昨年2月アメリカ国務省政策企画本部長の要職を辞任したAnne-Marie Slaughterさんが雑誌「アトランティック」に寄稿した記事が世界で大きな反響を呼んでいます。オバマ政権ではミシェル・フロノイ(Michele Flournoy)前国防次官も「家族との時間がほしい」と辞任が相次ぎます。
「キャリアと家庭の両立はいまの米国の経済・社会構造では無理」と告白し多くの反響を集めている。「もっと家族と過ごす時間を持ちたい」と辞職し、古巣プリンストン大学教授職に戻った。外交政策をつかさどる仕事はやりがいがあり好きだったが、思春期の2人の息子の母として、休みのない激務を続けることはできなかった。そして彼女は、弁護士や投資銀行家、政府高官など、超エリートと呼ばれる超激務の仕事を持つ女性が「全て(キャリアと家庭)を手に入れることは不可能」「何よりも大切な子供を優先することが信じられない社会はおかしい。」と断言した。彼女の夫は、やはり時間的融通のきく大学教授で、 育児にとても協力的らしい。国務省時代の上司はヒラリー・クリントンで「とても理解のある上司だった」と述べている。「意志の力さえあれば全てが手に入る」と旗を振ってきた世代として、若い世代に現実を正直に語る責任があると感じ社会の変革を呼びかけています。提案の一つは、長時間勤務を自慢するような文化を変えること。自宅など職場以外の環境で勤務する自由、子どもの学校の時間に合わせた勤務時間、子育てが最も忙しい時期とキャリアの最盛期をずらすことなどを提言している。「働く時間、場所、方法の『定型』を変えよう」。ジェームズ・スタインバーグ前国務副長官は自宅からビデオ会議に参加し、妻と子育てを分担していた。

 

「職場環境を変えなければ、才能のある女性を失いかねない。長期的な視点で人材を確保すべきだ」「私と同じように考えている人が多くなければ、エッセーにこれだけの反応はなかったはず。(社会の)変化を求めながら、諦めている人が多い。影響力のある人が正直に語ることが大切だと思う」

Photo Gallery: Why Women Still Can't Have It All 

同女史は、「両立は無理だったし、またそれを周囲には言えなかった。」と、その心情を吐露します。
1970
年代に始まった女性解放運動、そのウーマンリブの波が広がりつつある渦中に活躍した彼女たち、第一世代の女性たちは、口が裂けても「両立は無理」とは言えなかった。
「家庭と仕事の両立は可能である」と信じ、またできるはずだ、できなければならないと彼女たち自身に重圧を課し、やり過ごしてきたというのです。
そのプレッシャーは、現在の第二世代・第三世代の女性たちに飛び火しており、本当は辛い、両立などできないと感じているのに、みんな隠してきたというのです。
記事掲載後、世界中から「自分も同じ思いをしていた。」など共感する内容の反響が届いているそうです。
スローター女史は、「誰もが抱かえる問題を声に出して共有することが、家庭と仕事の両立を可能にするバランスの取れた社会の構築につながるはず。」と結んでいます。
また、そのような社会こそが女性のみならず、誰にとっても人として住みやすいはず、と述べています。
女性の就労問題にとどまらず、仕事中心の社会がこれまでの通念でした。
本当は改善しなければならない職場の環境、対処すべき問題、対応が迫られているはずの案件なども、「仕事だから。」の一言で一蹴されてきたのは、誰もが経験しているはず。男女がともに住みやすい社会を造ってゆくために、この問題を先送りせずにみんなで考える時代が来たのでしょう。

反響は欧州に飛び火

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー(Tages-Anzeiger)は、「(仕事と家庭の両立に関して)アメリカでは議論が白熱中だが、これはヨーロッパでも大論争に発展しかねない。フェミニズムのアキレス腱である母親業を取りあげているからだ」と論じた。一方、同じくドイツ語圏の日曜紙NZZ・アム・ゾンターク(NZZ am Sonntag)は、「いずれにせよ男女どちらも『すべてを手に入れていない』ため、これによって議論が進展することはない」と批評している。

女性の影響力

 欧州のワーキングマザーの就労形態は、時短勤務(フルタイムより短時間で働く正規雇用形態)が主流だ。25歳以下の子どもを持つ女性の61%が時短勤務の仕事を選び、約4人に1人が専業主婦。一方、フルタイムで働く母親はわずか16%だ。

 しかし、どれだけ多くの女性が就労形態を自由に選べるのだろうか?女性たちは自ら希望して時短勤務の仕事を選ぶのだろうか、それとも選択の余地がないために時短勤務をしているだけなのだろうか?

 スイスの政治学者レグラ・シュタンプフリ氏は、選択の自由を妨げているのは周りの環境だと強調する。「私は、自由な就労形態の妨げとなるのは女性自身だという論争は、常にばかげていると思ってきた。なぜなら実際に女性には選択肢がないうえ、女性にとっても男性にとっても実現可能な労働モデルが存在しないからだ」

 スローター氏は、男性も家庭の負担をもっと積極的に分担すべきだと主張している。スイスで時短勤務の父親はわずか7.6%だ。

 「それ(男性の家事分担)は、いい目標だ」とシュタンプフリ氏も言う。「家庭、母親と父親それぞれの役割、労働市場、そしてどのように社会をまとめていくかについて、将来真剣に議論をする必要がある」

 矛盾しているが、スローター氏は社会的権力のある地位をあきらめた一方で、社会を改善するためには、地位の高い役職により多くの女性が進出することが必要だとも主張する。

 「(職場で多大な)影響力を持つ女性の数が大幅に増えて初めて、全ての女性にとって、またすべての人々にとって真に生活しやすい社会が作れるようになる」

クレディ・スイス(Credit Suisse)研究所の最近のレポートによると、経営陣に女性が最低でも1人が加わっている企業の株価は、1人もいない企業のものより、過去6年間で平均26%も上回っているそうです。

子育ての役割

 欧州では、子育てにおける女性の役割が現在も社会的に高く評価され、それは離婚調停ガイドラインにも表れている。

 スイス最高裁の過去の判決によると、離婚時に働いておらず収入のない母親は、最年少の子どもが10歳になるまで家で子育てを続けることができ、それまでの間は、時短勤務であろうと外へ出て働くよう強要することはできない。

 こうした判例をもとに、欧州の裁判官は誰が一家の収入の担い手になるべきかを決めていく。離婚した母親がフルタイムで働くことを期待されるのは、最年少の子どもが16歳になってからだ。

米国の女性には、欧州の女性が比較的たくさん持っている「家族と共に過ごすための時間」が無いようです。それが両親の愛情を実感できないサイレント・チルドレンを拡大させ社会の中で虐めや犯罪へ暴走する事態に繫がってる気がします。

参照 http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2012/07/why-women-still-cant-have-it-all/309020/