この時代、ハガキでお見舞いとは思ってもいなかった。差出人は、高知県安芸市の通称山ちゃん。とにかく底抜けに明るくて面白い男だ。落ち込んでいる時に思い出すと特効薬になる。出会いは昭和60年だったらしい。

俺が、日本青年会議所北海道・東北地区へ出向中に恒例の全国研修大会があり、晴海から客船をチャーターして根室までの往復航海研修会に参加した時だ。妻が高知県室戸市出身なので、そこに最も近いJC は安芸市でした。船の中で安芸JCからの参加者を探したが、数百人もいる日本全国からのツワモノが集う中では困難を極めた。

北方領土研修で根室のノサップ岬へ向かうバスで偶然四国のメンバーと一緒になった。各自ふるさと自慢発表となり、俺は恐山の話をしたと思う。誰かがすかさず「小針屋五郎治のふるさと」じゃないですかと助け船を出してくれた。あの時は驚いた。安芸JC の山ちゃんはその同じグループにいたことが分かり、感激の初顔合わせをしたのが懐かしい。39歳の夏だった。

その小針屋五郎治とは、幕末時、エトロフ島へ出稼ぎに行き漁師小屋番人頭をしていた時、ロシアの軍艦に拉致されながらも極寒のシベリアを生き抜いた強靭な生命力と意思を持ち合わせた人物であった。シベリア抑留中に種痘（天然痘）の治療法を身に付け、奇跡の帰国を果たした五郎治は当時の松前藩で日本初の種痘治療に成功し、日本医学史上燦然たる位置を占めている。本土では、長崎でオランダ医師モーニックが、初めて種痘に成功した弘化6（1849）年に先だつこと実に25年も前ということになる。

吉村昭氏の雄大な長編歴史ロマン「北天の星」（講談社）で彼が主役になって描かれている。偶然とはいえ、我が家も屋号が小針屋（父の代で別家）で、吉村昭氏の「北天の星」にも川内村の庄屋で富岡家として解説されている。場所は、むつ市川内内町（元下北郡川内町）である。菩提寺の泉龍寺に、「五郎治」の偉業を称える石碑が建立されたのは嬉しいことだ。

http://www.zaidan-hakodate.com/jimbutsu/b_jimbutsu/nakagawa_goro.htm

http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00010127.pdf

さて、話を青年会議所の研修会に戻そう。研修成果の仕上げとして、各地区からのツワモノが代表して意見発表をすることになった。俺は、北海道・東北地区代表で指名され数百人の会員と講師として乗船していた経済界や大学教授の有名人が見守る中でのスピーチをする羽目になった。自分の特徴を如何に出すかということを考え英語で体験発表をすることに決めた。これだったら誰も真似できないだろうと思ったからだ。

Hello Everyone. I’m from Mutsu JC で始まり、約5分程度の持ち時間だった。趣旨は、「日本人の特性をモデルチェンジしてグローバルに活動していく」だったと思う。その特性とは、日本人の「真面目さと我慢強さ」は半分程度にして、奇抜な発想力と積極的な行動力で世界をリードするということでした。内容を理解できた人は一握りの会員だけだったと思う。面白かったのは、俺の後に続いた各地区の代表たち全員が Hello everyone で始めたことでした。心理学的には理解できるが、ちょっと滑稽でしたね。

後に、昔のNHK教育テレビの「日本の国際化」という番組で、ある著名人（名前を思い出せません：思い出しましたので追記しておきます。木村尚太郎という東大の教授でした）が「国際化は北の方から着々と進んでいます。JCの研修会で青森の若者が5分間英語でスピーチをしたんですよ」と発言していたのを偶然見ちゃった。これにはビックリ！俺のことだべー！後に再放送があり、やはりJCの研修会に参加していた有名講師（木村先生）の発言でした。

さて、本題の山ちゃんに戻るが、彼ほど人に愛される好人物はいない。体格的にはぽっちゃり型。彼がいるだけでその場が和む。昨年夏、高知県で豪雨被害が報道され、安芸市でも大きな被害を被ったことを知り、直ちにお見舞いメールを発信した。幸いに、彼の家は無事だったらしい。メールを数通交換し合ったのち、「一段落ついたから、これから飲みに行きまーす」だって。山ちゃん節さく裂でした。

今回の病の件で久しぶりにメールしたら随分と心配してくれ、山ちゃんから真心こもった友情の絆のハガキが届いた。山ちゃんと合意の上でご紹介いたします。

山ちゃんからのハガキ