたを


 どう見送ればいいと言うの?


 次の日の約束など


 何もないのに


 ひとは何を信じて


 明日のために眠りにつくの?」



 ・・・と





君は声も立てず


僕の部屋の片隅


聞こえてくるのは


君の


「ふぅ・・・」という小さなため息





「返してよ


 私からもぎ取った心の果実を・・・


 ここに戻してよ


 ひとりで立っていたはずの


 あの頃の私を・・・」







私たち ふたり


たくさんの夕暮れを見送って


ここに来た





優しく水音をたてる流れのその上に


細かく震えるように揺れた


ふたつの丸くて紅い陽の形


やがて騒がしい朝がやってくる頃には


大きく散って行ってしまった





私は何も形にできなかった


あなたの愛を形にできなかった


美しいはずの茜色のあの暁を


再びふたりで見る時間(とき)はやって来ない





あなたのその温もりから


すり抜けることは難しかった


あなたを忘れてしまうことは辛かった




東の空に朝が来て


あの水面に映った


ふたつの紅い陽を


そっと両方の手のひらですくい上げようと


流れの中に手を入れてみると


あなたは左手のその左側へ


私は右手のその右側へと


流れて落ちた


ふたつの茜(あかね)・暁(あかつき)