今回は、英国の舞台系専門学校、オーディションを受ける必要のある学校の、受験に関する少し踏み込んだお話です。
※経験ベースなので、絶対値ではありません。
先ずは学校選び。
これは初めの記事にも書きましたが、自分の希望と自分のカラーに合うかで選ぶのが良いと思います。
日本の受験で言うところの他校との併願ですが、私はした方が良いと思います。
私がオーディション準備していた頃のレッスン仲間にもしていた人は少なくなかったです。
各学校で誰が教えているかについては、最新の情報を学校のウェブサイトで確認した方が良いです。
というのも、私は第1志望がGSAで第2志望がLSCだったんですが、GSAを志望していた理由が、演劇の先生だったんです。
でも、私の持ってた情報が古くて、その先生は私が受験する何年か前にGSAの先生は辞めてLSCで教えていたんです。
私にしてみれば結果オーライなことにはなりましたが、まかり間違ってGSAに受かっていたらLSCは受けていなかったので、「なんでやねん!」となっていたところでした。
併願を勧める一番の理由は、万が一志望校に落ちた時に1年現地で翌年のために準備するとした場合に、第2第3志望に受かっていればその学校で訓練して、翌年2年生からの編入を希望してオーディションを受けられるのに対し、浪人だとまた1年生からの受験になるということです。
もちろん、2年からの編入が叶わず1年からやり直しになる可能性は、第2第3に進んだ場合にもありますが、浪人よりは編入可能性が高くなります。
それに、1年学校にいれば必ず試験を一度は経験してから翌年入学に向けてのオーディションに挑むことになると思いますし、揉まれる環境の分かなり要領が掴めてきていて、自分の持ち味も見えやすくなっていると思います。
日本と同じで、併願されやすい学校というのは、定員よりも少し多めに合格者を出します。
LSCも併願されやすい学校だったので、面接で併願の有無と受かった場合について聞かれました。
私は既に第一志望に落ちてたので、併願はなし(つまり合格したら必ず入る)と答えましたが、第一志望の受験が残っていた場合、併願があることを素直に言っても落ちるとか言うことは無いと思います。
先に書いたレッスン仲間で同じ日に受験したPaulは素直に伝えて受かっていました。
自分が高校受験でやらかした「第一志望受かると思うんで、ここには来るつもりありません」とか言っちゃわない限りは大丈夫かと。
第一志望とそれ以外のオーディション、どちらを先に受けるかは、願書を出すタイミングである程度コントロール出来ます。
年間を通してオーディションしている学校がそこそこあるので、現地オーディションである限り、願書を全て同時期に出す必要もありません。
同時期に出して勝負に行っても良いですし、早目に1校受けてみてその感触で作戦を練り直すことも出来ます。
オーディションの内容の話としては、演技で求められるモノローグですが、これは日本語では独白と言って、1人セリフとか長台詞のことです。
日本ではモノローグの本が本当に無いのですが、英国ではどの本屋に行ってもたくさんあります。
沢山あり過ぎて迷うかもというくらいに。
クラシック、モダン、男性、女性というようにカテゴライズされているので、探しやすいです。
こればっかりは海外から取寄せるしかありません。
ここで、受験でのモノローグの選び方ですが、基本は「自分の持ち味を出せる」物を選ぶのがベストです。
これから勉強するつもりの若者は選ぶべきではないモノローグというものも存在しています。
例えば女性なら「マダムマクベス」
これは、実際にGSAのオーディションでやった子がいましたが、完全に「やっちまったなあ」という空気になってしまいました。
「マダムマクベス」のモノローグというのは、たしかにドラマチックで実力を示せそうですが、先ずは若い人がやる課題じゃないんです。
というか、これをしっかり見せられるならもうプロですよね。しかもそれなりに経験を積んだ実力派の。
そういうのは選んじゃダメです。
有名過ぎる物も、他の人とダブる可能性がありますし、審査する先生も有名な物ほどプロのものも学生のものも相当数見ているはずなので、審査する目が厳しくなります。
古典であっても、極端なテーマのセリフではなく今現在の自分が身近に共感出来るような物が良いです。
この課題選びでコケるとかなり厳しいことになるので、何を選ぶかは他人にも相談した方が良いです。
自分が思い込んでいる自分のイメージと、外から見えている自分のイメージが乖離していることもあるからです。
日本人だからと東洋人の役から選ぶというのもしなくていいし、幅が狭くなるのでしない方が良い。
課題を選んだら、どう演じるか。
ただ台詞を読むだけではなく、演じることが求められるので、自己演出力も必要です。
こういうのこそ、個人指導やコミュニティーカレッジ等で、人に見てもらって準備した方が良いです。
モノローグは学校に入ってからも定期試験で求められますし、プロのオーディションでも求められます。
人に見てもらえる環境の場合、複数用意して、どれが自分にあっているか見てもらってから、合っている方の内容を詰めていくというのも1つの方法です。
作品によっては特殊な訛が必要なものもありますが、それは外国人にはハードルが高いので避けた方が良いかも知れません。
これを日本で準備するのは大変です。
何故日本でモノローグを集めた本がないのかと言うと、日本のオーディションや演劇訓練過程で使われることが無いからです。
これは、指導できる人が日本には少ないということを意味します。
ガラスの仮面という漫画がありますが、この漫画で主人公のマヤが「二人の王女」という舞台のオーディションを受ける話があります。
そのオーディションで「毒」というタイトルの1ページ分くらいのセリフが課題で出るのですが、マヤ以外の候補者達の「それらしく感情を込めて台詞を読む」のが日本で良くやられているやつで、1つの作品としてしっかり芝居にしているマヤのやり方が、モノローグに求められる方向性となります。
マヤがやったのは、1つの作品の中のモノローグではなく、モノローグとして書かれた独立したセリフを自分の解釈で、一つの芝居として演出して演じるというタイプのものです。
昔の漫画なので読んでない方は分からないかも。。。すみません。。。
マヤは細かくパントマイムを入れていましたが、そこまでする必要はありません。しかし、その場面で同じ場に誰か他の人がいることが分かるモノローグであれば、対象が見えるような演技は必要ですし、誰かに話しているモノローグなら、相手役が見える演技にするのか、客(審査員)を相手を見立てるのかなどの判断も必要。
客席に対して語りかける形のモノローグなら、その場に留まって目線や体の向きを変える程度の動きにおさめるのか、自分自身が移動するのか、移動するならどこで動くのか、立っているのか、座っているのか等、考えることが沢山あります。
演劇経験の少ない人が1人だけで準備するにはハードルがかなり高いと言えます。
経験者に見てもらい意見をもらえる環境で準備した方が絶対に良いです。
オーディションで使える道具はイスくらいなので、沢山道具が必要になるようなモノローグは難しいと思います。
誰かに手伝って貰う場合、誰に手伝ってもらうのかというのも、日本では難しい問題です。
日本だけでやってきた人は審査する側も、指導者もモノローグには殆ど触れて来ていません。
役者でも、芝居の中にモノローグがあったとしても、1つの芝居の中の長台詞位にしか認識していないことも多いと思います。
国内で準備する時には、海外で演劇教育を受けたことのある人や、演劇活動の経験のある人、つまりはモノローグを知っている人のサポートが必要です。
向こうの学校での演技はスタニスラフスキーベースが多いですが、オーディションのためにスタニスラフスキーを学ぶ必要は特には無いと思います。
RADA(王立演劇学校)受験の準備してた子が、Method Studioという、一つ前の記事に書いたアメリカのメソッド演技のスタジオのレッスンを受けてた時にいました。
ガッツリActors Studioに所属していた先生に指導してもらってました。
ちなみにメソッドとスタニスラフスキーの違いは以前書いたような気もしますが、スタートはメソッドもスタニスラフスキーです。
日本には英国より米国で演技を学んだ経験者の方が多いと思います。
アメリカでもモノローグはやるはずなので、アメリカで経験してきた人に習うのも選択肢の一つです。
次は歌。
これも、モノローグと同じく選ぶ時点から気を使う必要があります。
当時絶対に歌ってはいけないと言われていたのは、女性はエビータの「Don't Cry For Me Argentina」とサンセット大通りの「With One Look」、男性はジーザス•クライスト•スーパースターの「Gethemane」です。
この3曲の共通点は、役柄が普通の人ではないということと、歌の内容が普通の人からは掛け離れているということです。
オーディションでは初めて合わせるピアニストのピアノ演奏で歌うことになるので、リズムの変化が難しい曲も避けた方が良いです。
「Gethemane」の「I have to know my god.」の部分でピアノと合わずグチャグチャになってしまった子をGSAのオーディションで見ました。
難しい転調の多い歌も、確実な自信がなければ避けた方が無難。
人気作品の人気曲も歌う人が多く、被りがちです。
日本人のミュージカルを目指してる若い人が歌いがちなレミゼの
「On My Own」や「Empty Chairs At Empty Tables」あたりは、私はオススメしません。
有名過ぎて歌う人が多いということもあるのですが、特に「Empty Chais At Empty Tables」は歌としても難しいですし、かなり高い演技力が求められます。
1年生の時に、2年生のかなり歌の上手い先輩が歌うのを聞いた時にも、「あれ?この人ってこの程度だったっけ?ということは、これは相当難しい歌なんだな」と感じた程です。
仲間と共に立ち上がった戦いで、皆死んで1人だけ生き残った男性のPTSDのような部分が歌詞に散見され、オリジナルでこの歌を歌うマリウス役を演じたマイケル・ボールが、精神を病み舞台から降板した程、精神的に深い表現が求められる歌です。
例えば、戦争に行ってPTSDを負った人の心の中のようなものが、今の自分に歌で表現できるのか?と考えて下さい。
難しいと感じたら候補から外して下さい。
声質、音域、キャラクター、これまでの人生経験などを考慮して、自分自身の心を投影できて良い声を聞かせられるような歌が理想的。
心から歌詞の言葉を自分の言葉のような感覚で発せられる歌を選ぶべきです。
プロのオーディションと違い、全く同じメロディの繰り返しではなく、最後の方に聞かせどころが来るような歌は、基本的に余程のことが無ければ最後まで歌わせてもらえます。
そういう歌を選ぶ時には、その聞かせどころが自分の得意な音域にピッタリハマり(つまり自分の得意なところを存分に出せる)、文字通り聞かせどころに出来る場合に限ります。
ミュージカル系の場合、元キーで歌えない歌は歌うべきではないと思っていた方がいいです。
ミュージカル系に限らず、どうしてもキーを変えて歌うなら歌うキーの楽譜を用意していかないといけません。
楽譜を出して「この曲をこのキーで」というのはダメ。
「歌えないのに何故わざわざこの曲にした?」と思われてしまいます。
最悪の場合、元のキーで歌うことを求められる可能性もあります。
日本人はボーカリストでもこれをやる人がいるのですが、本当にダメです。
既存の歌を歌う時にはオリジナルキーで、どうしてもキーを変える場合は、変えたキーの楽譜を伴奏者用に自分で書けないとダメ。
私はGSAでは「The Sound of Music」、LSCでは「Tell Me On A Sunday」という歌を歌いました。
LSCの方は最後の方に高めの音でフェルマータする部分がありました。
多少調子が悪くても100発100中で安定して出せる音域だったので、そこを聞かせどころにしましたが、GSAの方では聞かせどころを全く活かせませんでした。
向こうの人は練習で出来ないことも本番ではやっちゃったりするんですが、日本人は練習で出来ない事って本番でもしくじる可能性が高い気がします。
緊張しすぎるのかも知れませんが、聞かせどころは得意技を。
歌に関しては日本での準備も比較的容易だと思います。が、歌の個人レッスンはわりと高いですよね。
クラシックなミュージカルソングは、学校に入れば必ずやらされますが、オーディションでは流行りの歌を歌う人が多いため、クラシックなものを歌うと好感度は上がります。
クラシックな物とはいえ、注意が必要なのがコール・ポーターやガーシュウィンの曲。
ガーシュウィンは『Crazy For You』のように日本でも観る機会のある作品があるため、音源を聞いてしまうと思うのですが、ミュージカルではかなり崩して歌っている事が多いため、楽譜通りに歌え無いことで失敗する可能性があります。
楽譜通りに歌う。
これ結構重要です。
なので、楽譜の読めない人は必ず個人指導を受けるなどした方が良いです。
楽譜の読める人は、歌を覚える時楽譜で覚えています。
耳コピで覚えて自己流で挑むと、この点で大きな差が付きます。
耳コピの落とし穴として、他人の表現で覚えてしまい自分の個性が見え辛くなるという問題もあります。
コール・ポーターは人によっては展開が難しいので、その展開の仕方が得意であれば良いのですが、私は個人的に苦手。
セオリー通りではない展開をする曲が多く、自分が間違えてるような感覚になることがあるんです。
楽譜通りに歌ってるのに、あれ?私音痴?みたいな。
日本でコール・ポーター作品に出たことのある先輩にも「分かる〜、コール・ポーターは自分音痴になった?みたいになるよね〜」と言われたことがあるので、この感覚になる人は、オーディションの緊張した状態で歌うとミスる可能性があるかも知れません。
ソンドハイムとか、わりとポイント高めです。
ソンドハイムを歌う子は若い層にそう多くはないので、流行りに流されず良く勉強してますねと言う印象。
ロジャース&ハマーシュタインも良いのですが、シンプルなメロディが多いので粗が目立ちやすい。私は歌っちゃいましたが(笑)
とはいえ、一学年上の先輩で歌う前に実技不合格を言い渡され
「あなた達はまだ私の歌を聞いてない。私の歌を聞いてから決めなさい」
と啖呵を切って『バリハイ』を歌ったというツワモノもいます。(ロジャース&ハマーシュタインの『南太平洋』の歌)
ちなみに、この方日本人です。
その『バリハイ』が凄すぎて受かったそうで、学校の歌の先生がいつもこの話してました。
「キミも日本人でしょ?日本人の凄い子がいるんだよ〜。オーディションの時にね…」
とエンドレスリピート。
ここまで行けるなら何選んでも良しです。
『バリハイ』にピッタリの声と迫力の持ち主でした。
最後にダンスですが、基礎は大切に。
これ、本当に大切です。
バレエ経験者は分かると思うんですが、レッスン形式のオーディションって、国際的な若手向きコンクールでもありますよね。
バーの時点から審査されるっていう。
なので、バレエがオーディション必須科目にあるところを受ける人は、基礎をしっかり意識した方が良いです。
現地でも上級とかプロ向けレッスンより初級、初中級のレッスンを先ずは受けて、先生に「もっとこうして」と難しいことをやるよう求められるとか「上のクラスを受けなさい」とか言われるまでは、基礎に忠実にが当たり前になるようやっていた方が良いです。
日本も今はバレエ教育が変わって来ましたが、誤魔化すことを覚えてしまっていると、結構不利です。
学校のオーディションでは、上手く見えることを求められていません。
この学校で学んで伸びる子かどうかを見られています。
基礎が歪んでテクニックで誤魔化していると見られると、それで落ちるとは言いませんが、入学後にメチャクチャ矯正されます。
それと、向こうはバレエと言えば必ずピアノの生演奏です。
日本で生演奏でのレッスンを受けていない人は、オーディション前に慣れた方が良いです。
コンテは当時はあちらではグラハムベースの学校が多かったです。
カニンガムも教えたりもしますが、オーディションではあまり使われないイメージ。
アメリカのアルビンエイリーで使うようなホートンなんかは珍しいです。
知っているに越したことはありませんが、グラハムスタイルに付いていけると強いと思います。
バレエやジャズが得意ならコンテは「思いっ切りやる」にかけて、捨てると言ったらまた違いますが、感覚から開放することに集中することですかね。
私はLSCのオーディションで始めてコンテに触れましたが、それで面接の時に「コンテの成績がいい」と言われました。
もう、分からないから思いっ切りやる以外に出来ることがなかっただけなんですが。。。
コンテ経験のない人はバレエの基礎がしっかりしていても、この解放が苦手なことが多いです。
今時はバレエをやっていればコンテにも触れてるとは思いますが、コンテ経験がない場合は、思いっ切り解放を目指して下さい。
コンテがあってバレエがないなんてオーディションはそうそう無いので、バレエでしっかりした基礎を示せていれば、コンテで思い切りすぎても大丈夫。
パーカショニストの演奏で踊ることになることが多いと思うので、リズム感も求められます。
パーカショニストの演奏の仕方によっては、リズムがメチャクチャ取りにくいことも。クラシックとかなり違うので。
こればっかりは広いジャンルの音楽に触れて慣れるしかないです。
オーディションでは分かりやすくしてくれると思いますが、分かり辛くされた場合は自分の中のリズムを信じるのみです。
昨今はミュージカルでも、ライオンキングやウィケッド等でコンテ要素のある振りが使われていますが、コンテの専門学校で無い限り、難しいことをやらされることは少なく、レッスン審査で基礎をやらされるくらいだと思います。
ジャズは、あちらではMatt Mattoxのアイソレーションテクニックが主でした。
GSAのオーディションもそうでしたが、LSCは、私が入った当初、Matt Mattoxの一番弟子がジャズダンスコースのコースディレクターだったので、ガチのMatt Mattoxでした。
このスタイルは、ピルエットの軸足がプリエなので、慣れないと結構難しい。
今時のダンスと言えばストリート系ですが、向こうのミュージカル系の学校でそれはあまり通用しないと思った方が良いかも。
+αとしてそれも得意と合うのは武器になりますが、ストリート系しか経験がないのは弱いです。
そういうダンス自体は基礎が出来ていれば後からでも学べるもので、シアターダンスとしてはクラシカルなバレエ基礎のものが多くなります。
LSCでの一番人気だったジャズレパートリー(クラシックジャズ)のクラスでは、振付でイタリアンフェッテが入ったりしていました。
バレエ未経験者はアウト。出来ません。
マジかよ~って感じですよね。
パイナップルのレッスンでも、プロフェッショナルジャズのクラスで「バレエ未経験者は出てけ!」と先生が怒鳴ったことがあります。
ジャズ未経験でも、バレエの基礎がしっかりしていればその方が強いです。
今日本でシアターダンスを教えるところは減っていると思いますので、日本で準備可能なジャンルだとは思いますが、昔より大変かも知れません。
分かりやすいところでは、元四季や元宝塚、元東宝などミュージカル畑出身の先生はシアターダンスに強いです。
さてさて、学校のオーディションを受ける時に、重視されつつ対策が困難なのがキャラクターです。
前にも書きましたが、キャラクターはとても大切ですが、本人の思い込みはハズレも多く、意識することでむしろ隠れてしまうこともある厄介なものです。
自分はこう言う風に見てもらいたいから、こうやろう。
これは、多くの場合でハズレます。
どう見てもらいたいかではなく、本来のあなたがどういう人かというのが大切です。
というのも、本当の個性は作って見せるものではなく、隠そうとしても滲み出てしまう物だからです。
一番良いのは、その時に与えられた課題に集中して小細工をやめることです。
自分に自分の個性が良くわかっていなくても、無意識の時にこそ、その人の持って生まれた個性は表面に現れやすくなります。
キャラクターの思い違いで、私が良く覚えているのは、初めて演出をした舞台のオーディションです。
殊更に「自分はこの役みたいなキャラクターが合う」をアピールする方でしたが、その方にその役の台詞を読んでもらって魅力を感じることはありませんでした。作った演技が得意なんだろうなとは感じましたが、魅力的ではなかった。
それよりも別の「この役のイメージだな」と思った役があり、そちらの台詞を読んでもらった時、本人はやったことのないタイプの役だと言うので、「どうやって良いかわからない」と、変に造り込んだ芝居もせず本人的には中途半端だったと思ったかもしれません。
でも、監修をしてくれていた方と、やはりこっちだねとなり、本人は経験がないと言っていた役の方に決定しました。
自分のキャラクターを自分で決め付けてしまうことは、幅を狭めることにしかなりません。
キャラクター、個性とは自分の魅力です。
作るものではなく、それまでの生き方、物の見方、感じ方が正直に出ます。
と言うか、正直に出せる人は魅力的です。
表面的に作り込むことはそれを殺すことです。
役者の場合は、その個性が役の個性と重なることで新しい二人分の人間の魅力を持った人間が出来上がります。
自分はこういう人間と決め付けず、その時に感じたことを正直に出すのが良いと思います。
人に聞くことで、言われることが人によって違うということもあるかも知れませんが、自分の個性は一つとは限りません。
「色んな見え方をするのが自分なのだな」
と素直に捉えれば良いと思います。
私も演出家によって「ボケキャラ」と言う人もいれば「悪役タイプ」という人もいます。
「何の悩み事もなさそう」という人もいれば「どんなに沢山のことを抱え込んでいるんだろうと思った」という人もいます。
「非の打ち所がなさそう」という人もいれば「抜けててマヌケ」という人もいます。
どれか1つに絞るよりも、どれも自分と受け止めて、そんな色んな要素が同居してる私って面白いな、と思っていれば良いんです。
色んな要素を持っていた方が、複数いる審査員の先生達の誰かのツボに入る可能性は上がると思いますし。
オーディションを受けるときは、落ちても、合わなかったと考えて必要以上に落ち込まない方が良いです。
学校のオーディションは、多くの場合で上手さを見ているのではなく、可能性を見ています。
ダンス系ではキャラや基礎があっても、骨格の問題で落ちることもあります。
私の受けた当時LSCでは骨格を見られました。
教えたら出来る体なのか、骨格的に無理なのか、厳しい訓練に耐えられる体なのか、怪我のリスクが高いのか。
向こうでは、物理的に難しい条件の場合には、早めに他の道を選んでもらった方が本人の為だという考えがあるので、学校の方針に合わなければ容赦なく落ちます。
でも、全ての学校が同じ方針ではありません。
骨格を見られる学校は落ちても、他の学校に受かった人というのもいます。
つま先のポイントが骨格的に甘くなってしまう人でしたが、抜群の表現力の持ち主で、その表現力で取った学校があったわけです。
それに、このシリーズの初めの記事にも書いたように、学校のカラーに自分が合っているかどうかということもあります。
カラーの合わない学校に入って苦労した後輩の話にも、初めの記事で触れました。
カラーが合わずに落ちることと言うのもあります。
その場合は、むしろ下手に受かるより幸運と捉えることも出来ます。
落ちても自分自身が全て否定されたわけではないということは、しっかり心に刻んでおくことが大切です。