「ですからね!?どうして敦賀さんはすぐ交際をバラそうとするんですか…っ!」

敦賀さんの楽屋に着いてから、私はさっきの問題発言について、お弁当を手渡しながら追及する。

「だって、少しくらいキョーコ自慢してもいいじゃないか…」
「あれは自慢とは言いません!」
「そうだぞ蓮。社長に『交際宣言はまだ早い』って止められたじゃないか。」

隣にいた社さんは私の味方をしてくれる。
私は社さんの言葉に大きく頷くが、敦賀さんはますますスネスネモードに入っていった。

「それにしたって、キョーコは何故いまだラブミー部員なんですかね? 俺と付き合ってるんだから、もう卒業でいいと思うのに……」
「それは社長にも考えがあるんだろう? 言ってたじゃないか、『何事もタイミングが大事』だって。もうちょっと我慢しろよな。」

さすが社さん!頼りになるわ……

社さんはそう言うと、お弁当を持って楽屋を出ようとした。

「えっ、社さん? どちらに?」
「ラブラブな二人のランチタイムを邪魔すると、馬に蹴られて死ぬ前に闇の国の誰かさん召喚しちゃうからね……お兄ちゃんは命が惜しいのさっ。
じゃ、1時間後に戻るから~!」
「えっ、えぇ!?やしろさ~んっ!!」

社さんはあっという間に楽屋を出てしまった。
制止しようとした手が、空中で所在なさげに止まる。

(うっそ……)

「社さんも気を利かせてくれるなんて嬉しいねぇ。」

がっくり項垂れた私の背後からは、心なしかうきうきとした声が聞こえてくる。

貴方、さっきまで拗ねてませんでしたか……!?

「キョーコ、こっち来て?」

「こっちってどっち?」と思い、ちらりと後ろを見ると、椅子に腰掛けた自分の右腿をぽんぽんと叩く敦賀さん。

(き、今日もお膝抱っこですか)

2週間前の破廉恥行為を一瞬思い出して、体が強張る。

……だけど、今日は大丈夫!
メイド服じゃないもの!ツナギ着て来たもの!

絶対大丈夫!………なはず!!

それに、実は敦賀さんのお膝抱っこって意外と安心できて心地よかったりする←意外って失礼。
その心地よさを知ってしまったら、断るなんてできなくって……

「あう…あの、では、失礼します……」

ふらりと敦賀さんの側に立ち「座ります」とアピールすると、敦賀さんは私の腰をさらって右腿の上にとすんと落とした。
私の脚は敦賀さんの脚の間。
細いのにしっかりと鍛え上げられて安定感のある腿の椅子は、敦賀セラピーの香りと共に安心できる材料のひとつ。

付き合いはじめてから何度かこの体勢は経験してるんだけど……

(やっ、やっぱり慣れるなんて無理!恥ずかしいよーーっ)

腿の高さがある分、普段は同じ目線になることのない敦賀さんの顔が至近距離にあって……
こっちをじっと見てる。
もうそれだけで、羞恥心で身体中がかぁっと熱くなる。

「キョーコ? こっち見て?」

耳元で囁かれ、するすると頬から顎のラインを撫でられると、不思議な感覚に二の腕が鳥肌を立てる。

「やです。」
「どうして?」
「かっ、顔がだって近いんです…」

きっと真っ赤になってるはずの顔を見られたくなくて、一生懸命そっぽを向く。
クスクス笑いながら、敦賀さんは顎に指をかけて、くいっと自分の方に向けた。

「近いって言うのは、これくらいのことを言うんだよ?」

それは本当に近くって。
鼻先が触れそうで。お互いの吐く息が唇にかかって。

敦賀さんの本当の光彩の色が、透けて見えそうなくらいの距離。

思わずぎゅっと目をつむると、鼻先に「ちゅっ」と柔らかい何かを感じた。

「本当に可愛いね、キョーコ。」

ぱっと慌てて目を見開くと、敦賀さんはにっこり笑いつつも夜の帝王の雰囲気を纏っていて。

(あ、まずい。この流れはまたこの間の………!)


直感的に何か危険なものを感じた。




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やっぱり短編とかより、シリーズものとか長編とかの繋がりがあるものが書きやすいです。
(のわりに他更新できないでいるよね)

あああ、そうそう!
コーンバレとか面倒なので、もう告白時に蓮さんばらしちゃったことにしてます。
だって、よっぽどのことがないと恋愛拒否症のキョーコが「付き合う」とは言わなさそうで…
え、じゃあこの話はどこに向かうのかって?
まだ内緒ー☆←いや、とってもわかりやすいところへ向かってますのでご安心を。