「何?お前らまだつるんでるの?」

北島くんは「乾杯」とグラスを合わせた後のビールを
一気にぐんぐん飲み干して、あきれたような声で
そう言った。

「ワルイ?」

いつもの挨拶代わりのような台詞だったのに、
自分で想っていた以上に「ムッ」とした声が出たけど、
北島くんは気にする様子もなく、

「別に。」

と目の端で笑いながら言う。

小さくため息をついて、ビールの入ったグラスに
口をつける。

北島くんはその間に2杯目のビールを頼んでいる。

「もう何年だっけ?」
「10年。」
「10年ねー。」

そう。

私が、純と直。そして、藤夜と一緒にいるようになって、
もう10年が経った。
その間に大学を卒業して、就職してそれぞれの道を
歩き出した。

男2人に女2人。
一緒にいると2組の恋人同士に見えるようだけれど、
私たちは違う。

というより。

私は違う。

と、言い換えた方がいいかもしれない。

純と直と藤夜は小学生の頃からの幼馴染で、
私が彼らと知り合ったのは大学生のときだ。
私の知らない12年間を彼らは共有している。

純は直がすきで。
藤夜も直がすきで。

だから、2組の恋人同士に私は含まれない。

「で?里崎はあいかわらず不毛な片思いな訳だ。」

私が黙り込んでいる間に北島くんが注文したメニューが、
テーブルに運ばれてくる。
そのうちの一つ。
私の嫌いなトマトスライスをあてつけのように食べる
北島くんを軽くにらんで、ビールを飲む。

「図星・・・か・・・。」

と北島くんの目が言っている。

本当に北島くんの目は表現豊かで頭にくる。

「里崎さぁ。そうやって歳をとっていくの、むなしくないの?」
「ない。」絶対。むなしくなんかない。
「あっ、そう。」

そう、むなしくなんかない。
ただ。さみしいだけだ。

あんまりにも私の口数が少ないので、北島くんは、
大きくため息をつくと、まっすぐに私の目を見た。

「それで?何がどうしたんだ?」

どうして、北島くんはこんなに無神経で意地悪で。

そして。

優しいのだろう。

自分ではコントロールできない感情があることを
思い知らされたのは20代も半ばを過ぎてからだった。

純とは、いつから友達だったかわからないほど、
小さい頃から一緒にいた。
親の話では俺の親が結婚してから買った家の隣に
純の家族が引っ越して来たのが、俺と純が2歳になる
歳だったらしいので、俺と純の誕生日から考えて、
厳密に言うと、俺が2歳になりたてで純が1歳7ヶ月のときに、
俺たちは出逢ったことになる。

そのときから俺たちはいつも一緒にいた。

お互いの○なところも、×なところも、わかっている。
家族よりも家族らしく。友達よりも友達な付き合いだと
お互いに想っている。

でも。
アイツは知らない。

俺が絶対にアイツにだけは知られたくない感情があること。

もし。
直が直でなければ。

きっと俺はアイツに隠し事なんて欠片もしなかったと想う。

何度も何度も何度も、自分のココロを否定した。
でも、どうしても消せない、どうしても譲れない想いが。

俺の中で確かに育っていった。