今はもう閉店しちゃいましたが、新宿に私がよく行っていた飲み屋さんがありました。そこは、ママさんがニューハーフで、お客さんは一般の方だけじゃなく、当時の私のように時々女装する方から、性別適合手術を受けたMTFトランスジェンダーさんも来るお店で、情報収集や友達探しのため、よく行ったところです。


そのお店に、平日はスーツ姿、週末は中性的なファッションに少し長めのウィッグを付けたり、たまにメイク・女装して行くこともありました。


ある週末、近くの女装ルームでメイクして早めにそのお店に行きました。週末は賑わう日も多いそのお店ですが、たまたまお客さんがいなくて、私1人で入ったのを覚えています。せっかくメイクしてきたのに他のお客さんがいない!と残念に思いつつ、ママさんと世間話していたら、その方がお客さんとして入ってきました。


私よりも背が高くて、少しタレ目で優しそうな顔をした当時40代後半、私より20才近く上の方でした。ママさんの勧めで、私の隣に座ってきました。お店に来るお客さんは年配の方々が多く、私はそれまで同年代の男性にしか恋心を抱いたことがなかったので、お店の年配の男性のお客さんにあまり興味はなかったんですが、隣に座ったその人の穏やかな話し方や、話をしたら伝わってくる優しそうな人柄、話の面白さ、私が好きな声優さんのような渋い声、年齢を感じさせない体格、爽やかな見た目と服装など、どんどん気になってきました。


その人とママさんの会話で、その人がバツイチであること、今は付き合っている人がいないこと、本物の女性(業界用語で純女)はもう懲り懲りと思っていること、普段は真面目で堅い職業に就いていること、私と同じくアニメ好きなこと、などが分かりました。


その会話に聞き耳たてながらも、もともと引っ込み思案の私は会話に刺さることなく、飲みながら携帯イジっていたら、ママさんが話しかけてくれて、その方(Yさん)とも少し話せるようになりました。


Yさんは、私が女装であることをすぐに見抜いてきて、それだけでもとても恥ずかしかったんですが、低めの渋い声で、としえさんはとっても美人さんですね、と褒めてくれました。もう、私は顔が真っ赤になるほど恥ずかしく感じ、ありがとうございます、とだけお返事するのがやっとでした。


今まで女装してお店にいくと、ベタベタ触ってくる不快なおじさんとか居たんですが、Yさんはあくまでも紳士で、私のことをさん付けで呼んでくれて、最後まで丁寧な言葉使いをしながら私が女性であるかのように接してくれて、もう好感度マックスでした。


そんな紳士なので、Yさんから連絡先教えろとかガッついてくることもなかったのですが、逆に私の方が、Yさんから連絡先交換しようと言ってほしかったなぁと帰り道に残念に思ったほどです。


また会いたくてメイクもしてしばらく同じ曜日、時間帯に通ったのですが、全然会えませんでした。そして数ヶ月経って、もう会えないかも、と諦めかけて、私は女装メイクもせずに別な曜日の別な時間帯に行ったら、なんとYさんが入ってきました。


すっぴん姿見られるのは嫌だから帰ろうとも思いましたが、またYさんとお話したいという気持ちが勝ち、そのまま居ました。


Yさんは私を少し見つめ、ちょっと時間おいてから、もしかしたら、ええと、としえさん?って仰って隣に来てくださりました。とにかく覚えていてくれたこと、すっぴんなのに気づいてくれたこと、遠ざけることもなく隣に座ってくれたこと等が嬉しくて…一瞬涙出そうになっちゃいましたが、すっぴんの照れ隠しもあり、”あ、そうです”と平静を装っちゃいました。


その日、酒の力も借りて、自分のこれまでの経緯とか性の悩みとか、Yさんにいろいろ話しました。穏やかに全部聞いてくださって、話しやすくて、どんどん親近感を持ってしまい、帰る前にとうとう私から、連絡先交換してくれませんか、って言ってしまいました。


Yさんは嫌な顔一つせず、携帯電話番号やメールアドレスを教えてくれました。早くYさんから連絡こないかなぁ、と思いながら帰りましたが、その晩遅く、”楽しく飲めました、ありがとうございました。また会いましょう”、みたいなメッセージが届き、久しぶりに胸が大きく踊りました。


何度かメッセージをやり取りしているうちに、今度、食事か飲みに行こう、とYさんから誘ってくれました。私は平日は普通のサラリーマンですけど大丈夫ですか、と聞きましたが、もし男性姿で現れるなら友達っぽい感じで飲もうと言われました。


ん〜、友達っぽくされちゃうのは違うぞ、って思い、休日メイクして、女装ルームの近くでお会いすることにしました。


長くなるので、続きは次回書きます。