【お話】にわとりのうた (広島 Remix Version) 」の続き



鶏がおらんようなってから、とうちゃんがおもむろに鳥かごの修理を始めたんじゃ。何をするつもりかのうちゅうて思っとったら、その日の夕方には5羽のセキセイインコが飛び交っとったんじゃ。

それから何日か経って、鳥かごの底にうずら豆のような卵が落ちとることに気付いたけん、とうちゃんは大きな鳥かごの中に小さな巣箱を三つ取り付けたんじゃ。

セキセイインコは、その後、自然に繁殖してってから、何年か経ったら鳥かごは色とりどりのインコたちであふれかえっとったんじゃ。


そんなある日曜日の午後、遊びから帰ってきたら、鳥かごの前でとうちゃんと一人の女の子がなにやら話しこんどったんじゃ。誰じゃろうか思うて近づいてみたら、その子は女の子じゃのうて、同じクラスの牧野じゃった。茶色の髪と瞳、白い肌をした牧野は華奢な体をしとってから、よう女の子と間違われたりすることがあったんじゃ。ある体育の授業の前、着替え中の牧野が女の子のプリント柄のパンツをはいていったのが見つかってから、みんなにからかわれたことがあったんじゃ。もしかしたら、姉さんのパンツをはいとったんかもしれんのじゃけど。そがあなこともあって、牧野をみたらつい女の子を連想してしまうんじゃった。


「どうしたん。」


わしは牧野に近づいて尋ねたんじゃ。


「うん。前からインコを飼いたかったんよ。ほいで、近所にインコをたくさん飼うとる人がおるって聞いたもんじゃけえ、分けてもらおうかあ思うてきたんよ。川野んちじゃったんじゃね。」


「ほうなん。」


ほいで、牧野は私の父にインコの飼い方についていろいろと質問をしとった。ほしたら、そのうち、とうちゃんが、牧野の尊敬のまなざしに気をようしたんか、「どれでも好きなのを持ってきんさい。何羽でもあげるけん」っちゅうて言い出したんじゃ。わしゃそれを聞いてあわててしもうた。なんでかいうたらのう。鳥かごの中には最近成鳥になったばかりのぶちきれいな、珍しい柄のインコが一羽おったんじゃ。なんともいえん深いグリーンから目の覚めるような黄色い柄のグラデーションがかかっとってのう。模様の入り方も普通のインコとはまったく違っとったんじゃ。ほいじゃけん、わしゃそのインコには特別に目をかけてとったんじゃ。


わしゃそのインコが今巣箱におることを祈とったんじゃが、運悪うそのインコは鳥かごの中を飛び回っとった。ほいじゃけん、わしゃ牧野がそのインコを指名せんことを心の中で祈っとったんじゃ。


そがあなわしの思惑にも気がつかんとから、牧野は真剣に鳥かごのインコたちを見詰めとった。金網のすぐ近くまで顔を近づけてから、無意識に白い指を唇に当てて、一羽ずつ、その柄を確認しとったわ。


長い時間がしてから、「じゃあ、これとこれちょうだい」言うて、牧野が指差したインコは、むしろ当時の病院に行ったら、受付に必ずおったような典型的な柄の二羽じゃったんじゃ。セキセイインコ初心者の牧野はむしろ絵に描いたような柄のインコが欲しかったんかもしれんのう。『本当にそんとな柄でええんか?』わしゃ心の中でそがあな疑問を持ったんじゃけど、あわてて飲み込んだわ。


「ほいじゃあ、待ってきんさい」言うて、とうちゃんは鳥かごに手を突っ込んでから、その二羽を捕まえようとしたんじゃ。牧野はあらかじめ持参しとった緑色の虫かごのふたをあけて待っとったわ。


ほいで、とうちゃんが、最初に、水色に白色の体色にマーブル模様の入ったインコを捕まえてから、それを牧野に手渡したんじゃ。


さっきまであわてて逃げ回っとったそのインコは、牧野の手の中でトカゲみとうな目を閉じてから、死んだようにじっとしとったわ。


ほいで、とうちゃんがもう一羽のインコを捕まえたんじゃ。こちらは黄色に黄緑色の体色にマーブル模様が入った柄じゃった。


とうちゃんから受け取ったインコを牧野が虫かごに入れとるそのときに、彼らの後ろで鳥かごから一羽のインコが出ようとしとるのにわしゃ気がついたんじゃ。ほいで、わしがあわてて走り寄ったら、そのインコはばっと飛び出してきたんじゃ。ほして、インコはそれから塀の上にふっと止まったんじゃ。


インコの繁殖をしとると、しばしば中途半端な模様のインコが生まれることがあるんじゃ。そのインコもそがあなうちの一羽でのう。わしらがあまり気に留めとらんかったやつじゃったんじゃ。


とうちゃんが捕まえようとしてから手を伸ばしたんじゃけど、そのうすい模様のインコはふわりと飛び上がってから、弧を描いてわしらの家の屋根の上に上がってってしもうたわ。



(上の作品は 「 【お話】セキセイインコのうた 」 を広島弁に翻訳したもの)



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