親友のお父さんは、去年の夏、交通事故に遭った。


 もうじき1年経つというのに、お父さんの意識はまだ戻らないそうだ。


 意識不明でも、症状の軽い日もあるけど、症状が重い日がほとんどなのだそうだ。




 僕は3年半ほど前、信号無視野郎の大型トレーラーに轢かれたけど、頑張ってリハビリを重ねたかいがあって復職できた。


 お父さんが轢かれた時、目撃者がいなかったんだそうだ。


 信号無視野郎が僕を轢いたときも目撃者がいなかった。


 交通事故で目撃者がいなかったとき、加害者はウソばっかり言う。


 それは、「疑わしきは被告の利益」っていう日本の裁判の原則があるらしいからだ。




 僕を轢いた信号無視野郎は、ウソばっかり言っていたけど、目撃者がいなかったから、検察は否定できなかった。


 だから、執行猶予付きの有罪判決になったけど、そんなのは、加害者にとって無罪に等しい。




 親友のお父さんを轢いたやつは、ウソばっかり言っていたけど、目撃者がいなかったことで、不起訴になったんだそうだ。


 そんなこともあって、被害者であるお父さんの意識はまだ戻らないのに、加害者側の損保が、親友に会いに来たらしい。


 「そろそろ症状固定を・・・」と言ったそうで、親友は頭にきて「加害者は謝罪にも来ないのに、加害者側の損保は示談したいというのですか?」と、あえて丁寧な言葉で、加害者側の不誠実な行動を指摘したそうだ。




 目撃者がいない交通事故で、被害者側が辛い思いをするのは、もうたくさんだ。


 加害者側に過失がないことを証明できなければ、それは被害者の利益にするべき、いや、被害者にとって、利益などあるはずもない。


 だから、これ以上の苦しみは、加害者に食らわせるべきだ、と思った。


 まだ意識が戻らないのに、事故の責任まで押しつけられた悔しさに、親友は辛そうだった。


 それを元気付けてあげられない僕も、悔しい・・・。