桜は待てども現れませんでした。
うっすら遠くの空が明るくなってきたので、私は夜が明けきる前にどうにか遠くへ逃げないとと思い、小屋から出て、車の音がする方向へまわりを気にしながら移動しました。
裸足で足が痛いはずなのに、そんなことも忘れるほど。
人間追い詰められていると何でもできるものだと、私はこの頃思っていて、この時もそれを身を持って実感することになりました。
大きな道に出ると車がたくさん、私は信号機のボタンを押し、赤信号で止まった1台のトラックに近寄って、どこかまで乗せてほしいと頼んだんです。
ヒッチハイクみたいな。
おじさんだったけど、とくに怪しまれることなく乗せてくれましたが、私が裸足なことに気付いたようで、不思議そうに尋ねられ、私はとっさに
「側溝にはまっちゃって」
なんておかしな嘘をつきました。
きっと“変な子”だと思われたでしょうね。
私はまた大阪に行こうと決めていたので、あの高速乗り場まで行きたいことを伝えると、逆方向だと言われてしまいました。
私が困っているのを感じたようで、逆方向だけどトラックとかがたくさん止まるコンビニがあるから、そこまで送ってあげると言ってくれました。
さくら学園からはかなり離れた場所だったので、それだけで安心したものです。
裸足ですけど(笑)
車で3.40分走ると、道沿いに大きな駐車場があるコンビニを発見。
「ここならたくさんトラックもいるし、車も来るから声かけてみるといい」
そう言って、コンビニで買ったパンと飲み物をくれました。
コンビニの隅でそれらを食べながら、声をかける人を物色し、何人かトラックの人に声をかけましたが断られ…
トラックは無理かもと思い、目の前に止まった普通車から降りてきたサラリーマンぽいおじさんに声をかけると“途中までなら方向が同じだからいいよ”と。
施設から逃げてきたとは言いませんでしたが、会話から訳ありだと察したおじさん。
私の裸足にもすぐ気が付き、開いてるお店を探してサンダルを買ってきてくれたんです。
「おばさんぽいのしかなくて」
って、渡してくれたおじさん。
降りる時に
「これで何か食べて」
そう言って1,000円札を渡してくれました。
未だに忘れられません。
私の脱走生活はまた始まりを迎えることとなりました。