アレックスに何度か会い、どことなく彼に同性愛の匂いを感じた私は、彼との恋への期待を密かに持ち始めていました。


理想は、彼が性的マイノリティの私を好きになってくれて、男女のように愛してくれることなのですが…そんな可能性は決して高くはないことは前から分かっています。世の中に少ないから、マイノリティなわけで。


アレックスとコスプレして行くことになったアニメフェスティバルは迫ってきていましたが、そういう意味では彼の関心を確かめる機会として使えると思い始めました。


だから、コテコテのアニメコスプレじゃなくて、何かの女性キャラは選択しつつも全力でメイクして行こうと決めました。そして、いろいろ考えた結果、ルパン三世の峰不二子に扮しようと決めました。


タイトな黒系のレディースのジャンパーとズボン、赤いスカーフ、長めの茶髪ウィグを通販で買いました。あと、大きめの胸パッドとそれに合うブラも…


私は社会人になって多少体重が増えましたが、176cm、60kg前後の体型でした。当時、本格的な女性ホルモン療法は受けてなかったので胸はほとんどなく、結局、不二子さんが良く見せる胸の谷間を上手く作れなかったので、ジャンパーのジッパーは襟元まで上げることにしました。永久脱毛はしていましたが、リムーバーで再度体毛の処理もしました。


フェス当日まで、週末は家で何回も着合わせました。最初はなかなか上手くいかなったのですが、衣類を買い直したり、目尻を上げるようなメイクをして、ようやく自分でまあまあ納得できる変身姿に至りました。


そして、いよいよフェス当日がきました。朝早く起きて私は念入りにメイクし、彼の到着を待ちました。そして彼から、アパートメント下の道路に車を停めて待っている、と携帯電話にメッセージがきました。


久しぶりの女性メイク、しかも、アメリカで初めての女装外出、そして、もしかしたら恋人になれるかもしれないアレックスの前で…もう心臓はドキドキでした。


アレックスの車を見つけ運転席側ドアをノックしました。私は女装だけでなく、眼鏡も外してコンタクトを付けており、彼は最初、私と気付かなかったのか、一瞬怪訝そうな表情を浮かべた後、私と認識したらしく、ワーオ! トシ、凄い! 女性にしか見えないよ!と言いながら車から出てきて、私のために助手席ドアを開けてくれました。そして、峰不二子かな?って聞いてくれたので、私は笑顔で頷きました。


私のほうも彼の表情や反応をずっと見ていたので、最初は彼の衣装を良く見てなかったのですが、上から下まで見ると、着流しを着ており、るろうに剣心のコスプレしているようでした。和服のアレックスはまた可愛いくて、また胸キュンでした。


その後は彼の車でいろいろ話ながら会場に向かいました。女装は今まで経験あるの?と聞いてきたので、日本では経験ある、と私は正直に答えました。彼は、とっても美しいね、ボーイフレンドになりたいくらい、と嬉しい感想をサラッと挟んできましたが、彼はあまりその話題に深く立ち入らず、アニメの話題に変えていきました。


もっと私の英語が流暢なら、私から会話を性的マイノリティの話題に向けられたかもしれませんが、それができず、とりあえず、話の流れに従っておくことにしました。


フェスはものすごく盛況で、多くの人がコスプレしていました。セーラームーンなどの女子キャラに扮してるおじさんも何人か見かけました。懸念していたトイレについては、アレックスと連れションして解決しました…笑

また、混雑しているブースでは、はぐれないように時々彼と手を繋ぐこともできました。

イベントや売り場を回ったり、ランチやお茶をして、あっという間に一日が終わりました。


帰りもアレックスの車で家まで送ってもらいました。別れ際、彼が車から出て来て、前回よりも更に強くハグされました。今日はとても楽しかった、また会って欲しい、と言いながら。


私も抱き返しましたが、せっかく全力で女性メイクして行ったので、キスなどもっと踏み込んでくれたら更に良かったのに…

でも、とりあえず嫌われていないこと、そして、次回に可能性が残ったことは分かったので、その日はそれで終わりにしました。


続きは次回に書きます…