話は前後するが許していただきたい。

海保大の訓練の中で一番危険な訓練がスキューバダイビングの訓練だ。

校庭のはずれに5メートルの潜水プールがあった。

海保大の学生は潜水士になろうがなるまいが一通りの訓練を受ける。

部下の立場で物事を考えられるかどうかをあらかじめ体験させる為だ。

空気ボンベを背負う前にまず水中で何分息を止められるのか試される。

基準は2分以上だ、最初はだめでも訓練次第でその長さはどんどん長くなる、そしてついには全員が基準を満たしやっと空気ボンベを背負い水中へもぐることとなる。

潜水訓練ではバディと言って必ず二人づつの組が編成される。

海中では何が起こるかわからない、バディのボンベが何かの理由で空になる可能性だってある。バディーブリージングの訓練はそのためにやる。

訓練の様子はこうだ、バディで水中を進んでいるとどこからともなく教官が現れてどちらかのボンベのホースを取り外す、その時慌てて浮上したりバディのどちらかがパニックになったら失格だ。

僕の場合は相棒のホースが抜かれた。

僕たちは事前に作戦を立てバディと情報を共有した。

その内容はこうだ、もし相手のホースが外された場合自分が一回吸入したら相手には2回吸入させる、ホースを外されたほうが必ず慌てているからだ。

落ち着かせるためにはバディが十分空気を吸わせてくれるという安心感を持たせなくてはならないからだ。

これで僕たちの訓練はうまくいった。