君の名は希望
◆プロローグ◆
2020年夏
とある有名な音楽番組。
「さぁ、それでは本日のゲストを呼んでみましょう!!『希望的観測部隊』です!どうぞ~!!!」
司会の呼び込みを受けて、若い男4人が入ってきた。
「どうも、テレビをご覧の皆さん初めまして!『希望的観測部隊』です!!!!」
「はい、ようこそ~。どうぞ座って下さい」
司会の男と『希望的観測部隊』の4人はそれぞれ1人掛けのソファーに座った。
「えー、『希望的観測部隊』は初登場ですね!今週デビューしたばっかりみたいですけど、どうですか今の気持ちは。あ、その前にそれぞれ自己紹介しますか!」
「あ、はい。えー、どうもボーカルのHide(ヒデ)です!hyde(ハイド)と読み間違える方がたまにいますけど、Hideですからね!」
「えー、ギターのKyou(キョウ)です!」
「はい、ドラムのRyu(リュウ)です!」
「ベースのAkira(アキラ)です!」
「はい、というわけで改めて今の気持ちはどうですか?」
「そうですね…ここまで結構長い道のりでしたけど、頑張ってきた成果がやっと1つ出たかなって気がします。成果とは言っても、やっとスタートラインに立てたって感じが強いですけど」
Hideの言葉に他の3人も頷いた。
「なるほど。今回のデビューシングル『Rock Man!!/君の名は希望』はデビューシングルにして両A面だよね。しかもロックとバラードって真反対のジャンルをドンッと詰め込んでて非常にインパクトがあると思ったんだけど、どうしてこの組み合わせになったの?」
司会者の質問にメンバーは顔を見合わせてクスリと笑った。
「お、何?何か特別な経緯でもあるの?」
「曲の制作に関してはHideと僕(Kyou)が考えてるんですけど、『Rock Man!!』は最初は出す予定じゃなかったんです。ただデビュー前から出来てた曲で、ライヴハウスとかで披露してたらたまたま関係者の方の耳に入って、CMに起用されるからって結構急ピッチで編曲とかしたりして間に合わせました」
「その言い方からすると、最初は『君の名は希望』だけをシングルカットして出そうとしてたってこと?」
「そうですね。僕らが初めて作った曲で思い入れもあるし、何よりこの曲が誕生した経緯が異例というか、経緯の話聞いたら多分みんな『何で一緒にバンドやってんの?』って疑問に思うと思います」
Kyouは少々恥ずかしそうに話した。
「へぇ~特別な事情があるってことだ。この曲作ったのはHideくん?」
「そうです」
「どういう経緯が隠されてるの?」
「うーん、そうですね。まぁ簡潔に言いますと…」
そう言ってHideは両サイドに座っているKyouとRyuの首に腕を回した。
「僕(Hide)、この2人にいじめられてたんですよ。『君の名は希望』はその時の経験と、その時僕を助けてくれた先輩への気持ちを綴ったものになってます」
「え!?昔のいじめっ子といじめられっ子が今一緒にバンドやってるの!?」
「そうなんです!まぁ今となっては笑い話なんですけど」
「KyouくんとRyuくんはどういう感じなの?今の状況」
「まぁ不思議ですよね。Hideは笑い話なんて言ってくれてますけど、僕(Ryu)もKyouも結構ひどい事しましたからね。だからそのお詫びも兼ねて、毎年このバンドの結成日は『Hide感謝DAY』っていって、全力でHideをもてなすってイベントをやってるんですよ」
「なるほど~。Akiraくんはこの事知ってた?」
「そうですね。自分が加入してすぐに事の顛末は聞かされましたから。最初は複雑な感じしましたけど、まぁ3人仲良くやってるのを見て、これなら大丈夫かなぁと」
「へぇ~異色のバンドって感じですね。…それでは、曲を披露していただきましょう。今日は本人達たっての要望で、『君の名は希望』を披露していただきます。それじゃあ準備をお願いします!」
「はい!」
4人は立ち上がり、ステージに向かっていく。
Hideはマイクを持ち、Kyou、Akiraはそれぞれギター、ベースを持った。
最後にRyuがドラムのスティックを握る。
4人は互いに一瞬目を合わせ、各々の姿を確認する。
いつもと変わらない姿を確認し、客席の方を見た。
見える景色はライヴハウスとほとんど変わらない。だが、あちこちに控えるカメラの姿がいつにない緊張感を煽った。
ステージが暗転し、仲間達が前奏を奏でる。
Hideは薄く笑みを浮かべてから、歌い始めた。
自分の原点となる歌を。
探し続けている"あの人"に届くように。
◆プロローグ◆終