僕は、みんなが学校の外に出て行ったねを見届けると、松本の側に行って

「マネージャーになるなんて、一言も聞いていないよ」

 と言った

「一緒にいる時間が少しでも増えると良いなと思って、先生に入部させてほしいとお願いしたの。ビックリした?」

 彼女は笑いながら言う

「ビックリしたよ。いつ言ったのさ」

「浦河が入院している時に。みんなでお見舞いに行った日に、私、遅れて来たでしょう。その時、先生に入部させて欲しいって、お願いしたの」

「なんで、今日からなの?」

「3学期からって、言ってあったから」

「そうなんだ。でも、本当に驚いたよ」

 僕らが並んで話をしていると、久保先生がやって来て

「浦河、怪我が治ったばかりだから、無理はするなよ。それと2人に言うけど、大会に出場停止になるような行為は、慎むように」

 と言った

「ハッ、ハイ」

「はい」

 僕らは返事をした。

 久保先生は、僕らの返事を聞いた後、みんなを追いかけるように、学校の外に走って行った

「僕も走るよ」

 僕は松本にそう言って、ゆっくりとトラックに向かう

「頑張ってね」

 彼女は声を掛ける。

 僕は右手を上に挙げ合図をする。ちょうど怪我をする前に、2人がつき合う前、いつも僕がしていた合図のように、右手を挙げた。

 そして、ゆっくりと体を慣らすかのように、走り始めた。

 走り出して、後ろを振り返ると、手を振る彼女の姿があった

「頑張ってー」

 彼女は叫んでいた。

 僕は徐々にスピードをあげて、走り続けた。

 走り続ける僕の周りを、春の訪れを告げる、暖かい風が吹き抜けていった。

 新しい季節が、また始まろうとしていた。
「知らないよ。こんな時期に入部なんて珍しいね。誰だろう?」

 僕が聞くと

「良く分からないですよ。でも、今日から来るそうですから、そのうち分かると思いますよ」

 と言ってきた

「集合ー」

 久保先生の声が聞こえ、僕らは集合した。

「みんな集まったな?」

 先生が言う

「ハイ」

 僕らは返事をした。

「浦河、前に出てきて挨拶」

 僕は先生に言われて、みんなの前に立ち

「事故に遭い、怪我をした時は、ご迷惑やご心配をかけました。今日から復帰します。まだ、ゆっくりとしか走れませんけど、徐々に体を慣らして、前みたいに走れるように頑張ります。よろしくお願いします」

 と挨拶をして、元の場所に戻ると、久保先生が

「みんなも知っていると思うけど、今日からマネージャーが1人、入部してくる事になったから、今から挨拶させる」

 そう言われ、グランドに入って来たのは、ジャージを着た松本の姿だった。

 トレードマークのポニーテールが揺れていた。

「今日から、陸上部のマネージャーをやります、2年の松本朱音です。よろしくお願いします」

 そう言って、頭を下げた

「えっ!」

 僕は固まってしまった

 マネージャーをやるなんて話は、本人から一言も聞いていなかった。

「なんだー。新しいマネージャーって、浦河先輩の彼女じゃないですかー」

「彼氏に立候補しようと思ったのに」

「女の子が入部すると聞いたから、楽しみにしていたのに。もう決まった相手のいる人ですか~」

 なんて声が聞こえてきた。先生が

「静かにしろ。じゃあ、今日の練習を開始して」

 と言った。原田がざわついている、みんなの前に出て

「みんな、新しいマネージャーについて、文句を言うのは走った後。浦河に直接な」

 と言う

「なんでだよ」

 僕が言う台詞をかき消すように、原田は

「今日は、山コース。3周行くぞ」

 と声をあげた

「おー」

 みんなが声をあげる。僕も文句を言うのを止めて

「行くぞー」

 と走る気満々で答えたが、原田が

「浦河はグランド5周。ゆっくり体を慣らしてくれよ」

 と言ってきた

「了解」

 僕が言うと

「行くぞ!出発!」

 原田のかけ声で、一斉に校門に向かって走り出した。
 僕は授業が終わると、1番に部室に行き、トレーニングウエアーに着替えると、靴ひもを強めに結び、グランドに立っていた。

 ゆっくりと、ストレッチを始めていると

「浦河。初日から無理するなよ」

 原田が駆け寄って来た

「軽く、流すだけ」

 僕が言うと

「おかしいと思ったんだ。今日は授業中からずっと、機嫌が良かったから、何だろうと思っていたけど、今日が部活に復帰する日だったのか」

「そのとおり」

「まぁな、これからは俺達が主力として、チームをまとめなきゃいけないからな」

 原田が言う

 秋の県大会が終了して、3年生は引退していた。

 新しいキャプテンはまだ決まっていないけど、僕や原田が新しく、みんなを引っ張っていく立場になっていた。

 とりあえずは、原田がキャプテン代行をしていた。工藤先輩が引退した日に、みんなからキャプテンに推薦されたけど、その時に原田が

『自分の実力じゃ、キャプテンなんて務まらない。大会で何度も上位に入っている、浦河の方がキャプテンに相応しい』

 と辞退したらしいのだけど、僕は事故で入院していると言う事で

『キャプテン代行としてなら』

 と引き受けたみたいだった。

「キャプテン。格好いいねー」

 僕がからかうと

「何なら、直ぐに変わってやるよ。今の俺の立場はキャプテン代行だから」

 原田は言う

「やらない」

 僕は即答した。

「浦河こそ、キャプテンだよ。俺より大会成績が上じゃん」

「僕はキャプテンなんてガラじゃないよ。自分の事で精一杯さ。怪我もしたしな。とても、人をまとめていくなんて無理だよ。原田がキャプテンを引き受けるなら、そのサポートならやるよ」

 僕は答えた。

 そのうち、他の陸上部員が集まって来た

「先輩。今日から復帰ですね」

「怪我は、もう大丈夫ですか?」

 そのうち、後輩の1人が、僕に寄って来て

「先輩、知ってますか?」

 と耳打ちする

「何を?」

「実はですね、今日から女子の新入部員が来るらしいんですよ。マネージャーだって、言う話ですけど」

 後輩が教えてくれた