小さい頃、兄が通っている小学校関係からチラシが回ってきた。それは、真珠貝から真珠を取り出す講習会だった。参加費用は500円か、1000円ぐらいのもの。母はそれに応募した。


それから数日後、母は自転車の荷台に僕を積んで、近所の公民館に行った。行くと、バケツの中に牡蠣のような真珠貝がいくつか入っていた。そして、それが一人にひとつづつ配られた。一通りの説明を受けると、母はこの真珠貝に金具を埋め込んで、こじ開けた。こじ開けると、中には牡蠣みたいな貝が入っていた。で、その腹を探ると、中から真珠が出てきた。その真珠が参加者のお土産になった。


母は講習会が終わると、その真珠を僕に預けた。僕はその真珠があまりにきれいなので、半ズボンのポケットから取り出しては太陽の光に当てては眺めていた。母は再び僕を自転車の荷台に積むと、自転車を走らせて近所のスーパーに立ち寄った。僕は気になるお菓子を母の買い物カゴに放り込むと、することもなく、スーパーをぶらぶらしていた。僕はさっさと帰りたかったが、母は買物をしていた。暇な間、僕はスーパーのレジの近くで真珠を半ズボンのポケットから出しては眺めていた。


ところが、あるとき、僕は真珠を滑らせて、落としてしまった。落ちた真珠は転がって、レジの下に入っていった。僕は慌てて、真珠を探した。真珠はとても高価なものだと思っていたから。僕はレジの下に手を突っ込んで、真珠を探したが、出てくるのは灰色の埃ばかり。レジ打ちの女性店員は何事もなかったように仕事をしていた。しばらくの間、レジの下に手を突っ込んで埃まみれになっていると、僕はひょいと抱え上げられた。振り向くと、母が立っていた。
「どうしたん?」
僕は一瞬と惑って、言った。
「真珠、なぁなった。」
僕はひどく怒られるものだと思っていた。しかし、母は言った。
「ほしたら、しょうがない。」
母は、僕の予想に反して怒りもせず、僕の体の埃を払って、微笑んだ。


お店を出ると、出入り口にガチャガチャが2台置かれていた。一台の側面には、大きなスーパーカーの消しゴムがたくさん見えた。もう一台の側面には、小さなスーパーカーしか見えなかった。僕は母に20円をもらって、大きいスーパーカーが見える方のガチャガチャを回してみた。ところが、どうでもいいような小さいの出てきた。それを見て、母はもう1台のガチャガチャに20円を入れて、回した。すると、とても大きなスーパーカーの消しゴムが出てきた。僕はとても驚いた。


僕は、家に帰ると、この大きなスーパーカーの消しゴムを自分のものにして、自分が引き当てた小さい方の消しゴムを兄に上げた。