私が、家業の後継者時代に、経営者勉強会で「なるほどなぁ・・・・」と思って、以降この
基準で考えています。
今の私の立場に至る経緯や仕事観に対して強い影響を受けています。
まぁ、現時点では、後継を放棄し、今や後継など考えるどころの騒ぎではない
私が言うのもなんですが(苦笑)。
後継者に関しては様々な問題があるでしょうが、手続き上の知識や、スムーズな方法よりも
最も大事なのは、後継する側が、後継するそれぞれの対象によって、事前からどういう
腹というか覚悟をもっておいた方が良いか?という話です。
後継の対象には大きく二つあって、どちらを選択するかで事前の腹の持ち方と、
考えを周りに伝えておくこと、準備しておくこと、が変わってきます。
中小企業の後継の対象というのは大きく二つです。
①血縁に後継する。(要するに息子さんとか)
②他人に後継する。
この二つしかありません。
どちらを選択するかで事前の腹の持ち方と、考えを周りに伝えておくこと、準備しておくこと、
が全く変わってきます。
①の「血縁に後継する」と決めている場合に、後継する側が先に覚悟しておいた方がいいのは、
「自分の腹心とも言える、ずっと一緒に頑張って着いてきてくれたナンバー2や社員を
最後は非情に自らの手で切れるかどうか」の覚悟でしょう。
息子が社会に出る適齢期になって、自分の会社に入って社内・社外も含めて色んな意味で
仕事を憶えて、実績もついてきて、いざ継がせようとなった時、世代交代していく息子にとって
誰が一番の邪魔者か?
それは、今の社長である自分に、長きに渡って、辛い時も苦しい時も着いてきてくれた
最大の協力者であった古株の社員に他なりません。
果たして、最後の仕事として、彼らを自分のその手でブった切る覚悟があるのか?と
いうことです。
大抵は、そんなことできません。私の価値観では、そんなことできるワケがありません。
と、言うかそれが普通の感覚だと思っています。
しかしながら、息子さんが事業継承して業績を伸ばしていくという点においては、
遅かれ早かれ、最も邪魔な存在になるのも彼らであることもまた確かなのです。
これは社歴の長い方達の人間性や性格の問題ではありません。
息子さんが、やり易いか、やりにくいかの次元です。
年齢も上、社歴も長い、小さな頃からここまで育ててもらった恩、仕事を教えてもらった経緯
もある。
相手の立場になってみれば、育てた、力になった、教えた、ここまで会社を伸ばしてきた、
守ってきた、貢献してきた、辛いこともこらえてやったきた、自分がやってきたからこそ今の
会社がある、という自負がある。
これからがやっと思い通りになるという気持ちもある。
そこそこに年収もあって、簡単には手放せない。
できればそろそろ楽をさせて欲しい。
自分はまだ会社や社会から必要とされている自負も持っていたい。
まだ子供もいるし、家や車のローンもある。
そういう様々な気持ちや事情が幾層にも重なりあいます。
逆に、年を取れば体力は落ちて当然だし、時代が変わればそれまでの能力や技能は
通用しなくなっているし、生産性は上がらない。昔はどうあれ、今はぶら下っているだけの
コストだけ・・・・。
大変な社会環境の中、業績が苦しくなってきた時にお荷物以外の何物でもない。
後継者にしてみれば、恩や情はあるわ、でも生産性のないコストをカバーできるだけの
余力もない・・・・・・。
ずっとこの会社でしか社会を経験してこなかった人を、年を取ってから、今さら社会に
ほっぽり出したところで、やっていけるのだろうか・・・・。
冷たい経営者と思われたくない、言われたくない、何よりそんな自分ではいたくない・・・・。
でも、言う事は聞いてくれない、思うように動いてくれない、一つ何かを言うのにも気を使う、
電話の出方や、仕草一つとっても気に入らないけど、強くは言えない・・・・・。
業績がいい時はいいのですが、厳しくなってきた時こそ、相当に苦しむのです。
後継者は、この選択に苦しみながら、意思決定を送らせていき、本当に最後の最後に
なるまで手を打てずに、終わっていくパターンはあります。
かく言う私もその一人でした。
まぁ、私の場合は、私がボンクラ3代目だっただけですがね(笑)。
いざ、最後のその時になって、切る覚悟などとても持てないのであれば、
継承する側の今の経営者が打っておく手は、できるだけ早く、今の側近や頼りにしている社員に、
そのデメリットとメリットを明確に伝えておくことだと思っています。
「将来は息子に継がせるので、その時になったら君には辞めてもらうことになる。
その変わり、その時に備えて、君には辞めてもらった時の為の十分な資金体制と、
社会で通用するだけの本当の実力か備わる育成ができるようになる関わりを
約束します。どうかそれまで一緒にやって欲しい。」
と、最初からパートナーに言っておく、あるいは、そう自分の中で決めておくのと、
将来の継承の事など考えることなく、
「一緒に世界一を目指して頑張ろう。」
と、大企業でもないのに一緒に夢だけは掲げて、一緒に年だけ取っていく。
中小零細企業に優秀な人材など入ってこないので、頼れるのは息子さんだけで、
後はよろしく頼む、という状況に陥っている時に、それまでの相方に対してどうしようと
考えるのとでは、準備がまったく違うと言うことです・・・・・。
父は、今まで一緒にやってきてくれた社員に対して非情にはなりたくない。
息子は、父を助けてくれてきた恩ある社員さん達に冷たい仕打ちはできない。
社員に対して「冷たい人・ひどい人」に自分はなりたくない、という当然の気持ちの
ぶつけ合いになったら相当に苦しむわけですから、そうならない為にどうするのかを
先に考えておいた方がいいということです。
そういう意味では、立ち上げて間もない、若い世代達で業績を上げている会社ほど、
先に考えておくと双方にとって良いと思っています。
②の「他人に継承」する場合の経営者が決めておくことは、経営を渡した後に自分が仕事以外に
何をして人生を送っていくかの楽しみを見つけておくことでしょう。
自分の息子に頼らざるとも、他人が継ぎたいと思える程の会社ということは相当に魅力のある
会社であるというのが前提だと思っていいでしょう。
この場合、継承者と言っても赤の他人が、自分が人生を掛けて成し得てきた証明ともいえる
経営そのものを、煮るなり焼くなり好きにしても一切口出しせずに、経営から身を引き、
関わらないという覚悟です。
ただ、これができません(苦笑)。
仕事しかしてこなかった人にとって、仕事がなくなるのは、人生をどう過ごしていいか知らない
自分を目の当たりにするということでもありますから。
だから、社長室とか会長室とか、そういう場所もちゃんと造って、自分の居場所を得ようとしたり、
一応、役職名は継承するものの、業務内容は一切変わらず、今まで通りのお仕事の日々が続く
というようなやり方になります。
仕事によって、他人に存在を認められ、世の中のに立っている自負を成立してきた人にとって、
仕事を取り除くというのは耐えられないのだと思うのです。
ただ、そうなると、いくら継承したと言っても、なんだかんだ言ってつぺこぺ口出しするでしょうし、
「やっぱり、まだまだオレがいてやらないと・・・・・。」と自分で思える仕事を探してきては何か
やろうとします(苦笑)。
さらに、赤の他人の後継者の選択が、自分の許容の範囲ならいいでしょうが、それを越えるもの、
例えば、扱い商材を一気に変えてしまうとか、社内風土が変わってしまうとか、自分の血と汗の
結晶とも言える自社物件の土地・建物を経営判断としては正しい理屈で全部売ってしまう、
みたいなことがあった時、
あるいは自分の基準ではこれは無謀に決まっていると思えるような掛けとか、
自分の考えてきた経営理念を買えてしまうとか、そういう時に、
果たして本当に何も言わずにいられるのか?ということですね(苦笑)。
それができるのはただ一つ。
継いだ他人が、倒産させようが何しようが、それよりも強い興味と情熱をもって打ち込める何かを
見つけておくということに他なりません。
それが、例えば、博打なのか、女なのか、世界の旅なのか、絵を描くことなのか、ゴルフなのか、
それは知りませんよ(笑)。
ただ、人というのは、どうやら「誰かの役に立っている自負」がないと耐えられないそうなので、
勇退する10年くらい前から、色んなことを試しながら確定させていくというのがいいと聞いて
はいます。
私なんて、そうなれたら、なんて幸せなんだろうと思ってはいますが(笑)、そうなったらなったで
色んな思いを知るんでしょうね(苦笑)。
そう言えば、以前こんな話を聞いたことがあります。
「仕事で忙しい最中、海外の仕事で電車に乗ったら、ある老人と隣り合わせになって
話すうちに意気投合して、友達になった。
聞くと、その老人は、いまや勇退して悠々自適に世界を旅して回っているという。
『素敵な人生ですね、羨ましい。』と言ったら、その老人はこう言った。
『何が素敵なもんか。私は君の方が羨ましい。君はこうして世界を旅して、その経験を
次の人生に活かすことができるじゃないか。私には、もうそれがないのだよ。』」
何だか奥の深い話じゃありません?
口では、「もう私の出る幕ではないから若い者に任せる」と言いながら、一向に自分の手放したくない
作業や業務を嬉々としてやっている経営者さんもいます。
「私は60歳で勇退する」と以前は宣言しておきながら、60歳になったらいつの間にか10年伸びて
70歳になっていたり(笑)、しまいには一生現役とか何とか言って、ずっと社内でのさばっている
人もいます(笑)。
「私の残された役目は、部下達を育てることだ。」とか何とか言って、誰からも頼まれてもいない
のに、言うこと一方的に聞いてくれる立場の社内研修なんかやったりして独演会し続けることで
楽しむ人もいます(笑)。
それが悪いというのではなく、大抵は、そういうもんじゃないか・・・・・と思うのですね。
傍から見れば滑稽以外の何物でもないのでしょうが、本人からしてみれば、それほどまでに
経営というのは、人生を注げば注ぐほどに、簡単には抜けられないものだと思うのです。
そういう想いをブッた切れる程、その後の人生を掛けられる対象を探すとなると、きっと相当
なんでしょうね。
ほんの二週間ほどだったらイヤと言うほどやってみたい、というのはあるんでしょうけど、
その後の人生全部ってなると、パッと言えるかというとそうでもないでしょうしね。
私なんて、一生グータラできて、好きな時だけ好きな事できたら、絶対文句言わない
自信あるんですけどね(笑)。
まぁ、そういうことです。
どちらにせよ、自身の終わり方をどうしていきたいかから逆算して、その為に、今から
何を準備して、周りの人達に何をどちらを前提に考えているかを伝えていくことが
大事だということですね。
私は、どちらも面倒だから、継承する立場も、される立場も放棄したということでしょう(笑)。
どっちもそれなりにやって来たと思っていますが、そんなもんに右往左往させられるより、
もっと優先したいことがあるという結論に達したのでしょうね。
色んな経営者の方達と出逢っていく中で、
私が、今のところ「スゴイ継承をしてる会社だなぁ。」と思う会社は、知り合いに
4社ほどあります。
その全部が、先代の社長であるお父様が、息子の実力がどうとかは関係なしに、ある日突然
「はい、今日からお前が社長。もうオレは何にもいないからね。あとは好きにしていいよ。」
と言って、ホントに一切関わっていなくて、いらん口も出さなくて、後継者である息子さんも
実力があってそれぞれのステージで立派な業績を上げているというのが共通しています。
そりゃまぁ、内部事情は色々とあるんですけど、色んな意味で、心からスンゲーなぁと思いますね。
双方の腹のくくり方というか、物事の受け止めというか、意図してやっているのか、ホントに
天然でそうやっているのか知らないけれど、共通しているのはいらぬ自尊心がないというか、
他人からどう見られるかということに無頓着というか、そういう器の大きさのような気がします。
継承は、手続きや方法よりも、最も難しいのは、そこに関わる人達の心情が最もややこしくて
仕組化ができない難しさがあるのでしょう。
中小零細企業で、そこそこ業績が良いとこに息子を入れるとなると、これでこれで
面倒で、
まだ息子が小さいうちは、「息子の人生なのだから、自分で切り抜いていって欲しい。」
とか何とか言うのでしょうが、それは息子が優秀で大企業に就職できたりとか、自分で立ち上げた
事業が家業よりも大きくなったとか、それならいいですが、そうじゃなかった場合・・・・・、
例えば、箸にも棒にもかからんほどのボンクラだったり、就職がうまく行かなかったり
したら、そうなるとやっぱり親は自分の会社に入れようとするでしょうし、息子もイザとなったら
最後は頼るでしょうし、受け皿として捉えているでしょう。
始めのうちは、「血の繋がりは関係ない、実力で評価します。」とか何とか口では
言っていても、2~3年経って、周りの業者さんとかに「いやぁ、息子さん、すっかり頼もしく
なってきましたねぇ。」とか何とかお世辞を言われ初めて、
社員にも「どうでもいいけど、あんたの息子さんほどマヌケでバカな奴って今まで見たこと
ないですよ、社長。」なんて言う奴もいないもんだから、
「そろそろ、ウチの息子も力が着いてきたから、後継者にしていっても・・・・・・。」なんて
思いだすものだと思うのです(苦笑)。
そうそう簡単に力なんて付いてないっつーの(苦笑)。
だって、そもそもあんたの会社程度の会社にしか就職できなかった程度なんだから(苦笑)。
しかも、他の学生のように就職試験なんて受けてなくて、入社決定させてたりしますから(笑)。
業績が悪くてピンチの家業だとして、それはそれでまた難しくて、
親の方も、絶対に自分を裏切らなくて、助けてくれるのは、最後は血の繋がりでしょうから、
「お前が戻ってこなかったら、もう終わっていくしかない・・・・・。」なんて言ってね(笑)。
私は私で、色んな事情や心境やキッカケがあって家業に戻りはしましたが、
じゃあ息子じゃなかったとして就職活動する時に受けたいと思った会社かと言ったら、
絶対に入社なんてしなかったわけで(笑)、
それでいて、数年経ったら「いい人材が欲しい」なんて願望もってましたもんね(笑)。
どれがいいとか悪いとか言うより、中小零細企業の継承って言うのは、最後はそういう
もんなんだろうって思うんです。
なんだかんだ言って、よほどの大企業じゃない限り、息子がいる会社は、息子の経営者と
しての資質や能力や性格どうあれ息子が継いでいるし、
息子じゃない会社は、息子がいないか、あとは継がないという選択をしたから、他人が入って
やっているってとこじゃないでしょうか。
そういう意味で、中小零細企業というのは、良くも悪くも「情」に厚く、とても人間らしいのが
当然なのだと思うのです。
が故に、せっかくの「情」があだとならないように、「理」の思考をバランスさせておくと
いいと思っています。
じゃないと、せっかく「情」で着いてきてくれた大切な社員や仲間に対して、
最後に双方が苦しむことになり兼ねません。
社員は社員で、「アホか、こんな継承、オレは認めんぞ。あの息子が来てからおかしくなった」と、
とやかく言うなら、そんな会社とっとと辞めて次のステージに行けばいいだけのことで、
そうなった時の為に今の仕事以上の自分の力を蓄えていくべきでしょうし、
息子は息子で、継いだ会社がどんな状況であれ、選択したなら、誰がなんと言おうと実績で
ひっくり返していく力を付ければいいことでしょうし、
親は親で、とっとと退いて腹がくくれる器と、どうなってでも豊かな人生を歩める準備をすれば
いいでしょうし、理屈上はそう割り切っておけばいいのだと思います。
実際は、それができないんだけどね(笑)。
「先に考えておく」というのは、全くリスクがありません。
カッコいい言い方をさせてもらうと、私は、自分が苦しんだり葛藤して足踏みしたことは、
人にはして欲しくないと思っています。
私を筆頭に(苦笑)、誰もが、社会や身の周りが、どんな状況・環境になっても、自分の仕事を
続けるだけの実力がつくことができたら、他人のせいにしなくて自分の生き方ができて
素敵だなぁと思うのです。
継承する側も、依頼される側も、基本は自己責任。
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