戦後の間もない時期、山口県西部の田舎にある在日朝鮮人の家庭があった。
その家庭では小さな商店を営んでいたが、父親が早くに亡くなり、母親が一人で子供たちを育てていた。
そんなある日のこと、母親が赤ん坊の泣き声がするので、外に出てみると玄関先に小さな赤ん坊が捨てられていた。
母親はその子を警察に届けたが、名乗り出る親もなかったので、母親が育てることにした。
その子は日本人か朝鮮人か分からなかったが、おそらくは日本人であろうと思い、小太郎と名づけて育てた。
小太郎が小さい頃、母親は常々こう考えながら、小太郎を育てていた。
いずれは日本人の親が引き取りに現れるかもしれない。
そのときに、子供が朝鮮人になっていては、驚くだろう。
だから、この子が一人前になるまでは、日本人として育てよう。
また、飢えて育ちが悪ければ、悲しむだろう。
飢えることがないように育てよう。
そう考えていた母親は、一番下の小太郎を実の子供たちよりも優遇して育てた。
早くに夫を亡くし、経済的にもしんどかったが、他の子供たちのお昼の弁当を抜いてでも、小太郎を食べさせることを優先した。
さて、その小太郎が小学校に上がって、しばらくした頃、たんこぶを作って帰ってくるようになった。
母親がどうしたのか聞いてみても、小太郎は一向に答えようとしない。
連日その状態が続いたので、母親は先生に相談してみた。
すると、先生は言った。
「お母さんの家庭が朝鮮だというので、小太郎君がからかわれ、いじめられているようです。
また、それに対して、小太郎自身が応戦しており、そのために争いが激しくなっているようです。」
そこで、母親は小太郎に言った。
「うちは朝鮮だが、お前はそうではない。
今まで言ったことがなかったが、お前は捨て子で、きっと日本人です。
だから、みんなからからかわれたり、いじめられたりすることがあったら、『僕は実は日本人なんだ』と言いなさい。
そしたら、いじめられないから。」
しかし、その後も一向に小太郎のたんこぶの数が減らないので、母親はもう一度担任の先生に相談に行った。
すると、先生はこう言った。
「いつも小太郎君の弁当に朝鮮漬が入っていて、
それがからかわれている原因のようです。
それを止めてみてはどうでしょうか。」
それを聞いた母親は驚いて言った。
「小太郎のお弁当にはチンチは入れていません。
梅干を入れています。」
しかし、実際のところ、小太郎の弁当箱には朝鮮漬が入っており、それがからかいの種の一つであった。
その後、母親が調べたところ、実は小太郎が通学前にわざわざ梅干を取り出して、キムチに入れ替えていたのであった。
それで母親がもう一度小太郎に前と同じことを言った。
すると、小太郎は母親に言った。
「僕はお母さんの子ではないそうですね。
しかし、その僕もお母さんのご飯を食べて育ちました。
僕はこの家の者ではないのですか。
何故、僕だけのけ者にするのですか。」
それを聞いた母親は小太郎のするのに任せることにした。
その後、長い歳月が流れて、小太郎は中学を卒業し、工事現場で働き始めた。
そして、あるときに、年老いた母親に金の指輪を買って贈った。
その指輪には、小さな手紙が添えられていた。
「かの国の風習によれば、
母親が還暦を迎えると、息子は金の指輪を贈るのだそうです。
ですから、僕はお母さんに金の指輪を贈ります。
小太郎」
【問い】上記の話のうち、何が事実で、何が事実でなく、何が真実で、何が真実でなかったか。
この問いに答えられるのは、もはや私の母のみであろう。
他の答え得る者たちはみな死んだ。
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