※この話は、夜はホステスな才女きょこたんと、同じく夜はホストの准教授蓮の組み合わせです。
完全パラレルです。

そしてそのうち必ず桃色描写来ます←しかし今回は何事もありません

その手の話が苦手な方はお気をつけくださいね。



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「だったらどうなんです?センセ……」

触れた頬は少しひんやりとして、思っていた以上に柔らかい。
そのまま人差し指と中指を滑らせると、男性にしては白く美しい肌目の整った肌の上をするんと進み、簡単に顎まで到達した。

男の肌に触れるなど未体験のキョーコは、その肌の心地よさに少々驚きながらも、強気な『ナツ』の態度で蓮に向かっていった。


「別にクラブでのバイト、学校では禁止してないですものねぇ?それとも何ですか…?頭良かったら家庭教師とかのバイトしかしちゃダメなんですか?」

「あ…いや、そんな事はないけど……」

すぐそばまで迫っていた顔に、その瞳に少し困惑の色が見える。

(きっと『ナツ』の反撃に驚いてるのね…)


素の最上キョーコは優秀で大人しい、どこにでもいそうな女の子だけど、ホステス『ナツ』は違う。
遊び慣れした雰囲気を持った、ちょっと背伸びをしている女の子―――それが『ナツ』。


「ああ、その手のバイト禁止されちゃったら困るのは、先生も同じですよね?…ね?『クオン』……?」

戸惑いを隠さぬまま至近距離で止まった顎から再び指を頬へと滑らせ、耳にかかる髪を撫でる。

すると、キョーコを黒板との間に挟み込むように覆い被さっていた蓮のからだが、ふるりと小さく震えた。
それを合図に、再び蓮の瞳に夜の気配が戻ってくる。


「そうだね?でもそれはお互い様ってところだろう……?」
「あら、私は頭がいいからいくらでもすり抜けて見せますよ?」
「秀才はそんな所でも才能を発揮するんだ。」
「ココの出来が違いますからね…?」

クスクス笑いながら蓮の髪から手を離し、自分のこめかみを人差し指でトントンと叩く。

すると蓮もクスリと笑いながら、キョーコの栗色にカラーリングされた髪をひとふさ取り、自分の指を絡めてきた。

「なるほど。学内一才女と名高い少女は、大人しい純情少女と見せかけて実はこういう大人の事情にも明るいと言うわけだ……」

毛先をくりくりと遊ばせながら、蓮は指に絡めて弄ぶキョーコの毛先に唇を寄せる。


蓮に掴まれたままの左の二の腕が熱い……

言葉のやりとりを『ナツ』として楽しむ自分がいる一方、キョーコはこんな会話が憧れを抱いていた人に吹っ掛けられてしまう自分に。
そしていかにも『ホスト』として女慣れした雰囲気を醸し出す蓮に、ショックを受けていた。

(敦賀先生…すごく真面目で熱心で、素敵な人だと思ってたのに……)



蓮の授業が必修科目で、初めて教壇に立つ彼を見た1回生のあの春から。
キョーコはその分かりやすい講義内容に、研究に熱心に打ち込む姿に感銘を受けてファンになった。

彼は容姿が恐ろしく良いが為にファンは多いが、自分は彼女達とは違う。
見た目だけで好きになるんじゃないと、キョーコは必死にアピールした。

蓮が書いた論文は学生時代のものから探し出し、穴が開くほど読み込んだ。
わからない箇所があれば、他の女子にうざがられながらも質問をし、きちんと答えを聞いた。
(他の女子の場合、質問は話をする口実でしかなかったので最後まで聞いていることがない)


なのに………

目の前に今いる男は誰だろう?
今まで憧れてきた人物の姿をした別人……ともとれるほど学内では見たことのない、オトコの色気を全面に出した『敦賀先生』だった。


その事が、キョーコの心を急速に冷やしていく。


「ところでセンセ…?手、離してくれるかしら?痛いわ……」
「ああ…ごめんね?最上さんが可愛いから、話の途中で逃げられたくなくてね…つい力が入っていたようだ。」
「あら。学内でもこんな風に女の子に迫ってたら、ホストのバイトが簡単にバレちゃいますよ…?」
「大丈夫、俺もココの出来が違う人間だからね……?」

今度は蓮が、キョーコの腕から離した右手の指で、自分のこめかみをコンコンとつついた。
やっと解放されたキョーコは、捕まれていた二の腕をさすりながらニヤリと笑う。

「御用はそれだけでしょうか?私、静かに勉強したいので失礼しますね?」


何かまだ言いたげな蓮の脇をするりと逃げ出し、閉まっていたドアを開けてさっさと教室をあとにした。



「………………何やってるのかしら、私………」

図書室へと逃げ込み誰もいないことを確認すると、空いていた一番近くの椅子へとへなへなと座り込んだ。


あの切り返しで良かったのだろうか?
『最上キョーコ』と言う人物像について、彼に完全に誤解を与えただけのような気がする。

ただ大人しく、店のママとの出会いを話せば良かったのではないだろうか……


(でも……)

恋心を抱いていた相手に、実母との関係を悟られるのは嫌だった。

身内にさえ何をやっても見向きもされない…『出来損ないの自分』だなんて、一生知られたくない。


(これでいいのよ………そう、これで……いいの)

キョーコは、自分に言い聞かせるように何度も心の中で呟いた。




震えるキョーコの体の中で、掴まれていた腕だけが今は熱い―――




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自分で展開のハードルを上げた自覚はあります。←