場所:
アーデンの森
登場人物:
ロザリンド(フレデリック公に追放された兄の娘。アーデンの森では男装し、ギャニミードを名乗っている。)
オーランドウ(ロザリンドの恋人。)
タッチストウン(元フレデリック公のお抱え道化師。ロザリンド、フレデリック公の娘、シーリアとともにアーデンの森に潜伏中。)
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[倒れた木にロザリンドとオーランドウが腰掛けている]
ロザリンド 「君はどう思う。」
オーランドウ 「何の話だ。」
ロザリンド 「決まっているだろう。フレデリック公のことだ。」
オーランドウ 「うむ。」
ロザリンド 「僕はもはやあの男の横暴を見過ごすことは出来ない。僕はあの男を討つ。」
オーランドウ 「本当にやるのか。」
ロザリンド 「ああ。父上の仇も討たなければならんしな。もっとも父上はこのアーデンの森での生活が気に入っているようだが。」
オーランドウ 「それならば、俺も行こう。」
ロザリンド 「君は駄目だ。僕は君を連れてはいけない。」
オーランドウ 「何故だ。俺たちのどちらかが剣を抜くときには、どんなことがあろうとも共に戦うと誓ったではないか。」
ロザリンド 「オーランドウ、それは大義のある戦の話だ。これは我が一族の問題だ。僕はこの争いに君を巻き込むわけにはいかない。」
オーランドウ 「剣に生きる者として、俺もまた一片の義に預かりたい。」
ロザリンド 「生きては帰れないぞ。」
オーランドウ 「もとより承知。」
[見詰め合う二人。]
ロザリンド 「オーランドウ。君は僕のために死んでくれるか。」
オーランドウ 「最後の矢が尽き、この刀の折れようとも俺は戦う。そして、君のために喜んで草生す屍となろう。君のそばで死ねるのだ。かえり見はしない。」
ロザリンド 「オーランドウ・・・。」
[オーランドウ、ロザリンドの手を握る。]
ロザリンド 「何だ、この手は、オーランドウ。」
[さらに、オーランドウ、ロザリンドの肩に手をかける。]
オーランドウ 「ロザリンド。」
ロザリンド 「オーランドウ。僕はロザリンドではない。忘れたのか。僕はあの男を討つまではギャニミードでいると誓ったのだ。」
オーランドウ 「では、ギャニミード。いや、どっちでもいい。君が欲しい。」
ロザリンド 「・・・駄目だ。オーランドウ。」
[オーランドウ、ロザリンドを強く抱きしめる。抵抗するロザリンド。しかし、二人は熱い接吻を交わす。]
[タッチストウン登場。]
タッチストウン 「ロザリンド様!ロザリンド様!どこにおられるのですか。」
ロザリンド 「しまった。うるさいのが来た。」
[体を引き離すロザリンドとオーランドウ]
タッチストウン 「ロザリンド様、ここにいらっしゃったのですか。探しましたよ。おお、オーランドウ様もご一緒で。」
ロザリンド 「タッチストウン、何度言ったら分かるのだ。この森の中で僕のことをロザリンドと呼ぶな。追っ手に聞かれたらどうするのだ。」
[服装の乱れを直しながら、冷静なロザリンド。]
タッチストウン 「ああ、そうでしたな。申し訳ありません。で、ギャニミード様。ここでオーランドウ様といったい何をしていらっしゃったんで。」
ロザリンド 「見れば分かるだろう。フレデリック公をいかにして討つか、オーランドウと作戦会議をしていたのだ。シーリアの前でフレデリック公を討つ話など出来んからな。」
タッチストウン 「ほう、そうでしたか。それにしては、ずいぶんお熱い作戦会議でしたな。」
ロザリンド 「・・・見ていたのか。」
タッチストウン 「まあ、一部始終。」
ロザリンド 「見ていて、何故聞くのだ。」
タッチストウン 「いや。ロザリンド様がどんな嘘をつくのか楽しみで。」
ロザリンド 「悪趣味なやつだ。今度覗いたらただでは済まんぞ。」
[剣に手をかけるしぐさをするロザリンド。身をかわすタッチストウン。]
ロザリンド 「で、用件は何だ。」
タッチストウン 「立ち直りが早いですな。それでこそ我らがロザリンド様。」
ロザリンド 「ふん。いつか、このアーデンの森の木にお前を接木して、さらに山櫨子(さんざし)の木を接木してやる。」
タッチストウン 「そりゃお断りだ。」
(後略)
(別のブログからの再録)