わざわざ裏口から入ることはないだろう。だって。俺たちは客なんだぜ。表の。キレイに磨かれた。電気のちからで開いたり。電気のちからで閉じたり。する。あの。ガラスの扉から入るべきだよ。それをこんな。ちいさな。木の開き戸の捉手に手をかけて。そんなこと。俺は。承知しない。


どこから・だって・いいわよ。要は。店へ入れればいいのよ。そうすれば。雨や雹や霰が堕ちてきやしないか・なんてことに悩まされずに済むわ。ヘンなオジさんが。恩着せがましく・傘を広げ・やしないか・なんて。そんなこと・されたら。ありがたくもなくて・迷惑なだけだわ。なんて・ことも。考えずに済んでしまうのだし。

それに。


裏口というのは。この店の中で並べられる。いろんなものが。搬入される場所でもあるわけだよ。キミたち。若いキミたちふたりにとって。きっと。これからのちのキミたちの人生において。折に触れて。思い出しては懐かしむに足る。なにごとか。を。目の当たり。に。する。ことがありうる。かも知れない。と。いうものさ。


なにを大げさな。

葡萄パンだって。プラスチックの髭剃りだって。エロ漫画だって。豚カツ弁当だって。なんだって。コンビニエンス・ストアアで売られているものなら。どんなものを見たって。驚いたりするものか。


だったら。この店へ入るのに。どこの扉から入ろうと。同じことじゃあない。ねえ。モタ。あなたは。なにを見ても驚かない。なにを見ても感じない。ただ。目に映ったものを。頭の中で。逆さの像にするだけ。だったら。どこから入ろうと同じことなら。早く入ってしまいましょうよ。店の中へ。コンビニエンス・ストアアへ。


レエコの言うとおりだ。とにもかくにも我々にとっていまいちばん近い入り口は。目の前にある裏口の木戸口であるわけなのだから。


あんたたちに言われるまでもない。入るさ。俺は。俺の意思に従って。コンビニエンス・ストアアの中の人。に。なるんだ。

ただし。ただし。俺がコンビニエンス・ストアアへ入ったからといって。俺が。裏口から。コンビニエンス・ストアアへ入ってしまったからといって。

俺が。最前からずっと。俺のオツムを悩ませている。気に掛かり事。のことを。忘れたり。放っておいたりしているわけではないんだ。


ああ。あれだね。モタ。おまえさん宛てに幾度も手紙をよこした相手のこと。だっけか。


なに? それ。へえ。この哲学者さん。案外モテるんだ。ラヴ・レタアが何通も。いかすわね。それじゃあ。なにも。わたしのお尻の片方ばかりじろじろと盗み見ていることなんてないじゃあないの。


馬鹿。相手が誰だか。男性だか。女性だかもわからないんだぞ。


あら。そんなこと。どうだっていいじゃあない。恋に性差はないわ。あなた方だって。わたしだって。男なのか女なのか。ほんとうのところは。わかんないじゃあないの。区別の曖昧なことなんて。どうだっていいってことよ。本当のところは。ね。


俺は好かれたかないね。男に。なんか。それに俺は。好きになんかなりたかないよ。男の。こと。なんか。あんた。だって。そう。だろ?


好かれたい。とか。好かれたくない。とか。好きになりたい。とか。好きになりたくない。とか。そんなことども。が。おまえさんの自由になると。でも。思っているのか。この。バカ。この。アホ。この。ノータリン。この。シアワセ。もの。

本気で。そんなこと。を。考えて・いるのか。おまえさんの身の回りのこと。や。おまえさんとはなんの関係もない。遠い世界での出来事に。おまえさんの意思や。おまえさんの好悪の感情が。ほんの少しでも。反映される。と。おまえさんは。本気で。そう。考えているのか。


だったら?


だったら。

わたしは。おまえさんの身の上に。

傘を差しかけて。あげる。


また。傘だって。いやなオジさんね。わたしだったら。モタがどれほど自分のことを頼みにしていようが。そんなこと。これっぽっちも気にならないわ。モタが。自分のことを男性だと信じていようが。モタが。自分と。同性だと思っているひとたちとのつながりを断ちたい。と。考えていようが。そんなこと。どうだっていいことよ。わたしにとっては。あなたにとっても。

傘を差しかける値打ちもない。

そんなことよりも。早く。急がずに。いそいそと。優雅に。コンビニエンス・ストアアへ入店。しましょう。

裏口から。

木戸口から。


ほら。モタ。早く。早く。入っちまえよ。そこへ。そこのコンビニエンス・ストアアへ。自分がなにを欲しがっているのかだなんて考えることはない。とにかく。入っちまえばいいんだ。もしもおまえさんが頭を使いたいって言うのなら。店へ入ってから。そうするさ。


入る。入らない。は。俺の自由だ。おまいさんに指図されることじゃあない。


そりゃもっともだ。だけれど。みてみなよ。モタ。おまいさんが。もたもたと。考えるでもなし。考えないでもなし。そんなふうにして。さして長くもない足を踏み踏みしているうちに。みてみなよ。レエコなんか。いちども立ち止まらずに。入っていったよ。コンビニエンス・ストアアへ。なあ。レエコ。きみは。どうやら。モタよりも。ずうっと高級なオツムの持ち主らしいね。なにしろ。なにか考えることが無駄だ。ってことをよく知っている。


俺の考えていることはそんなに単純なことじゃあない。


じゃあどんなことだ?


俺は。そこの。コンビニエンス・ストアアのことなんか。どうだっていいんだ。考える余地もない。いまの俺のノーミソのなかには。


だから。どんなことを考えることで。おまいさんのその。小汚いオツムのナカミが煮立っていると。いうのだね?


あんたの知ったことじゃあないけれど。答えてやろう。俺は。俺あてに差し出された手紙の主のことについて。かれこれ三ヶ月というもの。毎日。毎日。考えていたのさ。


その。さして長くもない脚を。踏み踏みしながらか?


そうだ。


コンビニエンス・ストアアの前でか?


そうだ。

俺は。その店へ入ろうか入るまいかなんて単純なことを考えながら。あんたと同じ程度の長さの脚を踏み踏みしていたわけではないんだ。

だから。いましがた店へ入っていった女の子なんかと。俺のことを。同列に論ずるんじゃあないよ。あんた。


誰のこと? いましがた店へ入っていった女の子。って。まさかわたしのことじゃあないでしょうね。


おや。レエコ。早かったね。買い物は。もう。済ませたのか。


まだよ。あんたたちが。わたしの背中をじろじろと眺めながら話し込んでいるらしいから。気になって。出て来たんじゃあないの。

わたしの後ろ姿って。そんなに。ミリョクテキ。かしら。


すくなくとも。思慮深さに欠ける。という点ではね。ミリョクテキ。さ。


失礼しちゃうわ。ホントは。わたしについて興味シンシンのくせに。あなたがた。ふたり。とも。


ぼくはともかく。モタはそうかもしれないな。なにしろ。ここで。このおなじ場所で。ずっと。長いあいだ。ずっと。これ以上は我慢ができないほど。ずっと。長いあいだ。脚を踏み踏みしながら。オツムのナカミをぐるぐると。引っ掻き回していたらしんだ。そんな極限状況で目の隅に映った。魅力的な女性の。ミリョクテキな・お尻。とても。とても。胸を騒がせずには。とても。おれまい。ねえ。モタ。そうだろう? 正直に答え給えよ。君が。胸のうちを。率直に。話した。ぶちまけた。オレはアンタのお尻に見とれていて。とくにその左側の半分にオレは。オレの人生のうちのいくばくかの時間を費やして交際を申し込んでもいいと思うくらいに。惚れ込んだ。の。だってね。ねえ。モタ。君が・君の・胸の・うちを・正直に打ち明けたからといって。君が惚れ込んだ左半分の尻の持ち主の女の子にそう言って。後ろから。交際を申し込んだからといって。

君に。どんな不利益があるだろう。

まさか天罰は下るまいよ。

さあ。さあ。モタ。もたもたしていないで。レエコに打ち明けるんだ。

そのあいだ。私は。傘を差しかけていてあげる。


雨なんて。ひと粒も。堕ちてきやしない。わよ。


傘は。雨粒のためだけにあるのじゃあない。傘を差しかけるという行為には。もっと。もっと。もっと。深い奥行きがあるんだ。いまここで。くどくどと。セツメイするのも気がひけるのだけれど。ここで。この。わたしの。キミたちふたりへの。ハイリョ。のイミを。知らしめておかないことには。わたしの。この。キミたちに。傘を差しかけてあげようという。ジュンスイで。ジアイに満ちた行為が。いま。まさに。ダイナシに。されてしまいかねないからね。

つまり。それは。


ただあんたが。そうしたかったというだけのことなんだろう。気まぐれに。傘を差しかけたかった。だけ。さ。まったく。ばかばかしい。まるで。不条理劇だ。

レエコ。ぼくたちはもう。コンビニエンス・ストアアへでも入るしかさなそうだ。


そうね。雨が堕ちてこないのだし。雪だって。雹や霰も堕ちてきやしない。こんな空に。傘を。差さなくちゃならない理由なんて。わたしには。見当たらない。こんなときは。コンビニエンス・ストアアへ入るに限るわね。

もういちど。


どうだっていいさ。モタ。きみは結局。コンビニエンス・ストアアへ入りたかったのだろうし。レエコ。きみだって。コンビニエンス・ストアアへ戻りたかったのだろう。これで。わたしが。きみたちふたりに対して。傘を。差しかけた甲斐も。あった。というものさ。


そういうあんただって。


はじめに

舞台は繁華街の一角ということにしておきましょう。その一角が、繁華な一角であるかどうかということは、さしたる問題ではありません。


3人ないし4人の俳優が、台詞を朗読します。俳優の構成は、男女を問いません。3人なら、1,2,3,1,2,3、という具合に順に朗読していけばいいですし、4人登場させる場合は、幕ごとに、1人を選んでサイレントとするとよいでしょう。登場人物ごとに俳優を固定するなら、幕ごとに役割を交替させるなどはどうでしょう。台詞の冒頭に役名を書かないのは、自由な解釈や演出を妨げないようにするためです。ひとつの台詞の中で人格の転換がなされる部分もあります。


幕ごとに舞台設定や、俳優の衣装を変えていきます。舞台や、個々の衣装について、同時に登場するそれぞれについて、表面上の統一や関連性の有無については問いません。台詞ごとに俳優の役割が逆転したり、移り変わったりするわけですから、衣装について統制しようとするのは無理ですし、また、無駄でもあります。

俳優は、それぞれ台本を手にしながら朗読し、演ずるわけですから、全編を通じて、身軽で手軽な装束でいるのが便利でしょう。しかしながら、なかのひとりが、たとえば甲冑をつけて朗読しようが、それは演出のうちのことです。


全編を通じて、黄色(肌色)のマネキン人形が、枠のうちのどこかに、必ず登場しています。第一幕の中途で彼女(マネキン)が登場して、最終幕の中途で姿を消すまで、そのイデダチを様々に変化させながら、姿を晒し続けます。倒されている、俳優の誰かの小脇に抱えてられている、などしながら、この物語における最重要のモチーフとしての地位を守りぬきます。