Bunkamuraザ・ミュージアムで「だまし絵Ⅱ 進化するだまし絵」を観た! | とんとん・にっき

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Bunkamuraザ・ミュージアムで「だまし絵Ⅱ 進化するだまし絵」を観てきました。観に行ったのは9月2日のこと。同じザ・ミュージアムで2009年6月に開催された「奇想の王国 だまし絵」も観ています。


その時の目玉は、ジュゼッペ・アルチンボルトの「ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)」です。「ウェルトゥムヌス」とは、季節の変化、果樹園を司るローマ神話の神のこと。アルチンボルト、晩年の傑作です。「ダブル・イメージ」、皇帝ルドルフ2世の顔を植物で覆い尽くし、怪物のような顔に描いたアルチンボルト。皇帝を揶揄したと思われてもしかたがないような、一目観て忘れられないグロテスクな絵画でした。


今回の「だまし絵Ⅱ 進化するだまし絵」も、目玉はやはりジュゼッペ・アルチンボルトの「司書」と「ソムリエ(ウェイター)」でした。「司書」は、アルチンボルトが最初に仕えた皇帝マクシミリアン2世の周辺の人物で、1554年に宮廷の歴史を記録する修史官に皇帝から任命されたウォルフガング・ラツィウスという博学な人物といわれています。彼は皇帝の美術品蒐集室の責任者で、図書館も取り仕切っていました。この人物、躯体と頭部は積んだ本、髪は開いた本、髭はハタキ、唇はハタキの房が付いた棒の先、指はしおりで、まさに本の虫です。


「ソムリエ」は、大阪新美術館所蔵で、「ウェイター」という題名は大阪市が購入時に付けたもの。「ワイン蔵」とも題されたこの作品に描かれた人物を構成するものは、ワインを蔵で管理し、それを試飲してテーブルに出すまでの品々です。胴体と腕が樽で、樽から瓶にワインを詰めるための漏斗も描かれています。頬は陶製の壺、額は皮袋を被せた瓶でその注ぎ口が耳、首は藤等を編んだものを被せた瓶で、その口が目になっています。鼻は何かの器に見えるが、髭と口を構成する蓋付の容器は携帯用のグラス入れです。肩の皿の紋章はハプスブルク家のスペイン王フィリペ2世のものです。


プロローグではそのほかに、「だまし絵」定番のものが並びます。岬の風景を描いたものが、遠くから見ると横たわる巨大な人物の頭部に見える「風景/頭」、木枠のある壁龕とその周りの壁面に鷹狩の道具が配された「鷹狩道具のある壁龕」、また「円筒アナモルフォース」は、渦巻き上に歪曲した像の中央に円筒形の鏡を置くことで、歪んだ事物を自然な形状で鏡面上に見せることを可能にしたものです。


「トロンプルイユ」とは、フランス語で「目をだます」という意味で、美術史では「事物が本物そっくりに、かつ眼前に存在するかのように描かれた絵画」を指す用語です。福田美蘭の「婦人像」は、絵画は動かないものという固定観念を覆し、じっと眺めていると画中の女性の目が動きます。福田繁雄は美蘭の父親で、日本を代表するグラフィックデザイナーです。福田の錯視的な表現への関心は平面作品だけでなく、「二つの形をもった一つの立体」シリーズも広く認められています。その頂点が「アンダーグランド・ピアノ」です。


ヴィクトル・ヴァザルリは、平面作品に奥行や膨らみをもたらしました。それは四角形や円といったシンプルな図形が重なり、連続することによって起こる錯覚で生み出されたものです。上下に球体を描いた「BATTOR」は、ヴァザルリが「膨張と復帰の構造」と呼んだ作品の一つです。パトリック・ヒューズの「生き写し」は、自画像であり、「リバースペクティブ」の原理を応用したものです。「リバースペクティブ」とは、一見遠近法的に描かれた平面作品に見えて、実際には物理的な凸凹をもったレリーフ上の絵画のことです。元となった「リバース(反転)」と「パースペクティブ(遠近法)」の語が示す通り、イメージとして最も奥まって見える部分が、こちらに向かって突き出した凸部に描かれています。


「だまし絵」といえば、エッシャーです。エッシャーが描く不思議な建築物や立体物は、絵で見れば一見ありそうに思われるにもかかわらず、三次元空間では実際に成立しない、いわゆる不可能図形です。遠近法の歪曲による伝統的なアナモルフォースの図像は、ある特定の視点から見ると正しい像を結ぶのに、エッシャーの描く立体はそうではありません。マグリットの「白紙委任状」、この題名は馬に乗って森を通り過ぎる女性に対して、何をしてもいいということで与えられた許可証を意味しているという。彼女がしたことは、三次元空間の秩序を無視したこと。目に入ってくるものはその後ろにある見えるものを隠しています。一つのイメージは常に別のイメージへと変化する途中のように見えます。それはまるで変容(メタモルフォーズ)の過程そのものを描いたかのようです。


エヴァン・ペニーの「引き伸ばされた女 #2」は、実在するモデルを観察して製作した過去の作品をスキャニングして得たデータが元になっています。ペニーはこれを画像編集プログラムで拡大して引き伸ばし、フライス盤に出力して素体を作成し、粘土で皮膚の皺など細部を再現して原型を完成させ、そこから取った型にシリコンを流入して成形しました。この作品は、いまやモニター内で簡単に操作できてしまう画像の編集・加工が、もし現実空間で適応されたらどうなるか。二次元世界では驚きのないイメージでも、三次元世界で実体化された場合、観る者は強烈な違和感に襲われてしまいます。


今回出された作品は全部で87点、古典的な作品も現代的な作品もありましたが、視覚的詐術を「トロンプルイユ」、「シャドウ」、「オプ・イリュージョン」、「アナモルフォーズ、メタモルフォーズ」などのカテゴリーに分類して仕掛けを解き明かしていたので、「だまし絵」の主旨がよく理解できたように思います。福田親子の作品、前回の「奇想の王国 だまし絵」には、父親の福田繁雄の「Sample」という作品と、その娘の福田美蘭の作品「壁面5°の拡がり」が出ていましたが、今回も親子でそれぞれ作品を出していました。


展覧会の構成は、以下の通りです。


プロローグ

第1章 トロンプルイユ

第2章 シャドウ、シルエット&ミラー・イメージ

第3章 オプ・イリュージョン

第4章 アナモルフォーズ・メタモルフォーズ


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プロローグ




第1章 トロンプルイユ



第2章 シャドウ、シルエット&ミラー・イメージ




第3章 オプ・イリュージョン



第4章 アナモルフォーズ・メタモルフォーズ



「だまし絵Ⅱ 進化するだまし絵」
美術の歴史においては、古くから見る人の目をあざむくような仕掛けをもつ「だまし絵」の系譜があります。その系譜を広く辿った2009年の「だまし絵」展の続編となる本展では、前回の詐術的技巧の流れのなかで、多岐にわたり進化していく現代美術の展開に重きを置いています。視覚的に興味深く、かつ芸術性に優れた作品を選び、その視覚的詐術を「トロンプルイユ」、「シャドウ」、「オプ・イリュージョン」、「アナモルフォーズ、メタモルフォーズ」などのカテゴリーに分類して仕掛けを解き明かすとともに、先達者としての古典的巨匠の到達点とあわせて現代の新しい「だまし絵」への挑戦を紹介していきます。

「Bunkamuraザ・ミュージアム」ホームページ

dama16 「だまし絵Ⅱ」

図録

編集:

Bunkamuraザ・ミュージアム

兵庫県立美術館

名古屋市美術館

中日新聞社

発行:

中日新聞社
dama2 「だまし絵」

図録

編集:

名古屋市美術館

Bunkamuraザ・ミュージアム

兵庫県立美術館

中日新聞社

発行:

中日新聞社

dama1 「図説だまし絵」

もうひとつの美術史

ふくろうの本

1999年8月25日初版発行

著者:谷川渥

発行:河出書房新社




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