12月8日の日曜日、静岡県立中央図書館の依頼で静岡県立大学の大講堂で講演をして来ました。講演は大嫌いで、いつも自動的に秘書がお断りするのですが、今回は高校時代の友人が間に入ったため、お引き受けせざるを得ませんでした。
「本はどのようにして作られるのか?―編集者血風録―」
という長いタイトルを付けたのですが、講演というのは、どうやっても自分の自慢話になるわけで、当日の1ヵ月前から憂鬱、喋っている最中は自己嫌悪で一杯、終わってからも苦さをずっと引きずるのが常になります。しかし今回は、終わった後、苦さがスッーと引きました。主催者である静岡県立中央図書館の館長である谷野純夫さんが、実に僕のことを良く理解してくれて、始める前の控室でも想像力に溢れる言葉を駆使し、終わってからも、的確な感想を伝えてくれました。これだけ、誠意のこもった応対は僕のやった講演会では初めてのことで、谷野さんのインテリジェンスに舌を巻きました。
 それともう一つ。
 終わった後、県立清水南高校の同級生5人とホテル・アソシア静岡の中華「梨杏」で食事をしたのですが、その前に奇蹟としか思えない偶然の出来事がありました。
 人生って捨てたもんじゃないなあ、としみじみ思っています。講演して良かった。そう思えたのは、これも初めてのことです。
 どんな人も、それぞれの事情を抱えて必死に生きている。その人たちの息遣いや肌ざわりを少しでも真っ芯に受け止めたいと心して生きて来ましたが、今回の偶然は、その想いがどこかで繋がったような気持になりました。
「もう少し必死に頑張って生きてみるか」
と呟いている自分がいます。
 思いがけない大きなことが起こるのが奇蹟ではなく、小さくて密やかな真心の交錯が奇蹟を引き起こす、そんな感慨に浸っています。
 そろそろ3ヶ月先まで毎日ビジネスの会食が入っている生活は止めにして、自分の人生の終着点を考えながら、これからは小さな様々な出会いをしっかりと噛みしめて生きて行こうと思います。今回の講演会は改めて、そんな想いを強くしてくれました。