この記事は旧ブログ【鳥飼の自由研究室】(2019年9月21 日の記事)より転載(再掲載)しました。


私が初めて"自分の印鑑"を手にしたのは、中学校の卒業式の時だった。


卒業証書と共に手渡された記念品の印鑑は象牙を模したクリーム色のプラスチック(合成樹脂)製の三文判で、名字が古印体で彫られていた。所謂「認め印」で「銀行印」としても使えるようなものだった。男子は黒、女子は赤の印鑑ケースに入れられていた。生まれて初めて手にする自分だけの印鑑は、安物ではあったけれど、少しだけ大人になったような気がしてとても嬉しかった記憶がある。

中学校を卒業した私は早速、駅前にあった横浜銀行で自分名義の銀行口座を作った。印鑑と通帳・キャッシュカードは親に見つからない場所(自室のカーペットの裏や押し入れの天井裏)へと隠した。子どもの頃に作った郵便貯金口座にお小遣いや親戚からいただいたお年玉をコツコツと貯めていたのだが、気が付いた時には母によってほぼ全額が引き出され、使い込まれていたからだ。母は娘を自分の所有物だと言って憚らなかったし、娘のお金も母のものだと思っている節があった。こういう被害に遭った子どもは思いの外、多いように思う。友人にこの話をすると「ウチもやられたよ。お母さん銀行ほど信用できないものはないわね(笑)」と力なく笑いながら言う人の、いかに多いことか。

生活や子育てには何かとお金がかかる。
だからといって、子どものお金や貯金に手をつけていいものか...?

否。金銭的にだらしのない奴は、何をやらせても駄目だ。

私は自分自身の体験を踏まえて「私が子どもを持つことがあったら、子どもの印鑑と子ども名義の預金口座を作って、毎月少しずつでもいいから、コツコツ貯金をしよう。そしてその子が大きくなって、本当にお金が必要な時に印鑑と預金口座ごと渡してやろう。」と考えた。

お金で愛情は購えないが、愛情をお金で示すことは可能だ。(※これは私の座右の銘です。)

自分がして欲しかったことを自分の子どもにしてやることは、とても楽しく嬉しいことだ。
私は息子が生まれてすぐに印鑑を作った。「赤ちゃんはんこ」という商品で、価格は30000円くらいだった。本象牙を使っているから、こんなに小さくてもいい値段がするのだ。

この小さな印鑑に彫るのは、名字ではなく名前の方がふさわしい気がしたから、息子の名前「智○」で作ってもらった。男性が名字ではなく名前の印鑑を使う、これは印相学的にあまり良くないようだ。そのことを知ったのは、注文した後だった。まぁいい。息子が大きくなったら、また新しい印鑑を作ればいいことだ。

気を取り直して、私は生まれたばかりの息子を連れ、身分証明書と「赤ちゃんはんこ」を持って最寄りの金融機関(銀行)へ行き、息子名義の預金口座を作った。それから現在に至るまで、毎月積み立てを続けている。

話を元に戻す。

私は中学校卒業後に手に入れたその三文判を、結婚するまで大切に使った。結婚するにあたって、新しい印鑑を作る必要性に迫られて作ったのが水晶の印鑑だった。本水晶(黄水晶)で作られたそれはとても美しく、触るとヒンヤリとした冷たい感触がした。結婚して姓が変わると、銀行や証券会社、保険会社等の名義と登録印を変更しなければならない。私は新しい水晶印で全ての書類を変更した。

本当に面倒臭いったらなかった。

女は男ができたら処女を捨て、結婚したら名字を捨て、子どもを産んだら女を捨てる。

その上、私は親を見捨てている...。

何かを得る代償に、何かを捨て続ける人生。

生きるということは、何かを失い続けるということなのかもしれない。

今から数年前に結婚生活に行き詰まった私は、銀行口座と有価証券(株式や投資信託)の整理をしようと思い、久しぶりに印鑑をケースから取り出してみたのだが...

『印鑑が、欠けてる...orz』

特に衝撃を与えた覚えはないのに、印鑑の右上の部分が大きく欠けてしまっていたのだった。

調べてみたところ、『水晶印など石が使われたものは、欠けやすいため凶運を招く印材として、古くから恐れられてきました。易学では、病気・詐欺・失敗・貧乏・不安定・孤独の運命を辿るといわれていれる大凶相印です。』とのことだった。

私は占いは基本的に信じない性格だが、ここまで書かれているとは...確かに欠けやすい印鑑は不便で不経済だ。昔の人や印鑑のプロの言うことには一理ある。縁起を担ぐのも悪くはないだろう。

私は印鑑を作り直すことにした。

そして自分なりに色々と調べた上で将来的なことも考えて、銀行印と実印の二本を作ることにした。
銀行印(上) 実印(下)
銀行印は本柘植で、私の名前を横書きで彫ってもらった。本柘植は軽くて欠けにくく、手入れ次第では長持ちすること、下の名前で作ったのは今後"姓が変わる事(離婚)"があっても、そのまま使い続けられること、横書きにしたのは「お金がたてに流れないように」という意味を込めたからだ。

この銀行印は軽くて持ったときに温かい感じがして、私はとても気に入っている。

実印はチタンで作った。易学(印相学)的には金属素材の印鑑は良くないらしいが、チタンの強度・耐久性・耐食性に魅力を感じたからだ。欠けることなく、半永久的に使用できるなんて素晴らしいではないか。

見た目の美しさ・綺麗さで選んだ脆く欠けやすい水晶印よりも、堅牢なチタンの印鑑のほうが今の私に相応しい。

色がピンクなのは他の色に比べて短納期だったから、それだけの理由である。

実印も銀行印と同じく、名前を横書きで彫ってもらった。

そして実印登録をする為に、出来立てほやほやのを実印を握りしめて村役場へと向かったのだが...ここで思いもしない問題が発生した。

なんと、実印の上下左右がわからなくなってしまったのだorz

私も村役場の人も、実印を紙に押してひっくり返して見たり、色々な角度から見たりしたのだが全くわからず、村役場の奥からベテランの職員が出てきて「多分こっちが上だと思います...。」と言った角度でやっと登録することが出来たのだった。

ちなみに私の名前は三文字で、小学二年生までに習う程度の簡単な漢字が使われている。それなのにわからないとは...複雑過ぎる書体で印鑑を作るのも考えものだと後悔することしきりだ。

完全に出鼻を挫かれた...orz

そう...私はしっかり者だと思われているが、実はかなり抜けている。だから他人から甘くみられる(舐められる)のだと思う。

チタンの印鑑のように、強くなりたいと思う。
実際にこの実印を使う日がくるかどうかは定かではないが、これは私の"お守り"として今でも大切に保管している。

※この実印は普段は主人の目の触れない場所に保管しています。何故なら主人がとても嫌がるからです。この印鑑を見ると、数年前の修羅場を連想させるからだと思います。本当にあの頃は大変でした...(遠い目)