あるところに、Aさんという人と、Bさんという人がいた。Aさんは大変な金持ちで、Bさんは大変貧しかった。二人は友人だった。ある日、二人は待ち合わせをした。しかし、二人とも、寝坊をしてしまった。金持ちのAさんは高速道路をフェラーリですっ飛ばして、約束の場所に何とか間に合わせた。貧乏なBさんは一般道を中古の乗用車でのろのろ走ったが、間に合わなかった。遅刻したBさんはAさんに謝り、AさんはBさんを許してやった。Aさんは寛大な人だ。
二人で遊んだ帰り、貧乏なBさんは所持金がほとんどないことに気がついた。Aさんはお金をBさんに貸してやり、Bさんは事なきを得た。AさんはBさんに言った。
「無理に返さなくてもいいよ。」
BさんはAさんに頭を下げた。Aさんは物惜しみをしない人だ。
さて、その帰り道の途中、二人が立ち寄った喫茶店で休憩をした。二人は雑談をしていた。ある話題のとき、Aさんがふざけて、Bさんの背が低いことをからかった。Bさんはチビだった。Bさんは笑って、Aさんに「そう言う君こそ、ハゲじゃないか」と言った。Aさんはハゲだった。すると、Aさんはがらりと態度が変わって、こう言った。
「君はなんてひどいことを言うんだ。もう君なんか絶交だ。二度と口を利かない。さっき貸した金も今すぐ返してもらいたい。」
論語にある。
「貧しくして怨むこと無きは難く、富みて驕ること無きは易し。」
許しは2種類ある。
金で買える許しと金では買えない許し。
驕ることのない許しは金で買える許し。
怨むことのない許しは金では買えない許し。
金で買える許しは、値段は高いが、買えなくはない。
金では買えない許しは、値段は安いが、それを買うのは難しい。
金では買えない許しは、貧しい人が持っている親の形見に似ている。
世間的にはたいした値打ちはないが、その人から買い取ることは難しい。