【母】

61年間、聞かされていた貴女の死の真相は、結果は同じでも経緯は全く違っていた。幼かった私は、父親から毎日のように貴女がどんな状況で亡くなったのか聞かされていたので、貴女に対する気持ちは多少なりとも恨んでいました。貴女の死の真相が明らかになったからといって、10ヶ月の私を置いて離婚し出て行った貴女へ特別な感情は今更さして無い。ただ、父親と長く2人で暮らした私だから、分かることも多いにある。

ずっと誰かに聞きたかった、貴女のことを。モヤモヤした霧の中にいるようで辛く思うこともあった。多かった兄弟の一番下の私からすれば、兄弟が高齢化で次々と亡くなることで、聞ける人がいなくなる。家族間でタブーとされた母の話し。焦る気持ちを隠しながら生きてきた。でも現実になってきた兄弟の死。先日、あるキッカケから兄に聞いてみた。「私が今から話すことが合ってるか、どうかだけ聞きたい」父親から聞かされていた話しを兄に。「そうか。その話しは初めて聞いた。ずいぶん自分の都合のいいように話していたんだね…。真相は違う」そう言って、当時兄は小学5年生だったけど、知ってることを丁寧に話してくれました。

確かに結果は同じでも、聞いてみると、それなりの61年間の母への思いはあるけれど、さほど変わりはしない。もう少し激的なものが自分の中に出てくるかと思っていたけど、案外クールに受け止められた、そんな自分に驚いてはいる。

いま思うと、家族間のタブーは世間的には辛い出来事なのかもしれないけど、その真相を追い求めていたはずの私は、どこか生きていくための意欲になっていたようです。フッと力が抜けていくようです。