あの日の事は忘れもしない
いや、忘れられない
なんだかとても緊張していた。嬉しい気持ちが半分と、不安な気持ちが半分。
今日は私の彼氏である大和(偽名)とその友達に会う日だ。なんと彼は、私に自分の友達を紹介してくれるらしい。
大和が私に友達に紹介してくれる事は初めてだったので、とても嬉しかった。
駅で大和とその友達の伊藤君と待ち合わせ、居酒屋へと向かった。
最初はとても楽しく飲んでいた。そして、酔いも進んで話は弾み、大和が伊藤君に私の自慢を沢山していたらしく、伊藤君が「大和がさ彼女めっちゃ可愛いって凄い自慢してくるんだよ〜」と、教えてくれた時はとても嬉しかった。
しかし、それが災いの元になるとこの時は夢にも思わずに。
途中、恋愛話になり伊藤君に「普段連絡を取り合わないで浮気したり寂しくならないのか?」と聞かれた。
それに対して私は
「お互いの事を尊重してるし、趣味や友達との時間も大切にして欲しい。信頼してるからそんな風に思った事は無いよ。」と答えた。そして、「お互い不満は無いの?」という問いに対しても「嫌になる要素が無いかな」と回答した。
今思えばこんな回答も、伊藤君にとっては面白くなかったんだろう。
彼は酔いが回るにつれて店員に
「うせろブス!引っ込んでろ!」などと暴言を吐き出すようになった。
それを見兼ねた大和が「もうやめよう、お店の人にも迷惑だから」とたしなめた。
大和に逆上した伊藤君は「ほんとお前らはいいよな!幸せそうで!」と大声をあげた。
伊藤君の暴走は止まらずに店内の椅子を蹴飛ばし机の上の食べ物を全て床にぶちまけた。
その瞬間、店の雰囲気が凍りついた。
私の頭の中は真っ白になった。
恐怖で動けなかった。
次の瞬間伊藤君は「お前らに俺の気持ちなんて分からねえだろうな!」と大和に殴りかかった。
大和は暴れる伊藤君を抑えようと床に押し付けていた。私もその瞬間、我に返り「もうやめて!」と伊藤君を抑えようと足を思いっ切り抱え込んだ。しかし、思いっ切り蹴られて弾き飛ばされてしまった。私を蹴った友人に対して大和は怒り、彼を殴っていた。
私は伊藤君に蹴られたショックと目の前で起きている事が夢か現実か分からず、ただ呆然と店の隅に座り込んで震えていた。
そうこうしているうちに、警察がやってきた。とりあえず、事情を聞かせて欲しいから署まで同行してくれと、パトカーに乗せられた。大和は目の前の別のパトカーに乗せられ、伊藤君は病院に運ばれた。
私は警察署で取り調べを受けた。そこからは恐ろしく冷静だった。
まず、大和と伊藤君との関係について聞かれた。大和とは約1年前から交際をしていて、伊藤君とは当日初対面であったと。
そして、複数の警察官がローテーションで取調室にやってきて、何度も事件の概要を1から説明させられた。私の彼氏は、店内で暴れ狂う友人を止めようとしただけなのだと、正当防衛だと何度も説明した。現にお店の店員やお客さんらも警察官が居酒屋に到着した際に「彼(大和)は店員に悪態ついて暴れる友人を止めようとしただけだから悪くない」と証言してくれていたのだ。それも取り調べの際にも何度も警察官に伝えた。
しかし警察官らに「あなたの記憶はほんとうに正しいのか?」「かなり飲んでたから曖昧な所あるんじゃないの?」など、問いつめられて、正直、とても不信感を覚えた。この人達は私に誘導尋問をしている、私の証言の信憑性を低めたいのだと感じた。警察官らは「酔っていて、覚えてない部分もあります」という回答が欲しかったのだろうが、彼らの思うツボにはなりたく無かったので「私の記憶は鮮明で、酔っていなかったので全て正しいです」とキッパリ答えた。
私は質問に対していたって真面目に答えていたがところどころで男性警察官に「お肌がとても綺麗だね」「お酒ほんと強いんだね。出身どこなの?」など、取り調べには直接関係の無い話もされて頭の中が「?」になった。緊張をほぐそうとしていたのか、それとも話を逸らそうとしていたのかは謎だ。
そして私の証言を元に現場再現が警察官らで行われた。写真も撮られた。私が蹴られたスカートの裾も撮ってもらった。
そうこうして警察署に7時間ほど拘束され取り調べは早朝6時に終わった。
署を出る際、警察官に「大和はいつ解放されますか?」と咄嗟に聞いたが。「それは分からない」と言葉を濁された。
駅までパトカーで送られ、電車に乗り家に向かった。
なぜだか酷く胸騒ぎがした。
すごく嫌な予感がする。。。でも、大和は暴れる友人を止めようとしただけ、あれだけ現場再現もしたんだ、今日のお昼には絶対解放される。お互い殴り合ってケガは伊藤君の方が大きかったようだけど、
普通に考えて伊藤君はケガが治ったら逮捕されるだろう。なぜなら私達に嫉妬心を勝手に爆発させて、しまいにはお店で暴れ出して、お店の物を沢山壊して、多くの人に迷惑をかけた。最も咎められるべき人物だ。
だからきっと大丈夫。と自分を落ち着かせていた。
しかし、大和から一向に連絡が来ない。何をしているんだろう…まだ警察署にいるのかな…彼のご家族に伝えるべきか、とても悩んだがそれを母に相談すると「彼がお家に帰った時に自分から話すべきだよ。雪乃が言う事じゃない」と言われた。
よって私は彼からの連絡を待つことにした。が、夜になっても待てども来ない、、。
この夜、私はほぼ一睡も出来なかった。
翌日、胸騒ぎはしつつも働かなければならないのでいつも通り出社して、仕事をしていた。お昼休憩に携帯を開いた瞬間に、パニックになった。
なぜなら、大和の妹から「ニュースで見た。」と連絡が来たからだ。彼の名を調べると、傷害罪で逮捕されたというニュースが目に飛び込んできた。
私は気が動転して震えが止まらず過呼吸になった。会社の人には心配され体調不良という事で早退させてもらった。とてもじゃないけど仕事なんて出来る状態では無かった。それより早く彼の元へ行かないと…
会社を飛び出して、私は彼が連れて行かれた警察署へとすぐ向かった。しかし、もう既に彼はその場所にはいなかった。家族しか知らないから私には教えられないと告げられた。
私の頭の中は真っ白だった。
全部私のせいだ。私があんなに沢山飲まなければ…伊藤君を嫉妬させるような事を言わなければ…そもそも2人の飲みに参加しなければ…
あれこれ考えてると強い吐き気がしてきてた。警察署をあとにして私は家路へと向かった。
気が付くと、私は長い時間、呆然と線路の踏切を眺めていた。
大和は私や周りの人を守ろうとして暴れる友人を殴った。それなのになぜか彼だけ逮捕され、彼だけ一方的にマスメディアに名誉を傷つけられ職を失ってしまった。私が大和の大切な人生を台無しにしてしまった。もう大和に会えないなら、私なんて死んでしまった方がいいんじゃないか。目の前の踏切に飛び込んでしまいたい、でも人身事故なんて起こしたら家族に迷惑がかかる。樹海にでも行ってひっそりと死にたい、と思っていた。
心は虚無だった。無心だった。涙すら出なかった。
家に着いて、私は何も食べる事が出来なかった。母にはかなり心配されたが
「大和に別れを告げられたらどうしよう。もう、死にたい。」と何度も呟いていたらしい。私は自分が当時何を話していたかも覚えていない。
その夜も一睡も出来ずに朝になった。しかし、ご飯も全く食べられずに鬱になりかけていたので、会社に行ける状態ではなかった。よってこの日も会社を休んだ。
家では呆然と時計を眺めていた。タイムスリップの方法を本気で考え出して気付いたら呪文を1人で唱えていた。まともな精神状態なんて保てなかった。そうこうしてるとお昼頃に大和の母から連絡が来た。なんと彼の母が大和と電話を繋げてくれたのだ。彼は既に釈放されていた。
「…もしもし?やまと、、?」
「…この度は…本当に迷惑をかけてしまって、、申し訳ありませんでした」
私は大和の弱りきった声を聞いた瞬間に、涙が溢れ出した。
「あなたは…悪くないよ、何も悪くない。私や周囲の人を守ろうとしただけだよ、、、」
泣きながら私は何度も言った。
「そう言ってくれて、本当に嬉しい…でも、殴ってしまったのは事実…こんな事になってしまって本当にごめんなさい…ごめんなさい。迷惑しかかけない男でごめん…」
大和は私に何度も謝ってきた。
続けて大和はこう言った。
「逮捕された時、もう何もかも終わりだと思った。。家族にも、雪乃にも見離されたら俺どうしようって…何度も留置所の中で死にたいと思ってた。」
大和は泣いていた。いつも心優しくて笑顔を絶やさない彼が、こんなにも弱りきってて胸が苦しくて、私は涙が止まらなかった。。。
「あなたが生きていてくれただけで本当に良かった…。生まれてきてくれて、私と出逢ってくれて、とっても感謝してるんだよ。ありがとう。大和は人生で最も好きになった人だし、大和の事を心から愛しているから。。。私は大和が死んでしまったら、もうあなた無しでは生きてはいけないよ…。それに大和が死んでしまったら残されたご家族や友人達はもっと辛いよ…。大和の味方なら沢山いる。みんな大和の事を必要にしてるんだよ。誰かに心無いこといわれたら私が沢山守ってあげるから。だから、これから辛い事も沢山あるかもしれないけど、人生は、死ななければ何とかなるから。生きてさえいればどうにだってなるから、一緒に頑張ろう。」
私は大和とこれからも一緒にいたいと、溢れ出す想いを、沢山伝えた。
2人でずっと泣いていた。
彼も自分と同じ気持ちでいてくれたと分かって心底嬉しかった。これから私も大和と共に辛い事があっても強く生きていこうと決心した。
世の中にはこんな理不尽な事件もあるという事を、1人でも多くの方に知って欲しいです。
そして、マスメディアの偏向報道は、人の人生を狂わせる凶器です。表現の自由を逆手に取った深刻な人権侵害です。
マスメディアという加害者に人生を狂わされた人も多くいるでしょう。彼らは人の不幸を食い物にするハイエナです。いつかこの世から消えますように。
そして冤罪や誤判、理不尽な事件がこの世の中から無くなりますように…
