あるところに6つの国がありました。それぞれの国では、それぞれ一種類の異なる花しか咲きませんでした。ある日、それらの国々の人たちが集まって会議が開かれました。
で、会議の途中で花の話題になりました。すると、それぞれの国の代表の人たちは花の定義について話し始め、やがてもめました。

 ある人は、花とは白いものだと言い、
 別のある人は、花とは赤くひらひらとした花びらがついているものだと言い、
 別のある人は、花とは泥の中から咲くものだと言い、
 別のある人は、花とは高原で咲くものだと言い、
 別のある人は、花とは一日で枯れてしまうものだと言い、
 別のある人は、花は手のひらほどもある大きなものだと言いました。

それぞれが言うことが異なるので、いずれが花であるかについて、決着をつけることになりました。

後日、彼らが再度集まって、自分たちの花を持ち寄ると、それらはそれぞれ大きく異なっていました。そこで、彼らはお互いに言い争いをしました。これこそが花だよ、あなたたちのは花に似ているけど、全然別物だよとお互いに言いました。
すると、たまたま全国を放浪している旅行者が通りかかり、言いました。
「それらはすべて花ですよ。正確に言えば花の一種なんですが。花というのは抽象名詞です。ですから、この世に花というもの自体は存在しません。この世には花の一種がいろいろとあり、それらを並べ、比べることによって、花という抽象的な存在を知ることが出来るだけです。」


あるところに6つの国がありました。それぞれの国では、それぞれ一種類の異なる宗教が存在していました。ある日、それらの国々の人たちが集まって会議が開かれました。
で、会議の途中で宗教の話題になりました。すると、それぞれの国の代表の人たちは宗教の定義について話し始め、やがてもめました。

 ある人は、宗教とは白いものだと言い、
 別のある人は、宗教とは赤くひらひらとしたものだと言い、
 別のある人は、宗教とは泥の中から咲くものだと言い、
 別のある人は、宗教とは高原で咲くものだと言い、
 別のある人は、宗教とは一日で枯れてしまうものだと言い、
 別のある人は、宗教は手のひらほどもある大きなものだと言いました。

それぞれが言うことが異なるので、いずれが宗教であるかについて、決着をつけることになりました。


後日、彼らが再度集まって、自分たちの宗教についての話を持ち寄ると、それらはそれぞれ大きく異なっていました。そこで、彼らはお互いに言い争いをしました。これこそが宗教だよ、あなたたちのは宗教に似ているけど、全然別物だよとお互いに言いました。
すると、たまたま全国を放浪している旅行者が通りかかり、言いました。
「それらはすべて宗教ですよ。正確に言えば宗教の一種なんですが。宗教というのは抽象名詞です。ですから、この世に宗教というもの自体は存在しません。この世には宗教の一種がいろいろとあり、それらを並べ、比べることによって、宗教という抽象的な存在を知ることが出来るだけです。」


【参考】

「ただわづかに神州一国の草木をみ、日本一州の草木を慣習して、万方・尽界もかくのごとくあるべきと疑議商量することなかれ。」(道元 「正法眼蔵」 「無情説法」)