出会いの続き


昭和三十年代後半の呉のお話。

その後、二人は結婚さえ考えるようになった。

しかしある日晃司は幸子の秘密を知った。在日であるということではない。それはしばらく前に聞かされていたし、まるで気にもしていなかった。問題はそれよりもずっと深刻だった。しかし晃司は彼女を選んだ。いやもう降りられなかったのかもしれない。

二人はお互いの気持ちを確かめあった。

それからそれぞれの身内に事情を説明した。しかし当然の如く周囲からは猛烈な反対が起こった。二人の父親はそれぞれが幼いときにすでに亡くなっていた。問題は母親だった。幸子の母は血縁関係から日本人との結婚に猛反対した。晃司の母は朝鮮人との結婚である以上に幸子の身の上の問題を認めるわけにはいかなかった。

晃司の母は言った。

「あの子が悪いわけじゃないのはうちもよう分かっとるよ。あんたの説明も何回も聞いたわ。ほいじゃけどあの娘はやめときんさい。あんたが不幸になるだけじゃけ。あの娘と結婚したらあの娘の親戚の人らとうちの親戚が親族になるんよ。そしたらどうなるんね。”その人”も親戚になるんよ。あんた、最近の新聞ニュースを見とらんのね。物騒な事件ばっかり。どうなるかよう考えんさいよ。あんたの妹のことも考えんさい。とにかくいけんて。」

しかし晃司の必死の説得に母は言った。

「ほいじゃあ、せめて保証人を連れてきんさい。誰が身元を保証してくれるんね。」

次の日晃司と幸子は話し合った。幸子の父親はすでに亡くなり、母親は聞く耳を持たない。頼れるのは生活の面倒を見てくれている義兄夫婦だけだった。しかしこの義兄も連れて行くわけにはいかない。結局二人は幸子の姉の冴子を連れて行くことにした。晃司は母親に訪問を伝え、自宅での待ち合わせの了承を取り付けた。

後日冴子が山口からやってくると三人はいつもの喫茶店で待ち合わせをしてから晃司の家に向かった。二人は手土産を持ち緊張した面持ちである。

やがて三人が晃司の家に着くとそこには誰もいなかった。玄関には鍵がかかり中に入れなかった。

しかたがなく三人は家の前で晃司の母親が帰ってくるのを待っていた。

時は過ぎ、日は暮れ、冴子は煙草を吹かし、幸子は涙をこぼした。それを見た冴子は肩をさすって慰めた。

「お姉ちゃん、最初からこがあなことじゃろうと思うとったよ。괜찮아요.

冴子が抱きしめると幸子は胸の中でうなずいた。

「幸子、帰ろう。」


翌日、幸子と晃司は広島駅のホームに山口に帰る冴子を見送りに来た。

冴子は二人に語りかけた。

「昨日は残念じゃったけど、あんたら、こがあなことで諦めんさんな。負けたらいけんよ。お姉ちゃんはあんたらの味方じゃけえね。ほいじゃあまたね。」

冴子は山陽本線の駅のホームで二人にそう告げると山陽本線に乗って再び山口に帰っていった。


挿入:「真っ赤なオースチンヒーレーの男」



長男が生まれた。に続く