この短編も父のお気に入りの一編です。 「少女架刑」の少女の身体もここで出てきます。

これも短編なので、ネタバレしてます。ガッツリ読みたい方は控えた方が良いかもウインク

 

 

「星への旅」 新潮社文庫 収録   ~透明標本~

 

主人公: 深沢 倹四郎 男性 年齢:60歳過ぎ      

職 業: 大学病院の骨の標本作り

家 族: 妻 登紀子 娘 百合子(20歳すぎ) 

     妻とは再婚、百合子は連れ子 主人公の仕事の内容が知れると皆、離縁し去って

   行った。その数、十数人。登紀子にも仕事の内容がバレないよう細心の注意を払ってい

   る。 

     登紀子の再婚理由は貧困。病弱でもある。百合子は定時制高校を出て働いている

  が、 困窮していた。登紀子は47歳で再婚。百合子の大学進学費用が結婚の条件の一

  つ。

 

時代: 少年期を過ぎた頃に関東大震災がおきている。年齢から考えて昭和40年代半ばか?

 

内容

  大学病院で骨格標本を作る倹四朗には、根深く熱い願望があった。それは、美しい骨格標本を作る事。

 彼の義父は彫金師で、煙管の飾り彫りや象牙などのパイプに男女の淫らな様子の彫刻などで生計をたてていた。関東大震災の際に、義父は人骨を手に入れそこに彫刻を施し、警察に捕まってしまう。倹四朗もそれを手伝っていたのではないかと疑われ拷問を受ける、その折に義父が彫刻を施した骨を刑事から突き付けられ、人骨の美しい色や手触りに魅了されてしまう。義父はその時の拷問が原因でなくなってしまうが、倹四朗の疑いは晴れ、釈放される。

 たまたま、骨標本の仕事を紹介され今にいたっている。

 倹四朗の仕事である骨標本は解剖や臓器の標本が全てとられた後のものであり、遺体としては古く、彼の思うような美しい骨標本は作れない。

  新鮮な遺体でしか、彼の思う美しい標本は作れず、大学病院教授にもしつこく新鮮標本を願い出るが、適当にあしらわれている。

 倹四朗は小動物で透明標本試作する。人骨への執着は薄れない。ある日、亡くなったばかりの女性の遺体が病院に運び込まれる。倹四朗は、教授が新鮮な遺体を骨標本のために回してくれると約束したと主張するが、あっさり無視される。

 この女性の遺体が「少女架刑」の少女である。

 さて、義理の娘の百合子は倹四朗を毛嫌いしている。経済的に困窮していなければ、母親が再婚する事はなかったのだから。

 その百合子が急逝する。

 その時、倹四朗はこれがチャンスである事に気がつく。彼は百合子の親族として大学病院に彼女の身体を献体した。

 もちろん、骨標本とするため、、、。自分の娘であるのだからその所有権を主張して当然と考えたのだろう。

 

 

「透明標本」は、倹四朗が遺体に付き添って大学病院に車で向かうシーンで終わっている。

 

 

 倹四朗は彼の骨標本を創れたのか?それは、「少女架刑」に記されている。

 

「骨は白味を帯びていたが、どの部分もギヤマンのように透き通っていた。」

 

 

「少女架刑」の少女は、こう語る。「私の身体は茶色い肉塊と薄汚れた骨片           ~略~ 

私は、その人骨より自分の方がまだ恵まれていると思った。危うく老人の手を逃れた私は、~略~」 

 

死者にとっての幸せは、深い静寂に包まれた安らぎ、、、と少女架刑の少女は語る。

 

そうなんだろうな。

 

この小説は、遺体や骨が中心に据えられながらも、猟奇的な空気やサイコパス的なものは感じない。

年老いた男の淡々と描かれる日常とほの暗く、湿ったような熱情を感じる。

 

この熱に私は魅了される。周りからさげすまれようと、振り払えない熱。

倹四朗は自分の創作物を認められ、評価されたいとも思っている。その凡人さ矮小さも、私にはしっくりとくる。

 

中学生の時に読んだと思う。世の中には、一般的な価値観に当てはまらなくても、魅了され取り付かれれば、人はそこから容易には離れられない事があると知ったのは、この小説からだったと思う。もちろん、犯罪はなしだけど。

 

ギヤマンのように輝く骨、どれだけ美しいのだろうか?

 

初めて読んだ時、とても印象的な小説だった。でも、普通父親は、こういう小説を思春期の娘には紹介しないと思う。自分が読んで面白かったんだろうな。

 

 ふと思った、私は吉村氏の小説で出来ている。氏の本の一部しか読んでいないので、大げさかもしれないが、中高生の私に与えた影響はかなり強かったと今更ながら思う。

 

 父に感謝。もう、そう伝えても認知症の父には届かないかもしれないが、感謝。