本文は、５月６日の日経新聞の要旨及びそれに関するコメントです

要旨

　ブリンケン米国務長官はロンドンで開催されたG7外相会談で、「ノードストリーム2」に断固として反対する姿勢をドイツのハイコ・マース外相に伝えた。

　「ノードストリーム2」はバルト海底を経由してロシア沿岸部とドイツを結ぶガスパイプラインだ。（Fig.１）プロジェクト参加者はロシア以外に欧州企業も参加している。本プロジェクト実施に反対しているのは自国天然ガスを欧州に推し進めたい米国とアメリカの主張を受け入れた一部欧州諸国。ロシア側は、「ノードストリーム2」はあくまでも商業的および競争に基づいたプロジェクトであり、ウクライナ経由の欧州へのロシア製ガス輸送の停止を意味するものではないと説明を繰り返してきた。

Fig.１　ノードストリーム（橙色）とノードストリーム２（緑色）の位置関係

　国務長官とマース外相は「ロシア、中国、イランが不安定化」をもたらしていることから、環大西洋の国々で協力する必要性を確認したという。

コメント

・ノードストリームプロジェクトはロシアの天然ガス独占企業「ガスプロム」とドイツやフランスなどの欧州企業との間で2005年、締結され、第1パイプライン（ノードストリーム）は2011年11月8日に完成し、操業を開始した。これを拡充するために2本目のパイプライン建設ノードストリーム2が計画された。しかし、米国側が「ドイツはロシアのエネルギーへの依存を高める結果となる。ひいては欧州の安全問題にも深刻な影響が出てくる」と強く反対し、２０１９年には完成すると見られたノードストリーム２プロジェクトは未だその途中だ。

・ドイツは脱原発を目指しているため、天然ガスの供給は不可欠だ。ノードストリーム2計画が完了すれば、ドイツはロシアから安価なガスをこれまでの2倍確保できる。そうすると、ドイツ企業は高い米国産の液化天然ガス（LNG）を買わなくなるとみられている。

・また、地政学的にみて、ドイツはロシアからの侵攻を守るための欧州の最後の砦だ。そのドイツがロシアと経済的に強く結びつくのをよく思わない国はアメリカ以外にも多くみられた。

・このため、これまでにドイツはアメリカから幾度もノードストリーム２に関する制裁に参加するように求められたが、メルケル政権はそれを拒んだ。さらに今年３月には、アメリカのノードストリーム２を巡る一連の制裁は、EUの主権侵害であり、制裁を解除するように求めていた。

・このノードストリーム２が出来れば、影響を受けるのはアメリカ等の欧米の燃料輸出国のみだけではない。これまでロシア―欧州間における陸上のパイプライン（Fig.２）の使用料金が貴重な収入源となっていたウクライナにとっても経済的痛手となる。そのため、ウクライナもこのノードストリーム２プロジェクトに反対している。

Fig.２　ロシアから欧州へのエネルギー輸送経路は複数ある

・ロシアはワクチンやエネルギーなど様々な手段で国際的な影響力を大きくしている。ロシアによるワクチンやエネルギーなどを用いた外交活動は、安全保障にも大きく結びついている。今後、いかにロシアの影響力拡大をとどめるかが欧米諸国や日本にとって大きな課題となっていくだろう。

アメリカ、G7外相会議にてノードストリーム２計画を凍結するようドイツに圧力