Billy Joel - Last Play At Shea 2 | "Keeping The Faith"

Billy Joel - Last Play At Shea 2



前日の内容があまりにも素晴らしく、正直なところ「初日にあそこまでやってしまったら2日目はどうするんだろ?」と余計な心配をしながら会場へと向かった。しかし、その心配は13時から始まったリハーサルで早くも吹き飛んでしまった。初日に続き、既にトニー・ベネットが音合わせの為にスタンバイ。そしてビリーのカバー曲で大ヒットを記録したカントリー界の大物ガース・ブルックス、エアロ・スミスのスティーブン・タイラー、ザ・フーのロジャー・ダルトレーが次々に現れ、バック・ステージはまるでグラミー賞の会場を思わせるようだ。ビリー自身も初日のプレッシャーから解放されたのか、ニコニコ顔でジョークを飛ばし実に楽しそうにリハーサルをこなしていた。長年ビリーを撮影している私から言えば、こう言うリラックス・ムードの時ほど「何かが起こる」可能性が高いので、早くも期待に胸が高鳴る思と言うやつだ。

開演予定時刻が近づき、観客席にも多くの有名人の姿が見られた。ビリーの前妻でスーパーモデルのクリスティー・ブリンクリーや愛娘のアレクサ。そして、話題の"Sex and the city"に出演している女優(名前を知りません。笑)etc... その度に地元メディアのカメラマンが右往左往。あちこちで囲み取材のようになっている。私は序盤をステージ前から撮影する為にビリーのピアノ下あたりに居たのだが、突然、取材のアメリカ人記者が私に話しかけて来た「初日でライヴに関する話題は出尽くしたよね。明日の見出しは、前妻のクリスティーが会場に来たってことを写真入りで小さく紹介程度かな?」。彼はちょこっと首を傾げて笑っていたが、私は内心「お前、本番を観てぶったまげるなよ~」と思いながらニコッと頷いて見せた。

本番は予定より大幅に遅れて20時50分頃のスタートとなった。前日と同じく国家斉唱から"MIAMI 2017""ANGRY YOUNG MAN"と続くのだか、ビリーのノリは初日以上に軽快で、そのちょっとした違いは観客にもすぐに伝わったようだった。初日は「やってやるぞ!」とか「ここで魅せねば!」みたいな気負ったところがあったのだろうが、2日目は「さぁ、目一杯楽しもう!」と言うような良い意味で気楽な感じだったのかも知れない。セットリストにも多少の変化が加えられ、初日の"EVERYBODY LOVES YOU NOW"が"SUMMER,HIGHLAND FALLS"に変わっていたり、"BIG MAN ON MULBERRY ST."が"THIS NIGHT"になったりと2日連続で観ても楽しめるように配慮されていた。

9曲目、初日に続いてトニー・ベネットが"NY STATE OF MIND"を歌い始めると、観客は前日と同じく大盛り上がりの大合唱となった。ここで興味深かったのは、日本で行われるライブの場合、アップテンポの曲になると観客が立ち上がって手拍子をする傾向にあるが、アメリカの場合は曲のテンポに関係無く自分が一緒に歌いたい曲になると一斉に立ち上がるようだ。カップルやグループで来た人は、みんな肩を組んでステージと一緒に歌っていた。ちなみに、アメリカでは自分が興味の無い曲になるとあっと言う間にビールタイムに早変わりするので、アーティストとしては観客の好みがとても分かり易いと思う。

18曲目には自身もビリーの大ファンと公言するカントリーのガース・ブルックスが登場。彼は日本ではあまり知られていないが、アメリカでは大変人気のある歌手だ。ビリーの"SHAMELESS"と言う曲をカバーして全米で大ヒットさせたのだが、多くのアメリカ人はこの曲がガースのオリジナル曲だと思っている。私も今回、初めて彼が歌うバージョンを生で聴いたのだが、本当に迫力ある歌い方でビリーへの愛情もひしひしと感じることが出来たし、彼のバージョンが支持されるのも納得と言った印象だった。

23曲目は日本でも大人気、エアロスミスのスティーブン・タイラーが登場。会場が「信じられない!」と言う歓声を上げる中、おなじみのギターリフから入る"WALK THIS WAY"が披露された。この日のリハーサルで大変面白かったのは、ステージに上がったスティーブンがビリーバンドのメンバーに「俺の曲知ってる?」と不安そうな顔で聞いていたことだ。ギターのトミーがニコッと笑い、最初の音を出すとスティーブンが眉をちょこっと動かし「やるな~!」とアイコンタクト。リハの段階から素晴らしく力のこもった歌声を聴かせてくれた。勿論、本番は大成功で、ビリーはスティーブンのマイクスタンドに付いているヒラヒラした布をかつらに見立てて自分の頭を突っ込んだりして笑いを取っていた。

26曲目はザ・フーのロジャー・ダルトレーが自身のヒット曲"MY GENERATION"で得意のマイクパフォーマンス。マイクをぶんぶん振りまわすロジャーに、それを避けるようにステージ上を逃げ回るマネをするビリー。次から次へと登場する大物ゲストやビリーのヒット曲の数々に会場の興奮は最高潮。初日を取材したメディアが「奇跡の夜」と伝えたものが、まさか2夜連続で観られるとは夢にも思わなかった。

しかし、この夜「奇跡の夜」から「伝説の夜」に変わる出来事はエンディングにやって来たのだ! 私は初日に続いて、ラストをステージ側から撮影しようとバックステージに向かっていた。ステージ横の大きなスクリーンの後ろを抜け、ステージ裏に廻ると・・・。 んっ? 私の目の前1.5mくらいのところに見たことのある人物が立っている(考えること数秒)「うわぁぁ・・・! ポール・マッカートニーだ!!」。そう、数日後にカナダでのフリーコンサートを控えたポールがビリーと一緒にシェイの歴史にピリオドを打つためにスケジュールを前倒しにして駆けつけてくれたのだ。しかし、このことはギリギリまで時間調整が付かなかった為に、セットリストにすら一言も書かれていなかったし、一部の裏方にしか知らされていなかったようだ。実際、ビリー自身もポールが時間内に本当に来てくれるかどうかは分からなかったようで、ポールがシェイに来てくれたことはライヴ中にスタッフからのメモ書きによってビリーに伝えられた。NY POSTの後追い情報によると、この夜、ポールがJFKに到着したのは23時、そこからパトカーの先導でシェイに着いたのは2度目のアンコールに入る直前たったそうだ。確かに、私が最初にポールを見たとき、彼はスタッフから手渡されたボトル・ウォーターを片手に汗を拭っていたので、まさに到着したばかりだったのだろう。

1回目のアンコールを終えたビリーはステージ下に戻って来ると、真っ先にポールとハグ。短い挨拶を交わした後に、ビリーはポールに次ぎの曲の説明をしている。口頭でキーのこと、カウント何回で入るなどプロ同士の会話は実に早い。ビリーは汗を拭き、あっと言う間にステージの上に戻って行った。私もビリーの後を追うように急いでステージ横に陣取る。ステージに戻ったビリーはビートルズの"I SAW HER STANDING THERE"のイントロを弾き始めた。すると、シェイとビートルズの関わりを知っているファンは張り裂けんばかりの歓声をあげた。そして、次の瞬間、ビリーの口から信じられない一言が発せられた“please welcome・・・Sir.Paul McCartney!”。この時の光景は今でも忘れられないが、会場全体が30cmくらい飛び上ったかのような爆発的エネルギーがステージまで届いて来ていた。"Oh! My God"と言う観客席からの声は、ステージ横にいた私にはPAから聴こえる楽器の音よりも遥かに大きく感じられた。ステージ下手からバイオリン・ベースを片手に上がってきたポールはビリーのピアノに近づき、ピアノを弾くビリーにニコッと微笑むとセンターマイクに向かった。ポールが歌い始めると、会場はまるで生物のように波打つ。一緒に歌う人、ただキャーキャーと声にならない叫び声をあげている人、家族に携帯で電話し始める人などさまざまだが、こんな一瞬に5万5千人もの観客のハートを奪ってしまう2人って・・・凄すぎる。このライブが始まる前、誰もが「最期をビリーとポールで飾ってくれたらね」なんてことが一度は頭をよぎっただろう。しかし、まさかそれが実現するなんて誰が予想できたであろうか? 夢のような2人のデュエットはあっと言う間に終わってしまった。ポールは会場に手を振るとステージ下へ。しかし、会場の興奮はなかなか静まらない。

ビリーも次は"PIANO MAN"を歌う予定なのだが、彼とて若き日の憧れ、ポールとの共演からすぐには現実に戻れないでいるようだった。前日は、"PIANO MAN"を弾き始める前に"TAKE ME OUT TO THE BALL GAME"のイントロをインサートする余裕もあったが、この日はいきなり曲に入って行った。驚いたのは、普通、この曲が始まっても中盤までは大人しく聴いている観客が、この時はいきなり全開でビリーと一緒に歌っていた。どうも、ポールの登場で会場全体が「歌うモード」に入ってしまったらしい。大合唱が終わり、ビリーはハーモニカを首から外す。セットリストによれば、この日の最後は前日と同じく"SOUVENIR"で締めくくる予定なのだが・・・。

スタッフが再びビリーの元に走る。目をクリっとさせて頷くビリー。そして、ビリーはバンドに何か指示を出した。すると、ステージ下から再びポールが表れたのだ。もう、会場は常軌を逸したような歓声で彼を迎える。考えてみればシェイの音楽の歴史はビートルズで始まった、その最後のステージの最後の曲をポールと締めくくるなんてこれ以上のエンディングなんてあるのだろうか? ポールはピアノに向かい"LET IT BE"を弾き始めた。ビリーは最初、ピアノの横に立ち、ライヴを最前列で観る少年のような表情でポールを見つめていたが、やがてピアノの上に腰かけ一緒に歌い始めた。バンドはこの曲をリハーサルでも一度も音だしをしていないのに、まるで最初から決まっていたかのような完璧な演奏で聴かせてくれた。ビリーが十代の頃から憧れ続けたポールと一緒に、同じ場所で歌うことの嬉しさを目の当たりにして思わず目頭が熱くなった。

この夜、ライヴの後、食事でもしようかと同行してくれたS氏と街に出た。すると、バンドの宿泊するホテル前にあるバーからギターのトミーが出てきた。かなりお酒も入り、上機嫌だった彼は私を見つけると近寄って来てこう言った「トモ!俺、ポールのバックで演奏しちゃったよ」「子供になんて伝えよう」。思わず、S氏と顔を見合わせた。ビリーのバックで15年もの長きに亘りギターを弾いている彼にとって、大物アーティストとの共演なんて珍しくも無いことなのに・・・やはりポールは特別な存在だったのだ。"LAST PLAY AT SHEA"タイトルに違わぬ素晴らしいライヴだった。



<2008/7/18 Last Play at Shea set list>

The Star Spangled Banner アメリカ国歌
Miami 2017(Seen the Lights Go Out on Broadway) マイアミ2017
Prelude/Angry Young Man プレリュード/怒れる若者
My Life マイ・ライフ
The Entertainer エンターテイナー
Summer,Highland Falls 夏、ハイランドフォールズにて
Zanzibar ザンジバル
Allentown アレンタウン
The Ballad Of Billy The Kid さすらいのビリー・ザ・キッド
New York States of Mind ニューヨークの想い(w/ Tony Bennett)
Root Beer Rag ルート・ビア・ラグ
Goodnight Sigon グッドナイト・サイゴン
Don't Ask Me Why ドント・アスク・ミー・ホワイ
Keepin' The Faith キーピン・ザ・フェイス
The Downeaster Alexa ダウンイースター・アレクサ
This Night 今宵はフォーエバー
Movin' Out(Anthony's Song) ムーヴィン・アウト
An Innocent Man イノセント・マン(opening Under The Boardwalk)
Shameless (duet with Garth Brooks)/シェイムレス
She's Always A Woman シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン
Captain Jack キャプテン・ジャック
Lullabye ララバイ
River of Dreams リバー・オブ・ドリームス
~A Hard Days Night ア・ハード・デイズ・ナイト(The Beatles)
Walk This Way ウォーク・ディス・ウェイ(with Steven Tyler)
We Didn't Start The Fire ハートにファイア
It's Still Rock 'n' Roll to Me ロックン・ロールが最高さ
My Generation マイ・ジェネレーション(with Roger Daltrey)
You May Be Right ガラスのニューヨーク

-Encores-
Scenes From An Italian Restaurant イタリアン・レストランで
Only the Good Die Young 若死するのは善人だけ

-Encores-
I Saw Her Standing There アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア(with Paul McCartney)
Piano Man ピアノ・マン(w/ Take Me out to the Ball Game)
Let It Be レット・イット・ビー (with Paul McCartney