今年も実家で正月を迎えた。母は亡くなり、兄は義姉の実家に帰省したのだろう。今年の正月は父と2人きりだ。
私はそれまでの3日間で麓の大型スーパーを往復し、正月料理やタラバガニやハマグリのお雑煮の食材や広島の生牡蠣のおろしポン酢などを買ってきた。父が喉にお餅を詰まらせるといけないので、お雑煮には代わりにトックを入れた。ツルンツルンして、これはこれで美味しい。生前母もときどきお雑煮にトックを入れていた。

父とはこうして離れて暮らしていると、普段何も親孝行が出来ないので、こう言うときは全部私がやる。父も安心して任せてくれる。

父も長年の母の介護で疲れただろう。特に母が亡くなる前の最後の2年間の入院生活では、毎日毎日献身的に母の世話をしていた。
父は毎日昼前の決まった時間にコンビニやスーパーに行き、母と自分の昼食を買い、毎日病院まで車を走らせ、いつも2人で昼食を食べていた。
母が病院食が物足りないのだろう。カレーが食べたいといえば、カレーを買ってきて、焼き立てのパンが食いたいといえば、焼き立てのパンを買ってきて一緒に食べていた。私が帰省したときは3人で食べた。
そのあと父は母を車椅子に乗せて、院内をぐるぐる回り、最後はいつも母を屋上に連れ出して、病院のある山の高台から広島の海を一望しながら、風に吹かれながら何かしらを語り合っていた。

考えてみれば、私の両親は国籍も違う赤の他人だったが、息子の私よりも10年以上も付き合いが長いのだ。

両親は2人とも息子たちの目の前でまったく愛情表現をしなかったが、本当に愛し合っていた。

婚前のどんな困難にも負けないで、2人で周囲を押し切り、親戚が誰もいない広島の新天地に2人だけで暮らし始め、最後には結婚した。

そんな両親がいなければ、私はこの世に生まれてくることもなかった。

まあタラバガニでも食って、お正月ぐらいゆっくりしておってくださいね、お父さん。



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