体系的議論欠いた税制改正 「政権公約ありき」の矛盾
◆方向は妥当だが
菅直人民主党政権による来年度税制改正は法人税を除きすべて増税となった。結論から言えば方向は間違っていない。問題はミクロの政権公約実現にこだわった結果、税体系を歪(ゆが)めたうえ抜本改革への道筋も描けなかったことだ。
来年度改正は先の小欄(12月12日付)でも指摘したように、個人所得、法人、資産課税、環境税導入と、本来なら抜本改革で論じるべきテーマがそろった。しかし、肝心の消費税引き上げを封印したこともあり、結局は表面的議論に終始したといってよい。
最大の焦点となった国と地方を合わせた法人税の実効税率引き下げからみてみよう。日本の約40%は韓国などのアジアはもちろん、先進国と比べても米国を除けば10%前後高い。今回の5%引き下げが、菅政権のいう国際競争力の強化や海外企業の日本投資にどこまでつながるか分からないが、その差を縮める第一歩になるのは確かだろう。
問題は財源である。菅政権は財政健全化の指針である財政運営戦略に、「ペイアズユーゴー原則」という財政規律を盛り込んだ。減税の場合はそれに見合う恒久財源が義務付けられ、法人税の課税ベース拡大で捻出せねばならない。
当初はその財源1?5兆円を租税特別措置による税制優遇の見直しで確保しようとした。しかし、「実質減税でなければ意味がない」との産業界の猛反対にあい、減価償却制度の見直しなどで半分の財源を確保するのが精いっぱいだった。
今回の引き下げではドイツの営業税に似た法人事業税も議論チョークアートせず、初めから財源確保は困難とみられていた。そして税制改正大綱も「財源の確保は十分ではない」と認めざるを得ず、財政規律に禍根を残すことになったのである。
この財源なき見切り発車は、菅政権が成長戦略の目玉とした「まず5%引き下げありき」で、後先を考えなかった結果ともいえる。こうした理念なき手法は他の税目でも歪みや矛盾を生んだ。
所得税ではサラリーマンの必要経費などにあたる給与所得控除を年収1500万円で頭打ちにし、23~69歳の成年扶養控除を原則廃止した。相続税では基礎控除を大幅に圧縮したうえ、50%の最高税率を55%に引き上げた。
所得税の税収がピーク時の半分以下に落ち込んだ“所得税の空洞化”は、さまざまな所得控除の拡充が大きな要因だし、相続税も課税を緩和したバブル期のままだった。税の重要な役割である財源調
ウォーター サーバー達機能は失われ財政は悪化した。その回復と所得再分配というもう一つの機能を強化するには、増税の方向しかない。
しかし、対象になったのは高所得者だけで、所得税で言えば空洞化の中心である中所得者に手をつけていない。しかも、増税による財源は子ども手当など政権公約の上積み分に充てられ、財政健全化にはつながらない。手当には所得制限さえかけていない。とても先の2つの機能を満たしたとはいえまい。
◆財源つまみ食い
そもそも民主党政権が掲げた「所得控除から税額控除へ」は何だったのか。所得控除の圧縮は部分的で、給付付き税額控除とそれに必要な社会保障と税の共通番号も先送りした。
相続税では最高税率も先進国では不文律とされる“五公五民”の限度である50%を超えた。環境税も揮発油税の暫定税率を含めたエネルギー関連税の組み替えにより一般財源として導入すキャッシングべきなのに、特別会計の石油?石炭税の上乗せでお茶を濁した。
これでは「まず政権公約ありき」で、そのための財源を幅広い税目から少しずつつまみ食いする本末転倒の改正とみられても仕方がない。あるべき税制は所得?消費?資産のバランスを考えた体系的議論で導き出されるのである。
【日曜経済講座】論説委員?岩崎慶市
◆財政規律に禍根
租税特別措置の多くは特定業種が恩恵を受けるのに対し、税率引き下げは産業界全体に恩恵が及ぶ。課税ベースの拡大による税率引き下げは、決して意味がないわけではないのだ。ドイツが2008年に行った10%引き下げは、その成功例として語られている。
しかも、ドイツの場合は租税特別措置の見直しだけでなく、もっと大胆だった。地方税である営業税の法人税損金算入をやめたうえ、支払い利子にも損金算入に制限をかけ、税率引き下げ財源の6分の5をカバーしたのである。
◆方向は妥当だが
菅直人民主党政権による来年度税制改正は法人税を除きすべて増税となった。結論から言えば方向は間違っていない。問題はミクロの政権公約実現にこだわった結果、税体系を歪(ゆが)めたうえ抜本改革への道筋も描けなかったことだ。
来年度改正は先の小欄(12月12日付)でも指摘したように、個人所得、法人、資産課税、環境税導入と、本来なら抜本改革で論じるべきテーマがそろった。しかし、肝心の消費税引き上げを封印したこともあり、結局は表面的議論に終始したといってよい。
最大の焦点となった国と地方を合わせた法人税の実効税率引き下げからみてみよう。日本の約40%は韓国などのアジアはもちろん、先進国と比べても米国を除けば10%前後高い。今回の5%引き下げが、菅政権のいう国際競争力の強化や海外企業の日本投資にどこまでつながるか分からないが、その差を縮める第一歩になるのは確かだろう。
問題は財源である。菅政権は財政健全化の指針である財政運営戦略に、「ペイアズユーゴー原則」という財政規律を盛り込んだ。減税の場合はそれに見合う恒久財源が義務付けられ、法人税の課税ベース拡大で捻出せねばならない。
当初はその財源1?5兆円を租税特別措置による税制優遇の見直しで確保しようとした。しかし、「実質減税でなければ意味がない」との産業界の猛反対にあい、減価償却制度の見直しなどで半分の財源を確保するのが精いっぱいだった。
今回の引き下げではドイツの営業税に似た法人事業税も議論チョークアートせず、初めから財源確保は困難とみられていた。そして税制改正大綱も「財源の確保は十分ではない」と認めざるを得ず、財政規律に禍根を残すことになったのである。
この財源なき見切り発車は、菅政権が成長戦略の目玉とした「まず5%引き下げありき」で、後先を考えなかった結果ともいえる。こうした理念なき手法は他の税目でも歪みや矛盾を生んだ。
所得税ではサラリーマンの必要経費などにあたる給与所得控除を年収1500万円で頭打ちにし、23~69歳の成年扶養控除を原則廃止した。相続税では基礎控除を大幅に圧縮したうえ、50%の最高税率を55%に引き上げた。
所得税の税収がピーク時の半分以下に落ち込んだ“所得税の空洞化”は、さまざまな所得控除の拡充が大きな要因だし、相続税も課税を緩和したバブル期のままだった。税の重要な役割である財源調
ウォーター サーバー達機能は失われ財政は悪化した。その回復と所得再分配というもう一つの機能を強化するには、増税の方向しかない。
しかし、対象になったのは高所得者だけで、所得税で言えば空洞化の中心である中所得者に手をつけていない。しかも、増税による財源は子ども手当など政権公約の上積み分に充てられ、財政健全化にはつながらない。手当には所得制限さえかけていない。とても先の2つの機能を満たしたとはいえまい。
◆財源つまみ食い
そもそも民主党政権が掲げた「所得控除から税額控除へ」は何だったのか。所得控除の圧縮は部分的で、給付付き税額控除とそれに必要な社会保障と税の共通番号も先送りした。
相続税では最高税率も先進国では不文律とされる“五公五民”の限度である50%を超えた。環境税も揮発油税の暫定税率を含めたエネルギー関連税の組み替えにより一般財源として導入すキャッシングべきなのに、特別会計の石油?石炭税の上乗せでお茶を濁した。
これでは「まず政権公約ありき」で、そのための財源を幅広い税目から少しずつつまみ食いする本末転倒の改正とみられても仕方がない。あるべき税制は所得?消費?資産のバランスを考えた体系的議論で導き出されるのである。
【日曜経済講座】論説委員?岩崎慶市
◆財政規律に禍根
租税特別措置の多くは特定業種が恩恵を受けるのに対し、税率引き下げは産業界全体に恩恵が及ぶ。課税ベースの拡大による税率引き下げは、決して意味がないわけではないのだ。ドイツが2008年に行った10%引き下げは、その成功例として語られている。
しかも、ドイツの場合は租税特別措置の見直しだけでなく、もっと大胆だった。地方税である営業税の法人税損金算入をやめたうえ、支払い利子にも損金算入に制限をかけ、税率引き下げ財源の6分の5をカバーしたのである。