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ガラガラガラと、扉を開ける。
「朝は寂しいねぇ…」
教室全体を見渡す。早朝なので誰もいない。
仕方なく自分の座席に座り、授業の用意をする。
ここは「市立幸福高校」。 家から1番近く、俺の通う高校だ。時刻は7時10分。俺が起きてから、まだ40分しか経っていない。
感情に流されるまま、何も考えずに来てしまったのでとてつもなく暇だ。
「あ~、暇だ。やることがないって案外辛いな…」
家にいるとやることが沢山あるので辛いが、(料理、洗濯、片付け、宿題etc…)逆にやることがないというのも辛い。正直、自分勝手だと思う。
「しかし、学校もなんでこんな朝早くから校門開けるんだよ…」
7時に校門開けるとか早過ぎるだろ…。
「それは学校側の都合じゃない?」
ガラガラガラと、音をたてながら扉が開いた。
「おはよう、勇助」
「ああ、おはよう」
こいつの名前は島影勇助。小学校からの付き合いで、俺の親友だ。
「ところで恭平、今朝のニュース見たか?」
「星座占い?」
「俺は「今日があなたにとって特別な日になるでしょう」だったぜ」
「あ~、俺なんて「じゃなくて」
勇助が、俺の額にチョッブをいれてくる。軽いつっこみだ。
「今朝、商店街で起きたやつだよ!」
「あ~」
「お前…紀伊さん達心配じゃないの?」
いや…と、首を振る。親友のこいつは、俺と紀伊さんの馴れ初めの話を知っているが、実際に会ったことはない。だから、あの「どんな困難でも跳ね退けてしまう温かさ」を知らない。
「あの人達なら…たぶん大丈夫」
「すごい自信だな」
頷き、立ち上がる。退屈なので外に出ようと思ったからだ。 朝のホームルームが8時20分からだから、それまでに戻ってくれば大丈夫だ。時刻は7時15分。まだ1時間以上もある。よし、サッカーをしよう。
「暇だな…」
「ああ…」
俺は親友をサッカーに誘うべく、質問を投げ掛けた。
「勇助って…好きなスポーツ何?」
「サッカー」
ああ、「知ってる」よ!!小学生の頃からの付き合いだから、そんなの知ってて当然だ!
心の中でほくそ笑む。
流れは…完璧だ。後は、こいつをサッカーに誘うだけ。
俺は至って自然に言う。不自然さなどかけらもない。
「じゃあ…サッカーでもしようか?」
「いや…商店街の方に行ってみないか?」
おおぅ…。あの流れは普通、サッカーじゃない?
「………」
沈黙のさなか、気付いた。
そういやこいつ…「KY(空気読めない)」だったッ!!
しかし、俺はなおも強く誘う!
「やろうぜぇ~」
「嫌だ」
「サッカー、やろうぜ!」
「どこのアニメのゴールキーパーだよそれ」
「俺の「魔神〇ハンド」を見せてやるよ」
「さてと…」
立ち上がる勇助。
諦めるもんか!
頭の中で、リング内に倒れる自分を想像する。勇助の右ストレートに沈められた俺は、必死に起き上がろうとする。
「立って、立つのよ!」
ふと横を見遣ると、そこには首からタオルを下げ、片手にメガホンを持った、俺のコーチらしき留美がいた。
「ぐっ…だ、駄目か…」
起き上がろうとするも、腕が震えて力が入らない。
横にいるコーチ…留美を、ちらっと見る。
[む、無念…]
「勝たなきゃ今夜のご飯抜きよ!!!」
負けられねぇ!
「セブン、エイッ、ナァイ-」
「うおぉぉおぉお!!!」
勢いよく立ち上がる。
リングに穴が空いたが、無視。俺の周りが変なオーラで覆われるが、無視。上半身の服だけ破けるが、無視。突如、体が鋼鉄のような筋肉で固められるが、無視。髪が逆立って金色になってるけど、無視。気弾が出せるような気がするけど、無視。
「ほぁたー!」
気の抜けたパンチが、繰り出される。
しかし、それは掛け声とは裏腹に、勇助をリングの底に深く、沈めた。いや、めりこませた。
「ウィナー、キョウヘー!」
審判が俺の手を取り、高々と上げた。
そうだ、人間、諦めなければ何でも出来るんだ!
「勇助!サッカー「嫌だ」
言い切ることすらままならなかった。
「ほら、行くぞ」
「はい…」
こうして、俺達は商店街に向かうことになった。始めから俺に選択肢なんてなかったんだ。
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荷物を教室に残し、財布等の貴重品は持ったまま、校舎を後にした。
無意味なほどに登校時間が早かったため、勇助以外の生徒とは会うこともなく、俺達は「幸福商店街」に着いた。時刻は7時30分。まだ時間には余裕がある。
「ゆ、勇助っ!あれ、鑑識!」
「落ち着けよ…」
落ち着いてなんかいられるかよ!だって…鑑識だぞ。事件の臭いがぷんぷんするじゃん。やっぱり、事件は現場で起きてるんだな。(当たり前か…)
「鑑識ごときで取り乱すなよな」
「まるで、鑑識を見慣れてるような口調ですね」
「鑑識を見るために来たわけじゃない」
俺のからかいは無視された。
「それに、まだ事件が起きてから2時間30分しか経ってないんだぜ。現場に鑑識がいて当然だろう」
いや、知らないから。一般人は絶対知らないから。っていうかそういうものなの?初耳だよ。
「おい恭平、あれ」
「ん?」
勇助が指差した場所には、2体の石像。それは、今朝のニュースに出てきていた事件に巻き込まれた一般人が、石像に変えられたものだった。そして、それらは俺がよく知っている顔で―
「紀伊さん!?」
信じられなかった。いや、信じたくなかった。現実を直視できなかった。
「恭平は、これらの事件が「魔法」によるものだって言われたら信じられるか?」
「「魔法」…?信じられるわけないだろ。なんらかの種があるんだよ。こんなの…」
苛立ち、俯く。「魔法」、か…。確かに、こんな不可思議な事件にはそういう表現が相応しいのかもしれない。だが、なんらかの種があるはずだ。
「種が…あればいいんだがな」
「勇助?」
勇助が一歩進み、俺を振り返った。
「結局、最後まで思い出してくれなかったな…」
「え?」
「来たぞ」
勇助の言葉と同時に、ドンと、大きな地響きが辺りを襲った。
「きゃああぁ」
「うわああぁ」
人々が逃げ惑う。
なんだなんだと、シャッターを閉じていた商店街の人達も、状況を一瞥すると、先に逃げた人達の後を追うように走っていった。
残った鑑識の人達も必死に拳銃で対抗するが、震源の正体には全く歯がたたない様子だった。
その震源の正体というのが…
「たった一人の人間…!?」
成人の男性と見られる、たった一人の人間だった。身長はやや高いが、体重は至って普通そうに見える。それなのになんなんだ、あの地響きは?
その男は深いフードのついた黒のロングコートに身を包んでていた。顔は良い方の部類に入るだろう。
「ギャーギャーうるせぇな…」
男が頭をかき、こちらへ向かってゆっくりと歩いてきた。
俺は足が震えて、その場から動けない。
鑑識の人達は俺とは違い、全速力で逃げ出した。
その場に、俺と勇助だけが取り残される。
男が、勇助を正面から見据えて言った。
「よぅ、王子様。また会ったな」
勇助が男に向かって、恐れることなく近づいていく。馬鹿か!死んじまうぞ!?
ん…?王子様?
「今回は逃がさねぇ…」
勇助が鬼気迫る表情で、一歩ずつ近づいていく。
そして、とうとう二人の距離が数メートルになった時、
「行くぞ」
勇助が地を蹴った。
「クム ラピディフルミニス」
妙な言葉を口づさみ、男に向かって突進していく。途端、勇助の動きが加速した。残像と思われるものだけが、その場に残った。
っていうか…知らなかったぞ!?勇助がこんな芸当ができるだなんて。しかも王子様ってなんだよ?
色んな疑問が俺の脳内を渦巻く。しかし、目の前の二人は、そんな俺に構うことなく戦闘を続ける。
「エゴ デ カエレオ!」
突如として男の後ろに現れた勇助が、男の背に手を突き付けて叫んだ。その手から、荒れ狂う雷が放たれた。
「来たね~、王子様の十八番」
男は瞬時に距離を取り、攻撃を向かい撃つのか、手の平を雷に向けた。
「カセインドゥラタ」
言葉と同時に、雷が先端の部分から石化していく。そしてそれが、勇助の手に届いたと思われた瞬間―
「効くかッ―」
片手を石化していく雷に添え、強烈な光を放った。
「う~ん、やっぱり無理か。流石は王家の血筋を引いていることだけはある」
石化していた雷が、パリィィィンと、音をたてて崩れ落ちる。
…と、見とれてる場合じゃないな。
何が起きていて、何で勇助があんな力を持っているのかは知らないが、俺は今できることをしなきゃ。
気付くと足の震えは止まっていて、恐怖心の代わりに、何かをしなければならないという、使命感が心を先行していた。紀伊さん達の石像に駆け寄る。こんな所にいたら戦闘に巻き込まれる。背後からは、未だに派手な音が聞こえてくる。
「よいしょっと…」
紀伊さん達の石像を商店街の外へと運び出す。
それにしても…何故男はあんなことをするのだろうか?そして、男や勇助が使っていた力は一体…?
ふと、閃いた。まさかとは思うが、あれが勇助の言っていた「魔法」とやらではないだろうか。…まさか…な。有り得ないだろ。この現実に、そんなファンタジーじみたものが存在するなど。きっとなんらかの種があったり、俺へのどっきりなんだろう。
紀井さん達の石像を置く。もう十分に勇助達から離れただろう。
息をつく。
一仕事終え、息をついたのではなく、溜め息をついたのだ。 分かっていた。あれがどっきりなんかじゃないこと。種などないことを。俺は現実逃避していた、自分の思考に溜め息をついたのだ。
逃げる思考を止め、推測する。男の正体を。
まず、魔法が実在するということを仮定して考えてみる。男は先程、勇助に向かって「石化」の魔法を使っていた。そして、服装が黒のフードとロングコート。身長も成人の男性の平均よりは高い。このことから、俺は、男は今朝のニュースの犯人「M」だと推測する。今まで気付けなかったのは、その圧倒的なまでの力と、一度犯行を行った現場には戻らないだろうという安心感があったからだ。
だとしたら、あの男が紀井さん達を石化させたことになる。
心底、怒りが湧いてくる。だが、同時に虚しさも感じた。紀井さん達を石化させたことへの怒りと、それに対して何もできない虚しさ。その両方が混ざり合い、複雑な感情を形成していく。
思わずいても立ってもいられなくなり、紀井さん達の石像をその場に残し、勇助達の方へと駆け出した。
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商店街の中心部では、未だに勇助と男の戦闘が続いていた。
二人の繰り広げる戦闘の被害は尋常じゃなかった。建物は崩壊、電柱は折れ、アスファルトにはひびが入っている。以前テレビ越しに見た、地震の起きた被災地を見ている気持ちになる。
二人は一進一退を繰り返し、一向に勝負がつかない様子だった。
もし…。もしもだ…。俺にも魔法が使えたなら、この状況を打破することはできるのだろうか?勇助と協力し、形勢を覆すことはできるのだろうか?
力のない自分が情けない。劣等感が心を満たす。今まで対等だと思っていた親友が、手の届かないところに行ってしまった。そんな気持ち。
拳をにぎりしめる。
「ちくしょう…」
親友があれだけがんばっているのに、俺はどうすることもできない。
「俺は…何もできないのか…」
「できますよ」
「―なっ!?」
突然、俺の背後から聞き覚えのない声が響いた。
驚愕し、振り向く。
先程まで誰もいなかった場所には、今、中折れ帽子をかぶり、スーツを纏っている男が立っていた。いや、男と言うにはまだ若い。青年…と、いったところだろうか。
自然と身構える。
「まあ、そう警戒しないでください」
青年が両手を虚空に上げた。敵意はない…という意味なのだろう。
「私なら、あなたの願いを叶えられます。」
「…え?」
突拍子もない発言に驚愕し、口をぱくつかせる。この青年が…俺の願いを叶える?まさか、願いは三つまでとか、神の力を越える願いは叶えられないとか…アレ?7つの玉を集めると出て来るアレですか?
とにかく、俺の願いを叶えるってことは…魔法を使えるようにしてください。の一択に尽きる。
「要は、あなたに魔法の力を授ければ良いのでしょう?」
「あ、ああ…」
「それなら簡単ですよ」
簡単…だと?この青年、一体何者なんだ?だが、力を得られるのならなりふり構ってなどいられない。怪しいが、とことん付き合ってやろうじゃないか。まぁ、願いを叶えてもらうのはこちら側だけどね。
しかし、この決意も次の言葉に揺らぐことになる。
「元々、あなたには魔法の素質があるのですよ。私はそれを引き出してあげればいいだけです」
「…え?」
まさか…なんかやばい感じの薬とか飲まされちゃうの、俺?飲んだら幻惑みたりとか、異常なほど筋肉が膨らむとか…。嫌だよ。俺それ嫌だよ。断固拒否する。それだけは、全力で阻止する。
「記憶をなくされていたとは耳にしていましたが、まさかこれほどとは…」
青年がうずくまり、頭をかかえた。青年の美形さのあまり、ひとつひとつの行動が様になってるのが釈に触る。
「では、自己紹介をさせていただきます」
そして青年は立ち上がり、手を胸にあて、手足を棒のようにまっすぐ伸ばし、まるで騎士が敬礼するような仕草をして言った。
「私の名は、ウレア・アムク。魔世界から参りました。ファセルス・グランド王子、あなた様の執事でございます」
「………は?」
俺はただ、口をあんぐりと開けるしかなかった。
俺はこの時、確かに、日常が崩れ去る音を聞いた。
MAGIC REVOLT 1 ―始まり― 2/10
FIN